まだ暑い日は続いているが、お盆を過ぎると、だいぶ空気感が変わってくるような気がする。あの、まるでサウナの中を歩いているような昼間の熱気も幾分和らぎ、朝夕も風が心なしか涼しく感じられるようになった。
とはいうものの、まだまだ8月も中旬なので、日差しは強いし、夏の気配はしっかりとあちこちに残っている。
今回もそんな夏を楽しむための万年筆をご紹介したい。それは、色鉛筆やボールペンなどでも有名なカランダッシュから出ている二つのシリーズ。
ひとつはエクリドールというシリーズ。もともとエクリドールは、1934年にメカニカルペンとして生まれ、その後、1953年にボールペンの製造が開始され、現在は万年筆、ローラーボール、ボールペン、ペンシルの4アイテムの展開となっている。
ぼくが選んだのは、ヨットクラブという柄の万年筆。
まず注目したいのは、6面のうちの1面に施された国際信号旗で刻まれた記号。じつはこれ、CARANDACHEというアルファベットに対応しているのだという。ぼくは、もちろん、国際信号旗を読み解くことはできないのだが、そういう風に書かれているというだけで、この万年筆自体にロマンを感じる。
また、残りの5面にも注目してみたい。この柄は、ヨットのロープがモチーフになっているのである。そういった細工がこの万年筆の大きな魅力と言えるだろう。
ある販売店のスタッフの話によると、この万年筆は女性陣よりも、実は男性陣に人気なのだそうだ。例えば、とある女性が、学生時代にヨット部に所属していた旦那さんへの誕生日プレゼントとして、このヨットクラブの万年筆を贈ったところ、その旦那さんが、男性でも持ち歩きやすいシルバーの軸と国際信号旗のモチーフやロープのデザインが気に入り、それを機に万年筆を持つようになったという話は万年筆好き、海好きなぼくの心に響いた。
この万年筆を買う前から、ぼくはこの万年筆に入れるインクは絶対にカランダッシュのヒプノティックターコイズしかないと思っていた。シルバーの軸から出てくる海や空を思わせる鮮やかなターコイズブルーは、字を書くだけで、涼しい風が吹いてきそうだ。
エクリドールのペン先は少し細くて小さめなので、気軽にメモを書く時などにぴったりだ。
さて、もう一本ご紹介したいのが、同じくカランダッシュのレマンコレクション。エクリドールとはまったく対照的で、非常にシンプルなデザイン。丸みを帯びたフォルムと、滑らかなボディは、まるで手に吸い付くような感覚を味わえる。
このシリーズは、スイスの最大の湖であるレマン湖の風景を色彩で表したというシリーズだ。ぼくが好きなのが、もちろんターコイズブルー。こちらのターコイズブルーは、キャップがシルバーで、軸がターコイズブルーというバイカラーになっている。
エクリドールと比較すると、レマンは軸が少し太めなので安定感があり、書き心地も良い。前者は気軽にさっと取り出してメモをする、後者は、じっくりと考えながら文章を綴る、というような使い分けをしてみるのも良いだろう。
そして、このレマンに入れたインクは、カランダッシュのヴァイブラントグリーン。まるで夏の日差しを浴びた熱帯の植物を思わせるような濃いグリーンは、ターコイズ色の軸にぴったり。また、ペン先もエクリドールと比べて大きめなので、安定感があり書いていてとても気持ちよく、いつまでも文章を綴りたくなる。
この二本の万年筆をコンパクトに収納できるのが、やはり同じくレマンコレクションであるレマンマロキネリーの2本挿しペンケース。最初このペンケースを見た時、あまりの小ささに、本当に万年筆が入るのかと心配したが、もちろん、問題なく収納することができる。非常にコンパクトなので、鞄の中でも邪魔にならないし、さっと取り出せるところも魅力だ。上品で、高級感もあるので、万年筆がさらに引き立つ。また、ペンケースにさりげなくつけられたカランダッシュの象徴ともいえる六角形のワンポイントもとてもおしゃれだ。
9月に入っても残暑が続き、もうしばらくは手元から涼みたいと思う日が続きそうだが、今回ご紹介した万年筆たちで、ぜひこの夏を乗り切りたいものである。
<記事に登場する筆記具>
・カランダッシュ 万年筆 エクリドール コレクション ヨットクラブ
・カランダッシュ 万年筆 レマン コレクション バイカラー ターコイズブルー
・カランダッシュ ペンケース レマン マロキネリー 2本挿し レマン ターコイズブルー
・カランダッシュ ボトルインク 50ml クロマティクス インクレディブル カラーズ
・あたぼう 飾り原稿用紙 碧翡翠
この記事を書いた人
- 文具ライター、山田詠美研究家。雑誌『趣味の文具箱』にてインクのコラムを連載中。好きになるととことん追求しないと気が済まない性格。これまでに集めたインクは2000色を超える(2018年10月現在)。インクや万年筆の他に、香水、マステ、手ぬぐいなどにも興味がある。最近は落語、文楽、歌舞伎などの古典芸能にもはまりつつある。
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