万年筆インクの汚れを落とす方法
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万年筆インクの汚れを落とす方法

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万年筆はボールペンと違い、扱いが少々面倒なところがある。それをもってしても、それ以上の価値があるので、その面倒くさいところも含めて良い筆記具だと思っているのではあるが、しかし、その面倒なところもきちんと説明しなくてはならないし、避けて通れない部分であることは事実。

その万年筆における「面倒なところ」のひとつに、インクの扱いに注意が必要という点があげられる。

万年筆にインクを吸わせる時に、どうしても手が汚れてしまいがちなのだ。もちろん、それがカートリッジのように、軸に挿すだけでインクが供給できるタイプであればそのリスクは抑えることができるが、そうではない、コンバーター式や吸入式の場合には、どうしてもインクを軸に吸わせる際に手を汚してしまう可能性が高くなる。

万年筆インクの汚れを落とす方法

そんな時、どうすれば良いのか、ということがしばしばインク沼の人たちの間で話題になるので、今回はその点について考察してみたいと思う。

手に付いた汚れを取る方法

ぼくは、実はもともとずぼらな人間なので、多少手が汚れたとしても、そのインクが他の筆記具を汚さない程度に洗えていれば、手が汚れていてもあまり気にしない。

ところが、例えばお店のスタッフとして店頭に立つ時などは、やはりどうしても気にしてしまう。お客様がその手を見た時にどう思うか、ということを考えてしまうのだ。

お客様がぼくのことを知っていれば「仕方ないですよね」と許してくれそうな気もするが、そういうお客様ばかりではない。そうなると、ある程度お客様に不審がられないようにしなくてはならない。

とあるインクブレンダーの方とお会いした時にその話をしたら、「一番良いのは髪の毛を洗うこと」と教えてもらい、試してみたところ、確かに髪の毛をごしごしと洗っているうちに手にこびりついたインクは自然に取れることが判明した。

ところが、インクで手が汚れるたびに髪の毛を洗うわけにもいかない。髪の毛を洗った後にインクで汚れてしまうことも多々あるわけだし。外出先で手が汚れた時にはどうするの?という気もするし。

一番簡単な方法

そこでぼくがお勧めするのが3つの洗い方だ。

基本的に万年筆のインクというのは水溶性なので、水で洗うのが一番手っ取り早い。きちんと水で洗い流し、その後、きれいなタオルなどで水気を拭き取れば、きちんとインクは落ちている。

ただ、気を付けたいのは、そのタオルにも手にこびりついたインクがついてしまうこと。

なのでぼくはインクの付いた手を洗った後に使うのは、タオルではなく、いらなくなった布にしている。そうすればその布が汚れたとしても構わないので、気兼ねなく手が拭けるし、白い布だと、どれだけ汚れが取れたのかがわかるので一石二鳥なのだ。

万年筆インクの汚れを落とす方法

万年筆インクの汚れを落とす方法

しかし、それだけでは完全に取り去ることができない。
写真を見てもわかるように、表面的な汚れは取れているので、例えばその状態で白紙の紙を軽く持ったとしても、その紙が汚れることは少ない。
しかし、やはりまだ見た目的に汚れていることは明らかなので、これだけでは足りないのだ。

固形石鹸を使用する方法

次に登場するのが石鹸である。
石鹸といっても液体石鹸ではなかなかきれいに汚れを除去することができないので、固形石鹸の方が望ましい。固形石鹸をしっかりと塗れた手に刷り込み、ごしごしと洗うことによって、水だけで洗うよりもインクの染みを取ることができる。

先日、万年筆インクを紹介するというテレビ番組の収録があったのだが、その際にこの方法が大活躍した。
収録間際まで、ぼくはインクを万年筆に吸わせたり、インク見本を作ったりしていたのだが、その際、手が汚れてしまった。とりあえず水洗いだけしてカメラリハに臨んだのだが、ディレクターから「手を洗ってください」と指示を受けてしまったのだ。

ぼくとしては「万年筆インクの紹介なんだから、手が汚れていても、それはそれでそれっぽくて良いじゃないか」と思ったのだが、どうしても手元がアップで写るので、その時に手が汚れていると視聴者は気になるのではないか、ということだった。

しかし、想定外のことでぼくは手を洗うための道具を持ってきていなかった。楽屋に備え付けの洗面所をのぞいたら、固形石鹸があったので、それを使いごしごしと何度か時間をかけて洗ったら、比較的汚れはそんなに目立たなくなったので、その状態で本番を迎えることができたのである。だから、この固形石鹸で手を洗うというのは、他の道具がない時などには非常に有効的だ。

万年筆インクの汚れを落とす方法

固形石鹸とブラシで汚れを除去

そして、完全にインクの汚れを取り除きたいと思ったら、ブラシ状のものを最終兵器として使うことをおすすめする。それは例えば、使い終わった歯ブラシなどでも良い。このブラシを濡らした状態で固形石鹸を塗り込み、それでごしごしと指先についたインクを洗うのだ。

その際、イメージ的には、指紋の隙間に入り込んだインクを掻き出すような感じで洗ってみよう。
しばらくすると、だんだんと歯ブラシについた泡にインクの色が移ってくる、そうなればだいぶ指先のインクは取れるのである。
もちろん、完璧にすべてのインクを除去することは不可能ではあるし、例えば、爪の隙間などのインクは頑固で取り除くのが難しい。
だが、ある程度はインクの汚れは落ちるので、知らない人に手元を見られても、驚かれることはないだろう。

万年筆インクの汚れを落とす方法

青系インクの方が汚れは落ちやすい?

店舗で万年筆の試筆をする際に使われることが多いのがブルー系インクなのだが、実はこれには理由があり、他のインクと比べると洗っただけで色が落ちるからなのだ。
ということは、青系のインクは(ブランドによってももちろん、違うのだろうが)比較的色が落ちやすいのではないかと思い試してみた。

万年筆インクの汚れを落とす方法

上記の方法で、水で洗った後に布で拭く、固形石鹸で洗った後に布で拭く、固形石鹸と歯ブラシで洗うという方法の写真を見てみよう。

万年筆インクの汚れを落とす方法

万年筆インクの汚れを落とす方法

万年筆インクの汚れを落とす方法

写真だとわかりにくいかもしれないが、確かに赤系のインクに比べると青系のインクの方がきれいに落ちているような気がした。

ただ、やはり細かい部分までは完全に落とすのには時間がかかりそうなので、例えば、料理をする前、外出する用事がある時など、どうしても手を汚したくないという場合には、手袋などで対策をしながらインクを扱った方が無難と思われる。

万年筆インクはどうしても他の筆記具に比べると手が汚れてしまうし、メンテナンスなどが面倒だと思う人も多いかもしれないが、それでも、万年筆には独特の楽しみ方や味わい方があるので、上記の道具を用意して、臆することなく万年筆やインクを楽しんで欲しい。

この記事を書いた人

武田健
武田健
文具ライター、山田詠美研究家。雑誌『趣味の文具箱』にてインクのコラムを連載中。好きになるととことん追求しないと気が済まない性格。これまでに集めたインクは2000色を超える(2018年10月現在)。インクや万年筆の他に、香水、マステ、手ぬぐいなどにも興味がある。最近は落語、文楽、歌舞伎などの古典芸能にもはまりつつある。
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