世界の筆記具ペンハウス
雑誌「趣味の文具箱」連載でもお馴染みの文具ライター・武田健さんによる「読みもの」コンテンツ。総保有インク2000本超えの自他共に認める万年筆インクコレクターである武田さん。万年筆とインクを中心に、文具にまつわるお話を連載していただきます。

雅な紫に魅せられて「源氏物語」

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紫色というのは実に不思議な色である。

歴史的な面でいうと紫は高貴な色とされ、例えば日本では皇族や貴族の間で紫色の染め物は珍重されたという。それは美しい紫で染色するための原料が高価なものだったために、手に入りにくかったり、染めるのが難しかったりしたので、必然的に高貴な色とされていたようだ。しかし、紫というのは、世界的にもそういう意味合いを持っているらしく、呪術などで使われる布などや呪術師の衣装にも紫が使われることが多かった。

紫は赤と青を混ぜてできる色だが、青寄りの紫と赤寄りの紫では表情が全く異なり、さらにそこに色のトーンが加わると、色味がさらに複雑に変化する。これは紫なのか、それともピンクのカテゴリーなのか、あるいはくすんだ紫の場合は、ブルーブラックとの区別が怪しくなってくることも少なくない。

しかし、そんな幅の広さが紫系インクの魅力でもあり、今日は最近ペンハウスから発売されたそんな紫インクをご紹介したいと思う。

源氏物語の世界観を表現したインク

その魅力的な紫系インクとは、先日の東京インターナショナルペンショーでも人気だったPentの「源氏物語」だ。

雅な紫に魅せられて「源氏物語」

雅な紫に魅せられて「源氏物語」

世界最古の長編恋愛小説と言われているだけあり、その「源氏物語」から一体どの部分を色にしたのだろうか?と思ったのだが、やはり源氏物語といえば、紫というイメージもあり、紫系が代表的な色になるのだろうと容易に想像がつく。

では、次に気になるのが、「どんな紫色か」ということだ。
こってりとした濃いめの紫なのか、それとも、淡い紫なのか。
例えば、比較する例としては、パイロットの色彩雫の「紫式部」がある。これはけっこう濃いめの紫だが、明るさはないので、真正紫という感じがするし、高貴な色なので、まさに紫式部のイメージがとても強いと思ってよいだろう。

雅な紫に魅せられて「源氏物語」

雅な紫に魅せられて「源氏物語」

では、Pentから出た「源氏物語」はどんな紫なのかというと、「紫式部」とは対照的な、実に淡いくすんだ色で、これがとても美しい。

雅な紫に魅せられて「源氏物語」

コラボレーションしたのは、台湾の藍染技術を使って様々な美しいインクを作り出している藍濃道具屋(レンノンツールバー)だ。インクというのは、本当に不思議なもので、そのブランドごとに、あるいはそのブランドの中でも様々なシリーズがある場合には、そのシリーズごとに色の傾向というのが不思議と出てくるところ。

くっきりとした色合いが特徴的なシリーズのインクはどれもおしなべて色がぱきっとしているし、淡い色が得意なシリーズの色は実際に書いてみても淡い色がベースになっている。それは当たり前といえば当たり前のことなのかもしれないけれども、どの色もそれぞれ色の系統は異なるにもかかわらずトーンが似ているというのは、やはりそれだけそのインクのシリーズの世界観がはっきりしているということだし、それを見事に再現しているところがすごいのではないだろうか。

「源氏物語」と「藤富咲」との違いと共通点

同じ紫系として比較してみたいのは、同じくPentから出ている「藤富咲」。

雅な紫に魅せられて「源氏物語」

雅な紫に魅せられて「源氏物語」

こちらは日本の四季をモチーフにした色で、藤の花の紫を再現している。「源氏物語」と比べてみると、明るめの紫で、まったく違った印象を与えるのだが、どこか色に共通点があるような気がする。
それは、どちらも「和」を感じさせるところだと思う。明るい色と、くすんだやわらかい色という明確な違いがありながらも、ベースの部分では和を感じるような陰がどちらの色にもあり、そこが魅力だ。なので、この2色のインクを同時に使ってみても面白いかもしれないし、カリグラフィーペンなどでグラデーションで文字を書くときにこの2色を使ってみても面白いのではないだろうか。

前述のパイロットの色彩雫の「紫式部」も濃いめの紫でありながらも、やはり色彩雫のテーマらしい和の雰囲気を持っているために、根底にあるのは「侘び寂びの世界」で、「源氏物語」「藤富咲」との共通点も感じられるので、この3色の紫は、同じ色系統ながらも根本的な部分ではつながっているような気がする。

「源氏物語」のパッケージと解説の魅力

「源氏物語」はパッケージにも注目してほしい。実はこのパッケージは二種類あり、ひとつはペンハウスのスタッフが手掛けたイラストラベルが使用されたもの。もう一つは台湾の藍濃道具屋のスタッフが手掛けたもののふたつである。この発想がまず面白い。ぼくが選んだのは日本のスタッフが描いたものだが、解説を読むと、そのイラストのコンセプトが描かれていて、そんなところもユニークだと思った。

雅な紫に魅せられて「源氏物語」

そして、その解説書には和紙が使われており、そんなこだわりもまたインクマニアにはたまらなく嬉しい。

雅な紫に魅せられて「源氏物語」

雅な紫に魅せられて「源氏物語」

これだけ毎月のように新しい万年筆インクが続々とリリースされると、今度はインクの色そのものだけはなく、パッケージや付属品にも世界観が反映されていることが大切なのではないかと思う。
この冬はこの温かみのあるインクで、毎日の出来事をつづりながら過ごしたいと思っている。

雅な紫に魅せられて「源氏物語」

 
<この記事に登場する文具>
Pent×レンノンツールバー ボトルインク 限定色 源氏物語
Pent〈ペント〉 ボトルインク 彩時記 藤富咲(ふじふさ)
パイロット ボトルインク 色彩雫(いろしずく)紫式部
Pent×セーラー万年筆 特別生産品 彩時記 藤富咲(ふじふさ)

この記事を書いた人

武田 健
武田 健
文具ライター、山田詠美研究家。雑誌『趣味の文具箱』にてインクのコラムを連載中。好きになるととことん追求しないと気が済まない性格。これまでに集めたインクは2000色を超える(2018年10月現在)。インクや万年筆の他に、香水、マステ、手ぬぐいなどにも興味がある。最近は落語、文楽、歌舞伎などの古典芸能にもはまりつつある。
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