ここ連日、5月とは思えないほどの猛暑が続き、果たして梅雨明けの日本は一体どんなになってしまうんだろう?と戦々恐々としている日々。
湿度が大の苦手なぼくにとって、東京の夏は肉体的にも精神的にもしんどい。でも、夏の雰囲気だとか夏の風物詩とかは大好きなので、困ったところ。
せめて、持っているものや、ノートに文章を綴る時に使うインクや万年筆で何とか暑さをやり過ごしたいと思っている。
そこで、そんなぼくがこの夏、皆さんにお勧めするインクをシチュエーションごとにまとめてみた。
清涼インク
まずは、ぼくが一番求めている涼しさを感じるインクをご紹介しよう。とにかく、書いているだけで、爽やかで気持ちの良い風を感じるような色を選んでみた。
ラミー/ターコイズ
まずは、ラミーの定番インクであるターコイズ。例えば人にお勧めのターコイズインクは?って聞かれたら、この色を真っ先におススメするくらい気に入っている。舶来のインクで、ターコイズと名のついたインクはいくつか出ているけれども、その中でも一番オーソドックスで無難なターコイズブルーなのではないだろうか。夏のさわやかな空や海を彷彿とさせる色は、清涼インクとして最適。
エルバン/カランクブルー
昨年エルバンのトラディショナルインクに追加された新色のうちのひとつ。エルバンには他にミントグリーンという、名前からして夏っぽいインクがあるのだけれども、判読性が低いのが玉にきず。ところがこちらのカランクブルーはしっかりと判読できるターコイズインクなのでおススメだ。ちょっとマットな感じもするけれども、そこもまた良い。
ダイアミン/スティールブルー
こちらも毎年夏になると必ず万年筆に吸わせて愛用しているインクのひとつ。上記の2色に比べると、かなり緑が強いターコイズインク。珊瑚礁の海を思わせるところもあるし、夏の空を想起させるような色でもあり、その微妙なグラデーションにぼくのこころは沸き立つ。涼し気な中に、青と緑のどっちつかずの不思議な雰囲気が宿り、何とも言えない魅力をたたえた色だと思う。
藍濃道具屋/浅葱
パッケージからしておしゃれな、台湾のブランド藍濃道具屋のインクの一つ。かなり薄目の青だけれど、薄いからこそ涼しさをより感じることができるのではないだろうか。長文を書くよりも、手書きツイートなどの短文で書くのがベストだと思う。文字でより涼し気な雰囲気を演出するにはぴったりの色なのではないだろうか。
自然を感じたい時
夏休みを利用して自然を満喫したいという人もいるだろう。夏は冬と比べると野外活動が活発になる時期でもあるので、自然と触れ合う機会も増える。ぼくは海好きなので、夏と言えば海!つまり夏と言えばターコイズブルー!と短絡的に考えてしまいがちだけど、夏に触れたくなる自然は他にもたくさんあるので、そんな自然に触れる時に使いたいインクをまとめてみた。
ダイアミン アニバーサリーコレクション/トロピカルグリーン
海だけではなく、山や高原などにでかける人も多いだろう。そんな時の記録に使ってみたいのが、こちらのトロピカルグリーン。トロピカルなので、ネーミングとしてはジャングルのイメージ。まさに濃い緑色は南国のジャングルに生えている木々の、みずみずしい緑を彷彿とさせていて、気持ちよい。こんなインクで文字を書いたら、気分もリフレッシュするんじゃないかと思う。
エルバン/インディアンオレンジ
海辺の夕焼けを思わせるインク。夏になるたびに夢見るのは、海辺のカフェで夕焼けを見ながら、ノートに向かうこと。その日に起こった出来事、今感じていること、思っていることなどを徒然にノートに綴ってみたい。なかなかそういう時間を持つこともできないし、そういうシチュエーションに自分の身を置くことはできないけれども、このインクで少しでもそういう気分を味わいたいもの。
モンテベルデ/ムーンストーン
夏と言えば天体観測!という人も多いのではないだろうか。ぼくも、10年ほど前サイパンに行った時、現地の日本人ガイドさんに連れられて夜空を見に行ったことがある。まさかサイパンであんなに満点の星空を見られるとは思わなかったので、すごく感動した。そんな天体観測のことを記録するのにちょうどぴったりなのがこちらのムーンストーン。モンテベルデのジェムコレクションという宝石をモチーフにしたインクで、月の表面のような石の色を見事に再現していて、とてもロマンティックなインクだと思う。
パイロット/色彩雫 月夜
先日のぼくが出演したテレビ番組にも登場したパイロットの色彩雫の「月夜」も外せない。これは特に夏に限らず、一年を通しておススメのインク。色そのものは、落ち着いたブルーブラックなんだけれども、そこに「月夜」という名前が付けられただけで、そのインクに風景だとかストーリーが宿るような気がする。そして、そんなストーリーを自分の中で想い描きながら文章を綴る贅沢さを是非多くの人に味わってもらいたい。
ウォーターマン/ミステリアスブルー
定番インクとして有名なインク。お値段もお手頃だし、使い勝手も良いので、ファンも多いのでは? ミステリアスブルーということで、何がどうミステリアスなのかというと、インクの色が変わるから。書きたての時は濃紺色なのだけれども、紙によってはそれが少しグレーっぽく変色するのである。え?こんな色だったっけ?と驚くこともしばしば。夏の夜のミステリーにぴったり?なんて思ってしまって、通年で使えるインクだけれども、ミステリー=夏ということで、意識して使って欲しいなと思ってリストに挙げてみた。
カヴェコ/セピア
夏の思い出を綴りたいと思ったら、このカヴェコのセピアは最適。セピア色というのは、何となく昔のことを思い出させるのにちょうど良い色なのではないだろうか。懐かしい気持ちになったり、なじみの色にホッとしたりすることも多いはず。だから、例えば一日の終わりにこのインクでその日に起こった出来事を記すと、気持ちも落ち着くと思う。
ペアで使いたいインク
さて、ここからは2色をペアで上手に使い分けてみては?という提案。もちろん、単体でも良いのだけれども、うまく2つの異なる色味、違うストーリーを持ったふたつのインクを組み合わせることで、より思い出が印象付けられるような気がする。
Pent/彩時記 向日葵
日本の四季をモチーフにしたPentのオリジナルインクシリーズの彩時記。この向日葵は黄色系ながらも、かなり濃いので、判読性もあり、使い勝手がとても良い。鮮やかな色で、目に留まる。イメージとしては昼間の太陽の下。ぱっと開けた向日葵畑。開放的な気持ちになった時、楽しいことがあった時などに使うと良いと思う。
Pent/彩時記 夏天
一方こちらはがらりと違った夏を象徴するような色。大地いっぱいに咲く向日葵の真上にこんな夏の青空が広がってたら素敵なんじゃないだろうか。だから、ペアで使うと、さらにこのインクの魅力が倍増すると思う。
セーラー/四季織 十六夜の夢 土用
セーラーの夏をイメージしたインクのうちのひとつ。土用の丑の日らしい、鰻を思わせる色。黒なんだけど、ちょっと紫がかっていて、そこが何となく夏のじりじりと太陽を受けて光るアスファルトっぽい雰囲気もあり、非常に面白いインクだと思う。黒でありながら、完全な黒じゃないところがこのインクの魅力なのではないだろうか。黒は暑苦しく感じるので、夏は避けたくなるけれども、この黒は夏だからこそわざわざ使いたい黒なんだと思う。
セーラー/四季織 月夜の水面 夜焚
一方、こちらのインクは正反対の赤。しかも、夏の漆黒の夜空に映えるような燃えるような赤をイメージしている。篝火という感じだろうか。そこがこのインクの魅力で、「土用」の黒と一緒にセットにして使うと、くっきりとした夏の残像を残すことができるような気がする。例えば、ノートの左ページが「土用」、右ページが「夜焚」というようなイメージ。
以上、全14色がこの夏ぼくが特におススメするインクだ。ぼく自身も、夏の暑さをこれらのインクで乗り切りたいし、夏の思い出をこのインクで書き綴っていきたいと思っている。みなさんもぜひ、お試しあれ!
<この記事に登場する万年筆インク>
・ラミー/ターコイズ
・エルバン/カランクブルー
・ダイアミン/スティールブルー
・藍濃道具屋/浅葱
・ダイアミン アニバーサリーコレクション/トロピカルグリーン
・エルバン/インディアンオレンジ
・モンテベルデ/ムーンストーン
・パイロット/色彩雫 月夜
・ウォーターマン/ミステリアスブルー
・カヴェコ/キャラメルブラウン(セピア)
・Pent/彩時記 向日葵
・Pent/彩時記 夏天
・セーラー/四季織 十六夜の夢 土用
・セーラー/四季織 月夜の水面 夜焚
この記事を書いた人
- 文具ライター、山田詠美研究家。雑誌『趣味の文具箱』にてインクのコラムを連載中。好きになるととことん追求しないと気が済まない性格。これまでに集めたインクは2000色を超える(2018年10月現在)。インクや万年筆の他に、香水、マステ、手ぬぐいなどにも興味がある。最近は落語、文楽、歌舞伎などの古典芸能にもはまりつつある。
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