世界の筆記具ペンハウス
雑誌「趣味の文具箱」連載でもお馴染みの文具ライター・武田健さんによる「読みもの」コンテンツ。総保有インク2000本超えの自他共に認める万年筆インクコレクターである武田さん。万年筆とインクを中心に、文具にまつわるお話を連載していただきます。

初心者のための万年筆講座~国産万年筆編

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テレビで万年筆インクが取り上げられるようになったせいなのか、最近、身の回りで万年筆を使ってみたいという人の声をしばしば聴くようになった。しかし、使ってはみたいものの、まだまだ「万年筆は敷居が高い」「どうやって使ったら良いのかわからない」という声も多い。

万年筆にすでになじみのある人にとっては当たり前のことが、実は万年筆を使ったことのない人にはまったくわからないことだということもある。

そこで、今回はそんな万年筆をこれから使いたいけれども、万年筆をどうやって使ったら良いの?という人のために初心者のための万年筆講座を開いてみたいと思う。

カートリッジとコンバーターの違い

初心者のための万年筆講座~国産万年筆編

万年筆を持ったことがないけれども、なんとなく万年筆のことは知っている人にとって気になるのは、やはりインクをどうやって万年筆で使うか、ということだと思う。

万年筆の良いところは、1本の万年筆で様々なインクを使えること。しかし、その時に気を付けなくてはならないこともたくさんある。

万年筆にインクを補充するやり方はいくつかあるが、代表的なものが、万年筆にカートリッジやコンバーターと呼ばれるものを装着するという方法だ。それぞれの違いについて最初にご説明したい。

カートリッジ~気軽に万年筆を使いたい人向け

カートリッジとは、すでにインクが充填された状態で、持ち運びができるタイプのものだ。小さな筒状のものにインクが入っていて、筒の両端がきちんと密閉されている。その片方を万年筆の首軸の部分に差し込み、穴をあけて、そこからインクがペン芯に伝わるような仕組みになっている。

初心者のための万年筆講座~国産万年筆編

このカートリッジタイプの便利なところは、何と言っても携帯性だろう。例えば、今使っているカートリッジが外出先などでなくなっても、同じ色のインクが入ったカートリッジさえ持っていれば、差し替えてすぐに使うことができるのである。

初心者のための万年筆講座~国産万年筆編

しかし、カートリッジタイプにもデメリットはある。それは、色数が圧倒的に少ないということ。各万年筆メーカーから万年筆インクのカートリッジは出ているのだが、ボトルのインクと比べると色数が少ないし、たとえば今話題のご当地インクに至っては、カートリッジを扱っているところは皆無だ。

なので、最初は慣れるためにカートリッジを使うのも良いかもしれないが、だんだんと万年筆に慣れてきて、いろいろなインクを使いたいと思うようになったら、もっと色々なインクを使うことができるコンバーターを選んでみよう。

コンバーター~インクをたくさん使いたい人向け

カートリッジに対してもう一つ万年筆でインクを楽しむ方法がある。それがコンバーターだ。これは、インクを貯蔵するタンクのようなもので、タンクのお尻の部分につまみがついており、そのつまみを回してインクを吸い上げて使う。

初心者のための万年筆講座~国産万年筆編

すでにインクが充填されているカートリッジはペン芯に直接カートリッジを差し込んで使うのだが、コンバーターは最初は空の状態でペン芯に挿し、つまみを回してピストンを一番下まで下げてからペン先をインクのボトルに入れ、今度はつまみを反対に回してピストンを引き上げてインクを万年筆に挿したコンバーターに吸い上げる。

これならば、空のコンバーターを使って、自分の好きなインクをボトルから吸い上げることができるので、カートリッジにないインクでも自由に使うことができる。

初心者のための万年筆講座~国産万年筆編

上の写真は水をインクに見立てて、コンバーターで水を吸い上げる様子を撮影したものである。ボトルの底にペン先を付けないように気を付けながら、このように首軸までインクにつけ、つまみを引き上げてインクを吸い上げれば、少しずつインクがコンバーターに吸いあがってくる。

最初どうしてもペン芯にインクが浸透するまでに時間がかかり、空気が上に押しあがって、インクが完全にコンバーター内に入らないこともあるが、その際はもう一度つまみを押し下げて再度引き上げれば、インクはきちんとコンバーターにフル充填されるので、焦らずにインクを入れるようにしよう。

そして、この作業がとても楽しくなれば、もう万年筆は何も怖くなくなるはずだ。

ただ、コンバーターにも不便な点があり、インクを入れ替える時などはきちんと洗浄をしなくてはいけない。インクは同じメーカーであっても他の色のインクと混ぜると、そのことで万年筆に不具合を起こすことがある。そうなると、例えばペン芯の中でインクが固まってしまったり、ペン芯を腐食させてしまったりする可能性も出てくる。

なので、インクを替える時はコンバーターとペン芯の部分を洗浄して、インクを抜かなくてはならない。その点がコンバーターの面倒なところである。

なお、一部の小さいサイズの万年筆以外はほとんどの万年筆がカートリッジとコンバーターの両方を使えるようになっている。例えば、PEN HOUSEの商品ページには万年筆の詳細なスペックが掲載されいているのだが、その項目の中に【機構】というのがある。そこに「カートリッジ/コンバーター両用式」と書かれていたら、それはどちらでも使えるということだ。

カートリッジとコンバーターはメーカー純正品を使うこと!

ところで、このカートリッジとコンバーターを使う際に注意しなくてはならない点がある。それは、どちらも必ずメーカーの純正品しか使えないということ。

初心者のための万年筆講座~国産万年筆編

初心者のための万年筆講座~国産万年筆編

初心者のための万年筆講座~国産万年筆編

初心者のための万年筆講座~国産万年筆編

初心者のための万年筆講座~国産万年筆編

初心者のための万年筆講座~国産万年筆編

パイロットの万年筆にはパイロットの万年筆用のカートリッジとコンバーターしか使うことができない。他のメーカーも同じことだ。つまり、セーラー万年筆の万年筆にパイロットやプラチナ万年筆のコンバーターやカートリッジを挿すことはできないのだ。その点は注意して、使う万年筆に準ずるカートリッジやコンバーターを使うようにしよう。

番外編~吸入式

さて、実は万年筆にはもう一つ、別のタイプのインクの楽しみ方がある。それが吸入式と呼ばれるもの。ただ、初心者用の国産万年筆のほとんどにはその機構は付いていないので、参考までに覚えていて欲しい。

吸入式というのは、万年筆の本体そのものにインクタンクが内蔵されていて、カートリッジやコンバーターを使わなくても直接万年筆の内部にインクを吸入し、書くことができる。これだとカートリッジやコンバーターに比べるとインクタンクも大きいので、たっぷりとインクを楽しむことができるという利点がある。

初心者のための万年筆講座~国産万年筆編

おすすめの初心者向け万年筆

では、早速、日本の代表的な万年筆メーカーごとに、初心者におすすめな万年筆をいくつかご紹介したい。
初めて万年筆を購入する時、多くの人が心配するのは、やはり、「せっかく万年筆を買っても、果たしてその後、自分はその万年筆を使いこなしていくことができるだろうか?」ということだと思う。

一番の理想は、やはり最初から少し高価な万年筆であっても、その書き味に魅了されて、それから少しずつ万年筆の楽しさを味わっていく、という流れなのだが、そうはいっても、いきなり最初から高価な万年筆を使える自信がないというのも事実だ。

であれば、最初は、お試しという感覚で万年筆を使っていただきたい。なので、ここではお試しで使えそうな価格帯として定価5000円未満の万年筆をご紹介していきたいと思う。

プラチナ万年筆

初心者のための万年筆講座~国産万年筆編

国産万年筆でもっとも安い価格帯の万年筆を出しているのが創立100周年という歴史を持つプラチナ万年筆だ。

プレピー

初心者のための万年筆講座~国産万年筆編
プラチナ万年筆「プレピー」

なんと、プレピーというシリーズは300円(細字と中字)、400円(極細)という安さだ。ペン先はステンレスペンで、基本的にカートリッジ専用で使うことが前提となっている。

とにかく価格が安いので、万年筆というのはどんなものなのか、を試すのにはぴったりの超初心者向けといって良いだろう。書き味もステンレスながら滑らかだし、字の幅も極細、細字、中字と選べるだけではなく、キャップの色も写真の透明なものだけでなく、色付きのものも豊富なので、選ぶ楽しみを味わえる。

プレジール

初心者のための万年筆講座~国産万年筆編
プラチナ万年筆「プレジール」

プレジールはもうワンランク上の万年筆だ。それでも1000円という破格の価格だ。メタリックカラーの色展開といい、書きやすさといい、値段の割りにとてもバランスの良い万年筆と言えるだろう。プレピーと比べると、軸の素材がメタリックなだけあり、少し高級感もあるし、色展開も全12色なので、ファッションに合わせても良いだろう。

パイロット

初心者のための万年筆講座~国産万年筆編

万年筆だけではなく、大ヒット中の消せるボールペン、フリクションボールといった幅広い文房具をリリースしているのがパイロットだ。

カクノ

初心者のための万年筆講座~国産万年筆編パイロット「カクノ」

そのパイロットから出た初心者向き万年筆で画期的なのがカクノだ。パステル調のキャップといい、笑顔が描かれたペン先、持ちやすい六角形のグリップ、3本の指にぴったりと合うグリップなど、様々な個所に初心者万年筆ならではの工夫がされている。また、キャップの色も透明なもの、限定色などもあって、これもまた収集心をくすぐられる。

初心者のための万年筆講座~国産万年筆編

初心者のための万年筆講座~国産万年筆編

コクーン

初心者のための万年筆講座~国産万年筆編
パイロット「コクーン」

繭のような独特のフォルムが実に現代的で、かっこいいコクーンも個人的にお勧めしたい万年筆だ。メタリックな素材で、さらにカラーバリエーションもあり、何よりも形そのものがシンプルでありながら独創的で、根強いファンも多いほど。ぼくも、初めてこの万年筆を見た時は、あまりの形の良さとスムーズな書き味に驚いた。都会的で、洗練された万年筆なので、プレゼントにも最適だろう。

プレラ

初心者のための万年筆講座~国産万年筆編パイロット「プレラ」

プレラは2タイプあり、ひとつは不透明なタイプの3000円の「プレラ」だ。こちらは、全9色展開で、ペン先は細字と中字が用意されている。もう一方は「プレラ 色彩逢い(いろあい)」というシリーズで、こちらは軸が透明でキャップと軸のお尻部分に色が入っているというこれまた非常におしゃれな万年筆である。こちらの字幅が、細字と中字の他にカリグラフィを選ぶことができて、初心者だけど、万年筆の筆致の面白さを体感したいという人には最適だ。

カヴァリエ

初心者のための万年筆講座~国産万年筆編パイロット「カヴァリエ」

特に軸が細めなので、手の小さい女性におすすめなのが、カヴァリエというシリーズ。色もブルーやピンクといった、柔らかい色が中心。スタイリッシュに持ち歩くことができる。

セーラー万年筆

初心者のための万年筆講座~国産万年筆編

セーラー万年筆はとにかくインクの数が豊富。定番品だけでも120色以上あり、日本のご当地インクのほとんどがセーラー万年筆製というくらいインクに力を入れている。さらにそれだけではなく、万年筆のバリエーションも多く、若い人に人気のシリーズやお店の限定万年筆などにも力を入れいている万年筆メーカーだ。

ハイエースネオ

初心者のための万年筆講座~国産万年筆編セーラー万年筆「ハイエースネオ」

セーラーのハイエースネオは、いくつかのタイプがあり、普通のハイエースネオ、軸の部分が透明なハイエースネオクリア、そして3種類の字幅を楽しむことができるネオクリアカリグラフィだ。字幅は、カリグラフィ以外は細字のみだが、手軽に使う万年筆としてお勧めだし、軽いので使い勝手がとても良いのが特徴。

ふでDEまんねん

初心者のための万年筆講座~国産万年筆編セーラー万年筆「ふでDEまんねん」

1000円代という価格ながら、特殊なペン先で筆のような文字が書けるという画期的な万年筆。ペン先がグニュッと曲がっているが、そこがこの万年筆の大きな特徴で、それによって、ペン先を立てると細字、普通の角度だと中字、寝かせて書くと太字、という風に字幅が変わるのである。

初心者のための万年筆講座~国産万年筆編

遊び心あふれる万年筆なので、このふでDEまんねんから万年筆にはまる人も多いらしい。

プロフィットジュニア

初心者のための万年筆講座~国産万年筆編セーラー万年筆「プロフィットジュニア」

こちらも初心者向きながら、シュッとしたフォルムと、まさに名前のごとく透明な軸が人気の万年筆。軸の透け具合がとてもクリアなので、中のコンバーターやインクがとても目立つ。コストパフォーマンスも高いので、インクを楽しみたいという人にはぴったりの万年筆と言えるだろう。
また、中のインクの色を楽しむことができる透明軸を始めとして、限定色なども出ているので、選ぶ楽しみも味わえる。

レクル

初心者のための万年筆講座~国産万年筆編セーラー万年筆「レクル」

清涼感あふれる万年筆として、プロフィットJr.の透明感とともに人気なのが、レクルシリーズ。こちらもさまざまな種類が用意されていて、まず透明なタイプのレクル透明感、さらにレクルパワーストーンカラーという、パワーストーンになぞらえた色のシリーズや限定カラーもある。

初心者のための万年筆講座~国産万年筆編

上級者も愛用する初心者向け万年筆

以上、様々な万年筆をご紹介してきたが、実はこれらの万年筆、安いからといってあなどれない。なぜなら、いずれの万年筆も鉄ペンながら、書き味は非常に良いのである。

以前は鉄ペンというと、カリカリした書き味と言われていたが、最近のステンレスの質の向上により、書き味は画期的に良くなった。とあるペン先を調整する方の話によると、例えば、子どもや孫など次世代に受け継ぎたいのであれば金ペンと呼ばれる高い万年筆を選ぶと良いだろう。しかし、自分の代だけで楽しめば良いと思っているのであれば、鉄ペンでも十分らしい。それぐらい鉄ペンの書き味は良くなっているとのこと。

ぼくもそれを聞いてから、安心して鉄ペンを集めるようになった。初心者向けとは言われていても、例えば色で集めるのが好きなので、ついつい買い集めてしまうし、過去に出ていて今は廃盤になったものもみつけてコレクションに加えたくなってしまう。初心者用の万年筆からして、そういう楽しみを味わうことができるのである。

万年筆インクは使ってみたいけど、万年筆は高価だから敷居が高い、そう思って敬遠している人はぜひ、まずは手を出しやすい廉価版万年筆で試してみて欲しい。

初心者のための万年筆講座~国産万年筆編

この記事を書いた人

武田 健
武田 健
文具ライター、山田詠美研究家。雑誌『趣味の文具箱』にてインクのコラムを連載中。好きになるととことん追求しないと気が済まない性格。これまでに集めたインクは2000色を超える(2018年10月現在)。インクや万年筆の他に、香水、マステ、手ぬぐいなどにも興味がある。最近は落語、文楽、歌舞伎などの古典芸能にもはまりつつある。
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