玉石参房 第十七房「雨ニモマケズ」道楽百姓のあがき ― 在りたい自分・見られる自分 ―
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玉石参房 第十七房「雨ニモマケズ」道楽百姓のあがき ― 在りたい自分・見られる自分 ―

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「クラムボンは かぷかぷ わらったよ」
小6国語授業で、はじめて宮沢賢治の文章に出会ったとき、
クラムボンとは?と謎に思いつつ、

「かぷかぷ」「トボン」など擬音の愉快さと
美しく静かな色彩表現の世界にひきこまれました。
令和5年の今、あらためて「やまなし」を読むと

冒頭の蟹の子らの可愛らしい会話が、
双子兄弟の二階堂(洋平・浩平)の声(杉田智和・2役)で
再生されてしまう朝比奈斎(推しは谷垣源次郎)が

「雨ニモマケズ」by宮沢賢治

のイメージインク「コトバノイロ・雨ニモマケズ」にて
お色見本を作ります。どうぞよしなに。

まずは百均画用紙にぬりひろげます。

用紙:SAKAEテクニカルペーパー・イロフル
Gペン:立川ピン製作所・タチカワGペン
併用インク:Pent彩時記「向日葵」


濃い緑から薄緑に向かう途中の、翡翠のような色変化が涼やかで素敵。
初夏前の緑豊かな季節にぴったりです。

「雨ニモマケズ」は公開予定の原稿としてではなく、
宮沢賢治の手帳に記されたものとして発見されました。
それにならい、

トモエリバー用紙の手帳に「雨ニモマケズ」全文と
エスペラント訳を。
前半は万年筆・後半はつけペンhocoroで。

用紙:トモエリバー・ほぼ日ムーミン手帳
万年筆:PILOT・CUSTOM742フォルカン


CUSTOM742と743・CUSTOM HERITAGE912は
しなるペン先万年筆として幾度か紹介しておりますが、
今回は一番しなりがやわらかな742を使用。
感触は「ほぼGペン」、強弱線の醍醐味。

後半部分は、「しならないペン先」のhocoroにて。

つけペン:セーラー万年筆・hocoro1.0


ペン先と紙の接地の角度を変えながら
「はらい」部分は特にゆっくり丁寧に書くと、線に変化がついて整います。

「雨ニモマケズ」のモデル・斉藤宗次郎(花巻出身)は
キリスト教信者であることゆえに人々から酷い迫害を受け、
そのせいで娘まで亡くしてしまいます。

それでも彼は、常に人々の為に尽力し続けたので、
彼の誠意と人柄はしだいに認められていきました。

内村鑑三に招かれて東京へ向かう見送り時には
町長や有力者・神主・僧侶・一般人・物乞いにいたるまで
老若男女の群衆で駅はあふれたとのこと。
その見送りの人々のひとりが、宮沢賢治なのです。

どんな迫害を受けようと、自己を犠牲にして他人に尽くすその一心の理念。
賢治の身近に存在した、タッピング宣教師家族の慎ましく誠実な生きざまからも
おなじように感化されていきます。

心の平安、皆の平和実現をもとめて
賢治自身も法華信者として生きようとするのですが、

「他人のために働きたい自分」と
「他人から道楽百姓と見られてしまう自分」の
理想と現実の乖離に始終苦悩がつきまといました。


つけペンといえば、軸は不可欠の相棒です。
今までは軸のみで、ペン先むき出しが普通でしたが、
大西製作所のキャップ付きつけペン軸はとても画期的!
同シリーズの万年筆と揃えても、とても可愛いです。

ペン軸:大西製作所・コルト・しだれ桜


外国製品など、つけペンの種類によってはスキマが生じる場合、
薄紙を挟んでペン先を装着
ペン先の根本にマスキングテープを巻き装着
ペン先の根本をペンチで軽く挟み角度を広げ気味に調整
をお試しください。

用紙:山本紙業・COSMONOTE
併用インク:TACCIA「rose pale」

用紙:SAKAEテクニカルペーパー・トモエリバーノートFP


賢治が求めた理想の世界は「皆が平等であること」。
その平等の精神が反映されていることから、
国際補助語のエスペラントを自作詩や短歌の翻訳として使っていました。

その中から1首を、賢治自身のエスペラント訳とあわせて。

用紙:SAKAEテクニカルペーパー・イロフル
併用インク:Pentコトバノイロ「夜間飛行」


インク「雨ニモマケズ」の明るい緑色は赤系・青系ともによく合います。
自然風景の葉の緑はさまざまな彩の花や実にもつながるので、
どの色ともなじみやすいです。
茶系ともしっくり。
手持ちの化粧品ラメも少し使ってみると表情も変わってたのしい。

用紙:ロディア・ドットパッドNo.16
併用インク:Pent tsuzuru「祈り」
併用ペン:ロットリング・アートペン1.9


昭和46年に教科書採択されて以来50年をこえて、
今でも小6国語の時間に習う不朽の名作「やまなし」より、
黄色系とあわせて。

冒頭の塗り画用紙は、「雨ニモマケズ」のさわやかな色味から
緑ゆたかな自然風景の表現を。


自身のこころゆくまでの教育や趣味三昧の生活は、
実家からの理解と支援を、
あますところなく受けた恩恵によるものと解りつつ、
「農民からの搾取家業」と嫌悪感を覚えていた賢治。

農民のために孤軍奮闘するも、生粋のお坊ちゃん気質のせいで
当時の農民たちとはかなり異なるお金の使い方をしてしまい、
周囲から「道楽百姓」と陰口をたたかれてしまいます。

成金風を吹かす父親と似た行動をしていることへの自己嫌悪、
節制をやり過ぎたせいで病にかかり、
結局実家の世話になってしまうという本末転倒の現実、

自分よりもはるかに優れた斉藤宗次郎はじめ
たくさんの偉人たちと比べる自己卑下、

宗教にはまっても農業にはまっても
なぜか空回りして結局役に立たないことへのジレンマ、
そして捨てられないプライド。

理想にも到達せぬ現実での孤独のあがきは
理想郷イーハトーヴや作品群の美しくかなしい(哀し・愛し)世界観を支え、
清濁あわせもつ独特な文章表現として発露します。

「サウイフモノニ ワタシハナリタイ」と理想の高みに目をむけつつも、
焦げるような現実の燻りがある、そんな賢治の心をいやしたのは、
緑豊かな岩手の自然でした。

宮沢賢治の作品にみられる弱者へのよりそいの心が
令和以後も、おさなき人たちに受け継がれんことを祈ります。

色にいざなわれて開ける扉の向こうにひろがる、
「雨ニモマケズ」の世界。
インクの楽しみの入り口となれば幸いです。

祖父は、エスペラントの使い手。
祖母は、緑の手をもつ作物育成&料理上手。
両親は、コミュニケーション最強の鬼。自宅は常に来客ごった返し。
妹は、わたくしが観賞用に大事に保存していたクーピー60色を勝手に使用破壊した敵。

…自分はこの家族とは違うルーツの者ではないのか?と延々ガンプラを組んでいたザ・思春期も今は昔、の
朝比奈斎(「やまなし」お父さんの蟹役は、大塚芳忠@「鶴見篤四郎」または「大草原の小さな家のベイカー先生」または「Gガンダムのチボデー」で脳内音声)でした。
ではまた。

<今回のメインインク>
Pent〈ペント〉ボトルインク コトバノイロ 雨ニモマケズ

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この記事を書いた人

朝比奈斎
朝比奈斎
憧れの高級文具から教室に忘れ去られた名もなき消しゴムに至るまですべての文具を偏愛する者。
文字は下書き無し・肉付け塗り無しの一発書き。
文具・画材・多肉愛好家として雑貨店「SHOP511」にて多肉植物の育成販売と文具雑貨諸事の販売に携わる。好きな言葉は「玉石混淆」

Twitter:@asahinaitsuku
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