インクの面白いところは、同じインク名なのに、メーカーによって実際の色がまったく違っているということ。以前、ブラックインクを取り上げた際、同じブラックインクでも、まったく違って見えるということはすでに検証済だ。
では、他の色ではどのぐらいの変化があるのだろうか。
ということで、今回はブルーブラックを比較してみたいと思う。
そもそも、その名前からして怪しい。
江戸っ子のぼくなんかは短気でせっかちなもんだから、「青なのか、黒なのか、はっきりしてっ!」と思ってしまうのだが、実はそれだからこそ面白い色というのもたくさんあるような気がする。
ブルーというか、ブラックというか、実に曖昧で微妙な色というのが魅力のひとつとなっているのではないだろうか。
ブルーブラックというと、その名前から、ついつい青寄りのブルーブラックか、それとも黒寄りのブルーブラックか、と思ってしまいがちだが、分析してみると、一概にそうとは言い切れないということがわかる。
では、実際にPEN HOUSEで扱っているブルーブラックインクを見ていくことにしよう。
ブルーブラックインク比較
まずは青寄りのブルーブラックはこちら。
パイロット
プラチナ万年筆
パーカー
パイロット、プラチナ万年筆、パーカーの3つのブランドの「ブルーブラック」は明るめのブルーブラックで、これは果たして本当にブラックが入っているのか?と突っ込みを入れたくなるような色合いと言えよう。
同じ青寄りでも、クロス、カヴェコ、アウロラ、ペリカンの「ブルーブラック」は濃いめの青。濃紺色といっても良いだろう。これも黒の要素はそれほど強くない気がする。
クロス
アウロラ
カヴェコ
ペリカン
次に黒寄りのブルーブラックを見てみよう。
ラミー、セーラー、ダイアミンのレジストラーズインクの「ブルーブラック」は、上記のブルーブラックと比べるとかなり黒が入っているように思われる。むしろブルーグレーといっても良いんじゃないのか?と思ってしまうのだが、ぼくはこういう色も好きだ。
ラミー
セーラー
ダイアミン
しかし、これだけで驚いてはいけない。さらに斜め上を行くブルーブラックがまだあるのだ。
まずは、ダイアミンの150周年記念の「1864ブルーブラック」。
インクのフローを見てみると、かすかに緑が入っていて、実に独特の色だ。これは中字以上のフローが楽しめる万年筆で書くと実に面白いと思う。
ヤードオレッドのブルーブラックと、、ウォーターマンの「ミステリアスブルー」は、どちらも少し緑が入ったブルーブラック。
ウォーターマン
ヤード・オ・レッド
そして、問題なのが、ステッドラーの「ブルーブラック」。
ステッドラー
これ、もう、ほとんどグレーじゃないかい?とステッドラーの関係者に詰め寄りたくなるような色。
実は、ステッドラーのインクは今まできちんと把握していなかったのだが、先日都内の文具店で行われたインクのイベントでこのインクを試し書きしたら、あまりにも面白いので、思わず買ってしまったのだ。これは色そのものが実に美しくて、特にこれからの季節にはイチオシの色だ。
番外編として、セーラーの「蒼墨」と「青墨」見てみよう。
セーラー 青墨
セーラー 蒼墨
果たして、これらをブルーブラックのカテゴリーに入れて良いのか迷うところではあるが、かといって、完全なるブルーというわけでもないと思うので、ブルーブラックとして良いだろう。いずれも耐水性に優れた特殊インクではあるが、色そのものがとても面白いので、取り扱いに注意しながら積極的に使っていきたい。
なお、ウォーターマンの「ミステリアスブルー」とパーカーの「ブルーブラック」は紙によって色の変化を楽しめるインクだ。今回使用したグラフィーロでは色の変化がはっきりと見られないが、他の紙だと書いたその日と翌日では色がまったく変わるので、いつかそういうインクについても詳しく検証したいと思っている。
<記事に登場するインク>
・パイロット ボトルインク 30ml
・プラチナ万年筆 万年筆専用 ボトルインク INK-1200 60ml
・パーカー クインク ボトルインク 57ml
・クロス ボトルインク 62.5ml
・アウロラ ボトルインク 45ml
・カヴェコ ボトルインク 30ml
・ペリカン ボトルインク 4001/76 62.5ml
・ラミー ボトルインク LT52 50ml
・セーラー万年筆 ジェントルインク リザーバー付き 50ml入り
・ダイアミン ボトルインク レジストラーズインク 30ml No.801 没食子ブルーブラック
・ダイアミン ボトルインク アニバーサリーコレクション 40ml No.702 1864 ブルーブラック
・ウォーターマン ボトルインク 50ml
・ヤード オ レッド ボトルインク 28.4ml(販売終了)
・ステッドラー プレミアム ボトルインク 30ml
・セーラー万年筆 万年筆用ボトルインク 青墨(せいぼく)
・セーラー万年筆 万年筆用ボトルインク 蒼墨(そうぼく)
この記事を書いた人
- 文具ライター、山田詠美研究家。雑誌『趣味の文具箱』にてインクのコラムを連載中。好きになるととことん追求しないと気が済まない性格。これまでに集めたインクは2000色を超える(2018年10月現在)。インクや万年筆の他に、香水、マステ、手ぬぐいなどにも興味がある。最近は落語、文楽、歌舞伎などの古典芸能にもはまりつつある。
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