ぼくがカリグラフィーに興味を持つようになったのがいつ頃のことなのか、すっかり忘れてしまったけれども、万年筆を使うようになってしばらくたってから、再びカリグラフィーに注目するようになったのは確かだ。
若い頃は、単に「へぇ、アルファベットってこんなに装飾的に書けるもんなんだ!」と感心しただけだったけれども、パソコンを使うようになってからフォントの中にカリグラフィーっぽいアルファベットのフォントがあり、それからさらにカリグラフィー文字が身近な存在になったような気がする。
以前コラムでも書いたが、万年筆の中にもカリグラフィーっぽく書くことができる字幅がある。ミュージック、あるいはスタブと呼ばれるニブで、これらのペン先は、横が細く、縦が太く書けるように作られているので、カリグラフィーにぴったりなのである。
ハイエースネオクリアに3種類のカリグラフィーペンが登場!
そして、ついにセーラー万年筆から待望のカリグラフィー専用のハイエースネオが販売された。
なぜ「ついに」なのかというと、昨年100色インクが登場した時に、その試筆用に使われていたのが、ハイエースネオのカリグラフィー用ペン先だったのだ。
その時は商品化はされておらず、あくまでも試筆用として使われていたのだが、ぼくを含む一部のマニアの間からは「早く商品化して欲しい」という声が上がっていたので、今回やっとそれが実現し、とても嬉しく思った。
しかも、1種類だけではなく、3種類の字幅の違うカリグラフィーペンが登場したのは嬉しい誤算だった。では、早速、その3種類のハイエースネオクリアカリグラフィーを見ていこう。
充実のセット内容
まず、気になるペン先の太さは3種類。1.0、1.5、2.0となっており、自分の好みの太さを選べる。
ペン先の数字だけを見ると、それほど変わりがないのではないか?と思ってしまいがちだが、実際に書いてみると、この3本はまったく違う太さで、それによって字のニュアンスなども変わってくる。
日常的に使いたいというのであれば、細めの1.0がお勧めで、がっつりとカリグラフィーの筆致を味わいたいのであれば、やはり2.0がベストだろう。その中間に位置するのが1.5なので、最初は1.5で馴れてから、という使い方もできる。
通常のハイエースネオクリアと比べると、本体は同じ半透明の軸なのだが、キャップがカリグラフィの方は紺色となっており、ニブの太さが記載されていて、通常のハイエースネオクリアとキャップで区別がつくようになっている。
また、黒のインクカートリッジが3本付属されているので、インクを持っていない人でもすぐにカリグラフィーを始めることができるのもありがたい。もちろん、別売のコンバーターも使えるので、他の色のインクを使いたい人はコンバーターも一緒に揃えると良いだろう。
さらにそれぞれのセットの中には、丹澤和子氏が監修した「はじめての書き方ガイド」が付属されている。それには、カリグラフィーの代表的なエクレクティック・テキスト、オールド・イングリッシュ、イタリックの3書体のアルファベットの例と書き順が載っている。
それをお手本にしながらカリグラフィーに挑戦できるのであるが、直接そこに書くことができないので、もっと本格的に練習したいと思う人は、セーラー万年筆の公式サイトから練習帳をダウンロードできるようになっているので、それを使って練習してみるのも良いだろう。
書き順通りに書いてみよう!
早速、DLした練習帳を基に、3種類のペンで3タイプの文字を書き比べてみた。今まで、何となく目にしていたカリグラフィーの文字がこんなにも複雑で大変なんだということをまざまざと思い知らされた気がした。
見本にはきちんと文字の書き順が掲載されているのだが、当然のことながら、普通のぼくたちが今まで知っていた書き順とはまったく違うので、慣れるまではものすごく時間がかかってしまう。
とくに3書体の中で大変だったのがオールド・イングリッシュという書体だ。カリグラフィーの世界ではオーソドックスな書体だし、実際、本の装丁や装飾などでしばしば目にする書体ではあるのだけれど、こんなに複雑なものなのだとは思いもよらなかった。
例えば大文字の「M」という文字も普通に書けば2画で済むのに、オールド・イングリッシュ体で書くと9画になってしまうのだ。それは本当にびっくりした。
日本語を書いてみよう!
しかし、では、ぼくたち日本人は果たしてどれだけカリグラフィー用の文字を書くのだろうか?という疑問を抱いてしまう。アルファベットを使わない我々日本人にとって、カリグラフィーの文字というのは、かなり特殊だ。
例えば、バースデーカードだとか、あるいは額縁に入れて飾るような作品というのであれば別だが、日常生活においてカリグラフィーの文字を書くという場面はそうそうないだろう。じゃあ、これらのカリグラフィーペンで日本語を書くとしたらどんな感じなのか、それぞれの字幅で試してみた。
1.0
まずは1.0のニブだが、一番細いだけあって、日常的にも使い勝手の良い太さと言えるだろう。その分、カリグラフィー感というのは低くなってしまうが、何となくカリグラフィーっぽく普通の手帳に書きこむことができるという意味で、この1.0は一番お勧めしたい。
1.5
次に試したのが1.5の太さのニブだ。1.0より太いので、手帳には不向き。ただ、漢字の細かい文字も大きめに書けばそれほど読みにくくはならないので、例えば手書きツイートなどで使ったり、見出しなどをこのペンで書いたりするという使い方はあるだろう。
2.0
そして最後に試したのが2.0のニブ。ここまで太くなると、完全にアルファベット仕様だと思う。日本語のひらがなやカタカナなら対応可能だが、漢字を混ぜるとなると、かなり厳しくなるし、書いていてもストレスが出てくるかもしれない。だから、やはりこの2.0は漢字を含む日本語を書くのには適していない太さと言って良いだろう。
日本語カリグラフィ計画
カリグラフィはアルファベットの文化だが、日本語でもカリグラフィっぽく書くことができるのではないか?と思ったぼくは、なんちゃってカリグラフィを考えてみた。まずはひらがな。
こうしてみるとひらがなはハライが多い文字が多いので、そのハライを強調させることによって、カリグラフィっぽく書けるのではないだろうか。
次にカタカナを見てみよう。こちらもひらがな同様、ハライが特徴的ではあるが、ひらがなのハライとカタカナのハライは少し形が異なり、そこがなかなか面白いと思う。
なので、例えば、ひらがなやカタカナで何かを書く時などには、こういう風に少しカリグラフィっぽく書いてみるのも面白いのではないだろうか。
ハイエースネオクリアのカリグラフィペンは、初心者用の万年筆ながら、字幅の選択肢が3つもあるので、様々な使い方もできるし、すぐに楽しめるパッケージにもなっているので、万年筆好きやインク好きの人たちには喜ばれる商品だし、価格的にもプレゼントに最適な万年筆だと思うので、これからも積極的に使っていきたい。
<この記事に登場する文具>
・セーラー万年筆 ハイエース ネオ クリア カリグラフィー
この記事を書いた人
- 文具ライター、山田詠美研究家。雑誌『趣味の文具箱』にてインクのコラムを連載中。好きになるととことん追求しないと気が済まない性格。これまでに集めたインクは2000色を超える(2018年10月現在)。インクや万年筆の他に、香水、マステ、手ぬぐいなどにも興味がある。最近は落語、文楽、歌舞伎などの古典芸能にもはまりつつある。
最新の投稿
- 2020年9月18日武田健のHAPPY INK TIMEコトバノイロ「人間失格」は心の闇に寄り添った色
- 2019年11月7日武田健のHAPPY INK TIME雅な紫に魅せられて「源氏物語」
- 2019年11月1日武田健のHAPPY INK TIME短い秋を彩るインクたち ~レンノンツールバー 2019年秋季限定色~
- 2019年10月23日武田健のHAPPY INK TIME東京インターナショナルペンショー2019レポート