万年筆の面白さは選択肢の多さにあり!
万年筆を買う時、ぼくたちは様々な選択肢を迫られることになる。
まずは見た目。
軸の色や形、持った時に視界に入った時の佇まい、といった外見的な要因が最初に重要な条件となるだろう。
しかし軸が決まったからといって、それだけで安心してはいけないないところが万年筆の面白いところ。
もう一つ大切なのが字幅。
これがボールペンやシャープペンのような筆記具だったら、字幅は比較的限られているので、それほど悩まないだろうが、万年筆は字幅によって文字の表情がまったく変わってくるし、好みにも左右されるので、慎重に選ばなくてはならない。
ぼくが万年筆にはまったのは8年ほど前のことなのだが、その時はとにかくそのインクのフローがあまりにも楽しくて仕方がなかったので、ほとんど中字以上を好んで使っていた。海外のブランドでも太字重視で使っていたのは、この濃淡こそが万年筆の楽しみだと思っていたから。
ところが、2~3年たつと、だんだんと細字の魅力にも気づき始めた。ほぼ日手帳やトラベラーズノートのリフィルなどに書く時は、どうしても太字だと限界を感じるようになってきて、そうなると、やはり細字が書きやすいように思えて、今度は細字を中心に万年筆を集めるようになってきた。
そして、万年筆を使い始めて8年たった今では、自分でも一体どの字幅が好きなのかわからなくなってきて、万年筆を買うたびに、悩んでしまうのだ。字幅の選択が少ない場合にはそれほど悩まないのだが、字幅の選択が多くなると、実に困る。
そこで、今回はその万年筆の字幅について考察してみたいと思う。国産万年筆と、舶来万年筆とでは、同じ名称の字幅でも、微妙に太さが違ってくるし、メーカーによっても異なるので、今回はPentでオリジナル万年筆を数多く出しているセーラー万年筆の字幅を考察することにした。
セーラー万年筆の字幅比較
セーラー万年筆のスタンダードなペン先は全部で7種類ある。極細、細字、中細、中字、太字、ズーム、ミュージックだ。それぞれ、太さがまったく違ってくるので、自分の用途に合った字幅を選びたい。
すべてのセーラー万年筆にこれらの字幅が揃っているわけではないし、店舗の限定品でも字幅が限られているものもあるので、どの万年筆にどの字幅が揃っているのかは各々確認する必要があるが、基本的にこれらの7種類の字幅を頭に入れておけば、万年筆を選択する際の参考になるだろう。
セーラー万年筆の7種類のペン先の中で最も細いのがEFだ。
実は正直に告白すると、ぼくは個人的にはあまりEFは好みではない。確かに日本語の場合、画数の多い漢字を書くことも多いので、手帳などに記す際にはこのぐらいの細さが良いのだが、インクが均一に出るために、インクの濃淡を楽しむことができない。それだったらわざわざ万年筆を使わなくても、良いではないか?ボールペンで代用できるではないか?という気がして、前述した通り、最初のころはほとんどEFを使わなかった。
ところが、最近はEFの魅力というのにも気づき始めた。確かにインクのフローは太字と比べるとはっきりとは出てこないが、何よりも様々な手持ちのインクを極細字でも楽しむことができるのが嬉しい。また、それによって手帳も彩り豊かになるのだから、そこがEFの万年筆を使う醍醐味なのではないか、という気がしてきたのだ。
それに、一見均一に見える字でも、良く見るとかすかに濃淡は出ているし、はっきりと認識しないまでも、万年筆らしさというのは細字でも感じられるので、ボールペンとは違った味わいがあるから、やはりEFでも十分万年筆らしさを楽しめるということもわかった。
では、インクのフローがぱっと見で明確にわかるのは一体どの字幅からなのだろうか。
ぼくの検証によれば、だいたい中字のMぐらいからインクの濃淡がはっきりとわかってくるのではないかと思う。EF~MFは文字によっては、あるいはインクによってはかすかに濃淡が出てくるが、そんなにはっきりとその濃淡が出てくるという感じはしない。
ところが、Mになると見ただけですぐに「あ、これは万年筆で書いたな」ということがわかる。
最近特にぼくが気に入って使っているのが太字タイプのBニブだ。インクのフローを楽しむこともできるし、比較的細かい文字も書ける程よい太さがBなのである。
ぼくは飾り原稿用紙やふたふで箋を良く使うのだが、それらの用紙に最適なのが、この太字のBだ。マス目にちょうど収まりが良く、そんなに文字がつぶれないぎりぎりの太さといったところか。
万年筆を立てて使うと細めの文字が書け、倒し気味に使うと太い字が書ける少し変わったペン先のズームや、本来は楽譜用に作られた縦の線は太く、横の線は細く書くことができるミュージックという少し変わった字幅があるのもセーラー万年筆の面白いところ。
しかし、この二本に関しては、手帳ではまず使うことができない。でも、ニュアンスのある文字を書くことができるので、ぼくはこれらの万年筆は手書きツイートなどで使うようにしている。大きな文字を書きたい時などには最適なので、ハガキを書く時などに使うことも多い。
ペン先を見てみよう!
では、次に、実際にペン先が字幅によってどう違って見えるのかを検証してみたいと思う。
ぼくが所有しているPentオリジナルは全5本なのだが、5本ともニブが違うので、それらを比較してみたい。
こうして並べてみると、明らかに細字と太字ではそのペン先からして太さが違っていることがわかる。
特に細字のFと中字B、ズームZでは、まったく違っていて、この違いが字幅を決めるのだなというのが良くわかる。
自分に合った字幅をみつけてみよう
このように、万年筆の字幅というのは、バラエティ豊かなので、ぜひ、色々な場面で使い分けることをお勧めする。万年筆を購入する際も、この軸はどんな場面で使いたいか、どういう用途で使うことになるだろうか、ということを考えながら字幅を選ぶと良いだろう。それがまた万年筆への愛着を深めるきっかけになるのではないかと思う。
<この記事に登場する万年筆>
・Pent×セーラー万年筆
この記事を書いた人
- 文具ライター、山田詠美研究家。雑誌『趣味の文具箱』にてインクのコラムを連載中。好きになるととことん追求しないと気が済まない性格。これまでに集めたインクは2000色を超える(2018年10月現在)。インクや万年筆の他に、香水、マステ、手ぬぐいなどにも興味がある。最近は落語、文楽、歌舞伎などの古典芸能にもはまりつつある。
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