画期的なマーカーの誕生
日本の万年筆用のインクで最も多くの色を出しているのがセーラー万年筆だ。シリーズものの四季織シリーズだけでも20色、さらに昨年はそれにインク工房の100色が加わり、顔料系のSTORiAシリーズの8色、昔からあるブルーやブラックなどを合わせると定番インクだけでも130色以上もある。さらに、日本のご当地インクのほとんどがセーラー万年筆によるものなので、その数は軽く200色は越えてしまうのではないかと思う。
そんなセーラー万年筆から昨年、なかなか面白いマーカーが登場した。それが、四季織マーカーだ。
最初、このマーカーが発売された時、正直に言うと、ぼくはあまりピンとこなかった。すでに万年筆のインクは持っているし、普段は万年筆ばかりを使っているから、マーカーを使うことはないし、自分にはあまり縁のない筆記具だろうなと思っていた。
ところが、いざ商品を見てみると、万年筆とは違う魅力を感じ、さらに万年筆のインクを別の用途でも使うことができるのは、ある意味画期的なことなのじゃないか、という気がした。
万年筆のインクだと、どうしても使う用途は限定されがちになってしまう。それに、世間一般的には万年筆を持っていない人の方が多い。そういう人たちにも、マーカータイプで万年筆のインクと同じ色を楽しんでもらうことができる。そういう意味で画期的な筆記具なのだ。
ただ、あくまでもこのマーカーの色は、万年筆用インクの色味を再現しただけであり、実際の万年筆用のインクとは成分が異なっているので、その点だけは留意した方が良いだろう。
二つのタイプの筆致を味わえる
四季織マーカーは、ツインタイプになっており、一本で筆タイプと細字タイプを楽しめるところが大きな魅力だ。
年末に発売されたので、年賀状やカードを書く時などに使いたいと思った人も多いだろう。万年筆と併用して、大きな文字は筆タイプのマーカーで、私信は細字で書き、イラストは万年筆で描くというように使い分けることもできる。
四季織は日本の四季の色がコンセプトになっているので、違った色味でも統一感がある。だから、まったく違った色であっても、同じシリーズで書くと自然とまとまりが良くなるのだ。
それを万年筆と、マーカーという違った筆致で表現できるのは、インク好きにとっても嬉しいし、それまで万年筆までは手が出せなかったけれども、万年筆のインクは使ってみたいと思っていたから、まずは好きな色をマーカーで使ってみてから万年筆に挑戦しようという人も増えてくるかもしれない。
日本の四季を彩る色たち
では、具体的にどんな色なのかを四季ごとにみてみたい。
春は「若鶯」「桜森」「匂菫」「海松藍」「夜桜」で、いずれも春らしい彩りが美しい。
夏の色は「蒼天」「藤姿」「土用」「利休茶」「夜焚」。青系のインクから赤系のインクまで実に多彩で、面白い。
秋の5色は「金木犀」「山鳥」「仲秋」「奥山」「夜長」。秋らしい落ち着きのある色だけではなく、「金木犀」のような明るい色もあり、そこが面白い。
冬のマーカーは「囲炉裏」「時雨」「雪明」「常磐松」「霜夜」の5色。
全20色の色を見てみると、日本の四季というのは彩り豊かで、日本人が色彩に敏感なのは、こういう四季の自然と常に向き合ってきたからなのではないかなぁと思う。このマーカーはそういうことを再発見できるツールなのではないだろうか。
コロリアージュに最適
ところで、ぼくは趣味でコロリアージュ(大人のおしゃれな塗り絵)をたまにやっているのだが、この四季織マーカーはそのコロリアージュに最適なことがわかった。なぜなら、筆ペンと細字を一本で使い分けることができるので、簡単に塗り分けられるのだ。
たとえば、面積の広い部分を塗る時はふでペン部分を使い、細かい部分は細字部分を使うというような感じで使っていけるのだ。
コロリアージュを万年筆でやろうとすると、紙によっては破けてしまったり、万年筆に紙の繊維が詰まってしまったりしがちだが、マーカーだとその心配がないので、気にせずにきれいな色を塗ることができる。
四季織マーカーは、万年筆とお揃いでいろいろな用途で使うことができるので、今後、あちこちで使う機会が増えそうで楽しみだ。
<記事に登場する文具>
セーラー万年筆 四季織マーカー
この記事を書いた人
- 文具ライター、山田詠美研究家。雑誌『趣味の文具箱』にてインクのコラムを連載中。好きになるととことん追求しないと気が済まない性格。これまでに集めたインクは2000色を超える(2018年10月現在)。インクや万年筆の他に、香水、マステ、手ぬぐいなどにも興味がある。最近は落語、文楽、歌舞伎などの古典芸能にもはまりつつある。
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