みなさま、ご機嫌いかがですか。
今号からは「コトバノイロ」お色見本をご紹介致します。
(対象小説のネタバレも含まれます。未読の方はご留意ください)
新たな年、新たな決意も15日目を過ぎ、
初志貫徹は、いかに。軌道修正は、いかに。
残りの日々約340日と相成り候。
おみくじ・縁起の良い日・月の満ち欠け・
占星術に手相・辻占・夢占、
朝の情報番組占いコーナーから
サザエさんのじゃんけんまで一喜一憂、
人は「励ましのことばや兆し」を
よすがにする生き物であることよ。
あなたは何を「よすが」に、
心の寄り処にしているでしょうか?
清濁流るる如く入り乱れる各人のよすがと
心の機微の応酬すさまじき作品
「千羽鶴by川端康成」
のイメージインク「コトバノイロ・千羽鶴」にて
朝比奈斎(運勢イマイチ日も常にセルフ大吉に強制上書き保存)が
お色見本を作ります。どうぞよしなに。
コトバノイロ「千羽鶴」はこっくり深い色。
べんがら色に濃紅を足したような、
猩々茶に明るい臙脂を落としたような、
なんともいわれぬ落ち着いたお色です。
これを加水していくと、深い色から可憐な桃色に。
原液のまま濃い色はコピー用紙、手前の加水紅色~薄桃色は画用紙。
一番下の白い台紙にくらべると、桃色の淡さがわかります。
同じひとつのインクのなかに
迫力のある色と、
柔らかで可憐な色の混在が、
「千羽鶴」に登場する女性達のようです。
栗本ちか子・太田夫人は、
性質見た目は真逆なれど、年増の人生経験や、
痣・碗に付着(しているように見える)
口紅の名残などのイメージもあいまって、
美醜まるごとひっくるめた、
大人の女性の落ち着きや色気、懐柔、策略、
ねっとり手練れのイメージを彷彿します。
それとは打って変わって
見合い相手の稲村ゆき子や太田令嬢・文子の
若さあふれる爽やかで柔らかな描写は、
清々しさや可憐さ、初々しいはにかみや
本人たちがまったく意識していない若さによる魅力が満載!
若いって、いいなあ!!
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エイステーショナリー・SOLAノート・ソフトカバー無地
立川ピン製作所・タチカワクリスタルセット・Gペン
色工房・まりも俵鞠・桃
右頁は加水しながら濃淡をだし、
左頁は稲村ゆき子をイメージする
「桃色のちりめんに白の千羽鶴の風呂敷」にそって、
「千羽鶴」から出る淡い桃色を一面に塗りました。
明るくまっすぐな性質の令嬢ゆき子には、
ほとんど描写されない菊治の母のような
沈黙の苦悩の未来が控えています。
菊治の父のふたりの愛人・栗本や太田夫人等に
寡黙な忍耐をもって人生をすごした菊治の母。
幸せのなかに菊治・太田夫人・文子の関係に
一抹の不安と違和感を感じながら黙って
夫婦の日常に甲斐甲斐しく心をくだくゆき子。
川端康成が予定していた最終稿は「菊治・文子の再会と心中」、
それならばなお、青天霹靂、理不尽な不運に身を落とされる苦悩を
ゆき子は遠くに控えているわけです。
菊治の母もゆき子も、何も悪くないのに。涙。
汚点ひとつないまっさらな桃色の心に、
疑惑と苦悩と怒りと悲しみが徐々に混ぜられ、
ひとり黙って茶室にすわる菊治の母の
(および未来のゆき子の)顔はみえねども、
時の流れをとめるような様子でじっと座る顔は、
般若の心を穏やかな表皮でかろうじて堰き止める。
菊治の母については、わずかな描写のみでサブ的な扱いながら、
幼い頃の菊治が父親の秘密に憤りを覚えることや
傍若無人な栗本の振る舞いにたいしても
母の穏やかで気弱な性質によればこそ、の対比で理解できますし、
愛人たちの存在で、日常に影を落とす苦悩は
なおさら如何ばかりであろうか。
(静かな人ほど怖い)
ジョーカー的なトラブルメーカー栗本と
妖婦的な太田(ダメ母)夫人を経て、
太田令嬢・文子は菊治に対して
唯一常識人的な振る舞いだったのに
もろくも瓦解し、菊治と関係を持つ皮肉な運命に。
菊治は文子を得たことで、太田夫人との後ろ暗い邂逅を
「何か良きもの」として勝手に昇華させて
自分ひとりですっきりしているところの場面を
英語版で書きました。
↓
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LIFE・シェプフェル・クリーム
併用インク・コトバノイロ檸檬・エルバン・DIABOLO MENTHE
主人公菊治。父親と同じくモテます。
光源氏の如く(←三島由紀夫の解説)超モテます。
どこにそんなダイソン以上の吸引力があるのか。謎。
どこが魅力的なのか最終稿まで読めば胸に落ちるかもしれませんが、
(辛辣)
残念ながら「千羽鶴」は川端の取材ノート盗難によって未完のまま。
菊治はあくまでも翻弄される側、
取り巻く女性達のキャラの濃さによって
あえて語られぬ菊治の本性もとい、良いところも、
あぶり出しの如くそのうち徐々に見えてくるかもしれません。
そのかわり、女性描写の濃さは美醜まるごと容赦なし。
それらの女性達によって菊治も物語も読者も翻弄されていきます。
この美しい星の描写も、読み進めると一気に乱高下。
表と裏を返すような心情の変化と不条理が、
人生あるある的に感慨深くなります。
ことばとその下に隠れている心は、表裏一体の紙一重。
若いゆき子や文子の、生命力にあふれた存在が、
これからの苦悩にまみれていくことも表裏一体。
大人の狡賢さ・毒を含んだ栗本や
子育て放棄、しなだれかかる恋愛体質の太田夫人、
倫理壊滅の父と、不本意な苦悩を背負わされた母、
この人達だって、もとはまっさらな無垢の時代があったはず。
いつのまにか自分本位で暗く染まっていった大人達と、
それら大人に呪われるような翻弄を受ける子等の菊治と文子、
濁々とした淀む水たまりのような人間関係に入らされるゆき子の、
暗い未来。
嫌いな人間、嫌な事でも、
うまくあしらいながらそれでも生きねばならぬ節理や
新時代における「魂が自由に求めるところへの憧憬」、
戦後まもない虚無感の時代設定にあわせると、
思想も信条も倫理も語るべきがあろうかと。
令和の時代の利便さ・文明発達といえど
人間の性質はなんら進歩なし。
何百年と人の手をわたり継いできた志野焼の筒茶碗。
素朴な土に白い釉薬が、ぽってり厚めにかかっている美しい焼き物。
真っ白なアイシングをたっぷりかけたスパイスケーキのようです。
皮肉な運命のファクター。
この焼き物の美しさに「拭いても取れない口紅の跡」
という醜悪さを付け足しながら
菊治にとってファム・ファタルに昇華してしまった
太田夫人の大人の魅力、
醜悪と美しさを行ったり来たりするのに対し、
栗本ちか子は一貫して悪人、
性別超越のえげつなさが、強烈。
強烈すぎて、しばらくちか子描写がないと物足りなくなる不思議。
待ち望んだちか子が登場すると、
「ちか子、出たー!」の声が。
お化け屋敷か。
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山本紙業・COSMONOTE
立川ピン製作所・日光Gペン特上品
軸・くらふと鈴来
色工房・まりも俵鞠・桃
お化け屋敷、という単語で連想制作ではないですが
江戸川乱歩「まほうやしき」を千羽鶴にて淡い色と濃い色、
太字と細字を、一つのインク、ひとつのペンにて。
魔女は元魔法少女でした。(まどかマギカ)
魔女は元お姫様でした。(少女革命ウテナ)
毒林檎のおばあさんは実は(継)母でした。(白雪姫)
栗本も太田夫人も菊治の母も、元はかわいくてきれいなお嬢さんでした。
かわいくてきれいな、ゆき子も文子も、
ちか子や太田夫人や菊治の母のように、
いずれ、成るのです。(心理学上における母と娘の関係性)
最後のシーンから最初のシーンに戻ると、
登場人物の思惑の、もうひとつの違う面が見えてきます。
あれ?
文子もゆき子も、実は最初から…。
戦慄の表裏一体。何をよすがに言葉を繰るか。
千羽鶴、濃いキャラたっぷり、
美しい描写も、えぐるような醜さもたっぷりな表裏一体、面白いです。
小説の世界観は悲喜こもごもなれど、
しかし、色はただただ美しい。
コトバノイロ「千羽鶴」にて一面に塗り拡げた冒頭の用紙は、
以下のように生まれ変わりを。
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色にいざなわれて開ける扉の向こうにひろがる、
「千羽鶴」の世界。
インクの楽しみの入り口となれば幸いです。
川端作品映像化のうち、雪景色、建物や着物が
非常に美しかった、高橋一生主演版「雪国」や
荒木飛呂彦原作・ドラマ版「岸辺露伴は動かない」シリーズ、
よしながふみ原作・ドラマ版「大奥」での冨永愛演ずる吉宗や
映画「伊豆の踊子」内の吉永小百合に感嘆の声をあげ続けた
年末年始の朝比奈斎(ひとりブラボー&ブラヴァー)でした。
ではまた。
<今回のメインインク>
・Pent〈ペント〉 ボトルインク コトバノイロ 千羽鶴(せんばづる)
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この記事を書いた人
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憧れの高級文具から教室に忘れ去られた名もなき消しゴムに至るまですべての文具を偏愛する者。
文字は下書き無し・肉付け塗り無しの一発書き。
文具・画材・多肉愛好家として雑貨店「SHOP511」にて多肉植物の育成販売と文具雑貨諸事の販売に携わる。好きな言葉は「玉石混淆」
Twitter:@asahinaitsuku
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