万年筆好きにとって、万年筆を選ぶ時の基準というのは、色々とある。
書き心地を優先する人、自分の好きなブランドにこだわる人、機能性や使い勝手を大切にする人など、自分なりの基準を設け、数ある万年筆の中から欲しいものを購入している。
さて、ぼくはというと、一番重視するのがデザインである。どんなに書き心地が良くても、デザインが自分の好みじゃないと、どうしても欲しい!という気持ちにならないのだ。その万年筆を持った時に、自分の気持ちが昂るかどうか、ぼくにとってはそれが何よりも大切。なぜなら、字を書いている間、その万年筆がずっと視界に入るわけだから、見た目というのはとても重要なのだ。もちろん、万年筆は書くことが第一の目的なので、書き心地というのはとても大切なのだが、書いている時の自分の気持ちというのもぼくは重視したいと思っている。
さて、そんなぼくが最近気に入っている万年筆がPentと大西製作所がコラボレーションした万年筆だ。
もともと大手筆記具工場に勤めていた大西慶造氏が2010年に独立し、手作りで一本一本作っている万年筆は、他のブランドにはない独特の手触りを味わうことができる。
扱う素材は、セルロイドやアセテートと呼ばれる特殊な樹脂だ。柔らかく熱に弱いセルロイドは扱いが難しいが、大西氏はすべての工程を手作業で行い、唯一無二の万年筆へと仕上げていく。
また、綿花など食物繊維で作られた樹脂を使ったアセテートと呼ばれる素材も非常に柔らかいため、削る力を調整しなければならない。その力加減が大西氏の技となる。そして、軸の表面をより滑らかにするために、いくつもの工程を経て作られる。
そのことは、実際に軸を手にしてみるとすぐにわかる。まるで手に吸い付くような感覚なのである。すべすべとした滑らかな感触で、ずっと触っていると、だんだんとその滑らかさに温かみが加わる。そこが他の素材ではあまり感じられない手触りなのだ。
ペン先はスチールだが、シュミット社のイリジウムペンを使用しているので、書き心地は滑らかでまったく引っかかりを感じない。
四つ葉をモチーフとした模様とペントのロゴが刻印された金色のリングによって、万年筆には気品が加わり高級感も漂う。
ぼくが購入したのは、「蒼穹の彗」と「沈静の煌めき 」である。まったく違ったタイプの二本の軸を、その時の気分によって使い分けている。
「蒼穹の彗」は青を基調とした色で、そこに薄いグリーンが混ざり合い、非常細かいラメが不思議な雰囲気を醸し出している。まるで空や海を思わせるような軸で、光の角度によってその雰囲気が変わってくる。ちょっとオパールっぽい輝きをたたえた万年筆だ。持っているだけで、まるで空中を浮遊しているようなそんな気持ちになる。
そして、そんな気持ちにさらに動きを与えてくれるのが、キャップに施されたスワロフスキーのきらめきだ。ダイヤモンドのようにカットされた美しい輝きを持つスワロフスキーは空から降り注ぐ日差しのようでもある。
一方の「沈静の煌めき 」は「蒼穹の彗」とは正反対の雰囲気を持っている。深みのある緑のモザイクが、まるで森の中を思わせる。
しかも、その緑も独特の変化が見られ、それがまるで森の中の泉に太陽がキラキラと反射しているようなのだ。
そして、このキャップのトップに埋め込まれているのが、スワロフスキーのブルージリコン。深みのあるブルーが、さらに森の深度を深めているような気がする。
開放的な気分にさせてくれる「蒼穹の彗」と、気持ちを静め、自分と向き合う時にふさわしい「沈静の煌めき 」は、それぞれまったく違った表情を持っているので、その時のシチュエーションや気分によって使い分けてみたい。
そして、その軸に合ったインクをみつけてみるのも楽しいだろう。
<関連リンク>
・Pent×大西製作所 万年筆 アセテート 蒼穹の彗
・Pent×大西製作所 万年筆 アセテート 沈静の煌めき
<インク>
・蒼穹の彗 = 「Pent 彩時記 藤富咲」
・沈静の煌めき =「Pent 彩時記 青緑」
<画像に写っている文具>
・ホールマーク ひとことふたこと箋
この記事を書いた人
- 文具ライター、山田詠美研究家。雑誌『趣味の文具箱』にてインクのコラムを連載中。好きになるととことん追求しないと気が済まない性格。これまでに集めたインクは2000色を超える(2018年10月現在)。インクや万年筆の他に、香水、マステ、手ぬぐいなどにも興味がある。最近は落語、文楽、歌舞伎などの古典芸能にもはまりつつある。
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