万年筆は心と体を癒すための、ちょっとした魔法の筆記具だとぼくは勝手に思っている。
ちょっと大げさに聞こえるかもしれないけれども、実際に持っているだけで、心が落ち着くし、前向きな気持ちになれる気がする。
他の筆記具にはない特別感が万年筆にはあると思う。物によっては他の筆記具よりも高価だし、なかなか手が出せない価格帯のものも少なくない。しかし、だからこそ、特別感がそこに生まれるのではないだろうか。
手にしただけで、何となく背筋がぴんと伸びるような感覚が万年筆にはあるのだ。
そして、さらにその万年筆には、その人のツボを刺激する様々な要素を持っている。それは例えば色であったり、デザインであったり、模様であったり、あるいは書き心地であったりする。基本的な形は変わらないのに、こんなにも様々な万年筆が世に溢れていることを知るとびっくりしてしまうが、それだけ人の好みというのは千差万別なのである。
前にも書いたが、ぼくの場合のツボはラメ、マーブル模様、そしてターコイズ色を中心とした青系の万年筆である。
最近Pentから発売された彩時記シリーズの新作万年筆「風花」は、まさにそんなぼくのツボをいくつも押してくれる要素を持った万年筆だ。
大胆なラメ
彩時記シリーズの万年筆は、同シリーズのインクの色からインスパイアされたもので、すでに「黎明」「桜」「青緑」「幻蒼海」「琥珀」「藤富咲」の6本がリリースされており、今回が7本目となる。
インクの方はとてもまさに風花を思わせるような淡くてはかなげな色なのだが、その色に合わせて作られた今回のこの万年筆も、優し気な色合いでありながらも、この時期にぴったりの涼しさも感じられる万年筆だ。
そして、そこに施されているのがこのシリーズの大きな特徴である大胆なラメだ。
ラメにもいろいろな種類があり、前回ご紹介したペリカンのブルーデューンは細かいラメが特徴的だった。しかし、この彩時記シリーズは見てすぐにわかるようなラメが施されている。そして、良く見るとそのラメの色も均一ではないところが実に面白い。青や緑、金、銀といった色とりどりのラメが散りばめられているのである。
その大きめなラメは、一本のシンプルな軸を立体的に見せる役割を果たしている。色が均一ではないからこそ、様々な角度から見るのが楽しいし、それによって、手元が華やかに彩られる。
風花は夏にも最適な色
風花とは、冬の寒い時期に、風に乗ってどこからともなく漂ってくる雪のことをいうので、季節的には冬のイメージである。逆に、だからこそ、この暑い夏にぴったりの万年筆となるのではないだろうか。
最近SNSで「冷やし万年筆」という言葉を見るようになった。これは、暑い夏の時期に少しでも視覚的に冷やされたいという想いから生まれた言葉だと思うのだが、この風花はまさにそんな「冷やし万年筆」にぴったりなのではないだろうか。
この「風花」の万年筆を見ていると、不思議と様々な印象を抱く。まずは、その涼し気な佇まい。色そのものが淡いミント色なので、「涼しい」という印象をまずは抱く。
しかし、面白いのは色の印象がそれだけではとどまらないということ。涼しいだけではなく、温かみも感じられるのだ。そこが他の万年筆にはない大きな特徴なのではないだろうか。
風花というのは、実際には雪の一種なので、色的には白だが、白い万年筆インクというのは作ることができないので、彩時記シリーズの「風花」は、もし色をつけるとしたら、こういう色だろうというイメージの世界なのだと思う。その雰囲気が単に涼し気なだけではなく、温かみというのもの感じさせるものになっているとぼくは思う。
夏を楽しむための万年筆
日本は全国的に連日真夏日が続いており、まず人と挨拶する時も必ず「暑い」という言葉が出てきてしまう。しかし、いくら「暑い、暑い」と嘆いたところで、この暑さが和らぐわけではない。「暑いのが大嫌い!」と天候に文句を言ったところで(そしてそういう文句を言う人はたいてい冬になると「寒いの大嫌い!」という傾向にある)、何も解決しない。
だったら、逆にこの暑さを味方にしちゃった方が良いではないか。暑さをどうやってしのぐことができるかを考えた時、この「風花」に涼し気なインクを入れて相乗効果を楽しんでみたい。
ぼくは早速コトバノイロ「潮騒」を入れてみた。
これだけで体感温度がほんの少しだけ下がった気がする。
残りの夏、熱中症に気を付けつつ、万年筆で涼をとることにしよう。
<この記事に登場する文具>
・Pent×セーラー万年筆 特別生産品 彩時記 風花(かざはな)
・Pent ボトルインク 彩時記
・Pent〈ペント〉 ボトルインク コトバノイロ 潮騒(しおさい)
この記事を書いた人
- 文具ライター、山田詠美研究家。雑誌『趣味の文具箱』にてインクのコラムを連載中。好きになるととことん追求しないと気が済まない性格。これまでに集めたインクは2000色を超える(2018年10月現在)。インクや万年筆の他に、香水、マステ、手ぬぐいなどにも興味がある。最近は落語、文楽、歌舞伎などの古典芸能にもはまりつつある。
最新の投稿
- 2020年9月18日武田健のHAPPY INK TIMEコトバノイロ「人間失格」は心の闇に寄り添った色
- 2019年11月7日武田健のHAPPY INK TIME雅な紫に魅せられて「源氏物語」
- 2019年11月1日武田健のHAPPY INK TIME短い秋を彩るインクたち ~レンノンツールバー 2019年秋季限定色~
- 2019年10月23日武田健のHAPPY INK TIME東京インターナショナルペンショー2019レポート