玉石参房 第十八房「蒼穹」繊細な心とセルフプロデュースの高さ
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玉石参房 第十八房「蒼穹」繊細な心とセルフプロデュースの高さ

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梶井基次郎。
教科書や国語便覧に掲載されている写真は
中高時代ラクガキストのわたくしにとって格好の餌食。

横光利一(髪型)同様、落書きTOP2のこの二人、
互いに面識はなくとも東西好敵手として一目置きあっていた間柄。

破天荒な行動と共に交友関係も広かった梶井基次郎の、
師匠的に傾倒していた志賀直哉のような繊細な言葉繰りは
破壊行動諸事と、どえらいギャップ。

志賀直哉フリーク朝比奈斎(課題図書指定を無視し志賀作品のみで読書感想文を連続提出・振り返れば内容は推し活)が、
ギャップの魅力にあふれる不遇の作家、

「蒼穹」by梶井基次郎

のイメージインク「コトバノイロ・蒼穹」にて
お色見本を作ります。どうぞよしなに。

青空のなか渓谷で湧き上がる巨大な雲のようすを描写する「蒼穹」より。

用紙:SAKAEテクニカルペーパー・トモエリバーノートFP
つけペン:立川ピン製作所・つけペン先セットT-DPS内ニュームGペン
背景併用インク:コトバノイロ・檸檬


このインクの青の濃淡は本文で表現。
薄めると透明感のある明るい水色と深さのある濃い青2種類の楽しさ。
背景の青空と雲にはコトバノイロ「檸檬」を少しまぜて変化を。



以後に続く晩春の青空をじっと見つめる描写がすすむと、
梶井の目が読者の目と融合していきます。

深い青の向こう側の宇宙の黒まで含むような、
はるか遠く動かぬ色を見据える視点と、
一面の青でありながら、ちらちらと光の粒子が動くような感覚(実は網膜刺激作用)。
目の前で沸き立つ白雲の不安定な動き。

巨大な自然のまえで、ちいさき人間は「虚無」。

みなさんは、雲に包まれたことがありますか。
昔、山の頂上で雲の塊に飲み込まれたとき、
幼児期にイメージしていた「楽しそうなハイジのOP」とはまったく異なる、

恐怖感。

一気に視界が真っ白になり、
上下左右の距離感がわからなくなる恐怖。
湿った、と感じると瞬時にびしょびしょに水分を含む髪や洋服の濡れた重さの恐怖。
雲が通り過ぎて元の景色に戻ると、色の情報量の多さに眩暈。

自然の力を目の当たりにすると、
感動を通り越して畏怖を感じます。

予想以上に大きい富士山しかり。
透明過ぎる海中で遭遇する、小魚の巨大な魚群しかり。
一切の光がない山奥の漆黒の夜しかり。

そんな大きなものへの観察眼がこの作品でもよく見られます。
梶井基次郎の観察や内面描写は、静けさが不可欠。

読み進めるうちに自分のなかにある「無意識の漠然たる不安感」も
同時にあぶりだされるような感覚。
この「不安感」こそ近代文学各作家たちの共通テーマでもあります。

青と白と黒のコントラストが印象的な「蒼穹」。
色表現としてさらに有名な梶井作品「檸檬」からも抜粋し、
本文と英文訳をコトバノイロ・蒼穹&檸檬にて。

用紙:山本紙業・COSMONOTE
つけペン:立川ピン製作所・ニュームさじペン
英文大文字:立川ピン製作所・つけペン先セットT-DPS内C型3mm
併用インク:コトバノイロ・檸檬


「この重さ」、定期試験では必ずでてくるコレ。
どの世代も頭を悩ませた生徒時代を彷彿させる場面。
丸善で美術本を積み上げ檸檬を載せるという行動も
なかなかに中二病エキセントリックな愉快犯。

美術本装丁の意匠凝らしが醍醐味であるため、勝手な積み上げと
果皮のリモネン付着にハラハラしたわたくしの杞憂はさておき、

梶井の実生活での破天荒さは、上記レモン爆弾妄想どころではないのです。
三島由紀夫に「文壇最強」と評された喧嘩上等作家・三好達治は親友、
その三好を殴りつけた林檎事件(川端康成書)、その他の暴挙は
まさに「文学界の暴れ馬」。

バンカラのいでたちで肩をいからせて学内を闊歩すると
後輩たちにも周知の波が寄せ返し。
豪胆、快活。そして読書量が誰よりも圧倒的。

死と直面する病をかかえる青年は、
まるでそれを苦にもしないような
真逆の行動をくりかえします。

繊細な作品と豪傑な行動の表裏には、
梶井自身の過剰なまでに男らしいプロデュース力もさることながら、
抗えない死の運命に対して「どう生きるか」の行き過ぎた模索が見えます。

粗野な人間味あふれる行動も、
友人たちに妙な気遣いを感じさせない、
彼自身の気配りのようにも。

とても繊細である彼の作品は生前では見向きされず、
名声は死後、という皮肉さも「作家あるあるの不遇」。
ただし、その文章の力は、今なお若人の心をとらえ続けています。

さて、
今回のペン先は「ニューム」。
金属表面がザラザラしており、インクの乗りも良いタイプ。
硬めの筆記は、均一な細い線が書けます。

Gペンも強弱どちらも書けますが、
ニュームはさらに安定した細い線がひけます。

わたくしは視力弱い&筆圧ゴリラなので3㎜方眼が限界でしたが
眼力強い方・「筆圧たおやめ」な方はもっと細かく書けるやも。

「2023 7月号 アサヒナ」
つけペン:立川ピン製作所・つけペン先セットT-DPS内ニュームさじペン


7月夏休みの季節として、
特殊用紙や微塗工紙へのインク反応をご紹介。
お子様の自由研究にいかがでしょう。

まずはユポ紙。
彩時記「松風」でも色模様や白抜きとして紹介済みですが、
インク乾燥時にヒーター使うとプラバンのように縮むので
今回は自然乾燥にて。

用紙:ブングボックス・ヌルリフィル・チューリップノワール


ダイナミックな線がたのしい瑪瑙的な面が。
コーヒーリング現象はコート紙などにも有効です。
カレンダーの裏(つるつる)などおすすめ。

ユポ紙はアルコールインク画にも近年使われますが
水性インクはユポの上を滑るので不向きといわれています。
水性インク特化のヌルリフィル以外の、
ユポ紙の楽しみ方はまたの機会にご紹介します。


彩時記「向日葵」「麗春」「桜」「蒼穹」の色流しを短冊状にカット。
白文字はアクリルガッシュとGペン。

スタンプによる白抜きと万年筆インクの合わせ技は
用紙によって表情がかわります。


↑ユポ紙&彩時記「青緑」右端はヒーターあてすぎてちぢんだもの(学習能力皆無)

微塗工紙でおなじ表現を。

用紙:山本紙業・COSMONOTE
Gペン:立川ピン製作所・つけペン先セットT-DPS内ニュームGペン 」

用紙:Pent・桜ism
併用インク:彩時記「向日葵」


桜ismの「ちょい足し」今回は「蒼穹」を使ったアネモネと白抜きスタンプの蓮、
彩時記「向日葵」を使ったミニ向日葵を。
桜ピンクの地を活かして淡い色を作って塗り、
アクセントに濃いインクをのせています。

薄葉紙にインク落とし。


同系色の青緑を落とすとじわじわ広がる様子が
かき氷のようです。
乾燥後は紙がさらさら、かさかさという軽やかな音もたのしい。
破れやすいので、広げる時は要注意!

薄葉紙や白抜きスタンプをつかったインク遊びは
お子様の自由研究にピッタリ!
次回もこの続きをご紹介します。

病の苦しさと、
人間のはかなさと
自然の雄大な力への畏怖。

美意識の高さと圧倒的な知識量、
それに甘んじ鼻にかけるのではなく、
屈託なく人と接し続ける梶井基次郎の精神の明るさと
静かで正確な観察眼は、

奔放ではありながらも闇落ちすることなく、
生きることに真摯な梶井基次郎の土台であり武器でした。
梶井基次郎と同じ境遇ならば、
「君たちはどう生きるか」。

色にいざなわれて開ける扉の向こうにひろがる、
「蒼穹」の世界。
インクの楽しみの入り口となれば幸いです。

ジブリ最新映画公開日にこれを書いています。
「お、吉野源三郎が原作の?」とはミスリードで、
今回は無関係だそうです。(えー)

「君たちはどう生きるか」
パワーワードですね。
正した襟がいつのまにか崩れることにならぬよう、

文学作品に毎度喝をいれられる朝比奈斎(読書感想文題材は絶対短編小説しかもちょっとだけ難解作を選ぶ)でした。「蒼穹」、読書感想文図書に是非。短いから。
ではまた。

<今回のメインインク>
Pent〈ペント〉ボトルインク コトバノイロ 蒼穹

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この記事を書いた人

朝比奈斎
朝比奈斎
憧れの高級文具から教室に忘れ去られた名もなき消しゴムに至るまですべての文具を偏愛する者。
文字は下書き無し・肉付け塗り無しの一発書き。
文具・画材・多肉愛好家として雑貨店「SHOP511」にて多肉植物の育成販売と文具雑貨諸事の販売に携わる。好きな言葉は「玉石混淆」

Twitter:@asahinaitsuku
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