玉石参房 第十房「秋景色」冬にそなえる蓄えと、いのちの営みの豊かな色
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玉石参房 第十房「秋景色」冬にそなえる蓄えと、いのちの営みの豊かな色

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みなさま、ご機嫌いかがですか。
442年ぶりの皆既月食&天王星食のW天体ショーも無事に終わり、
次のW天体食まで322年とのこと。
延命してもう一度観たい野望、熾火の如し。

前回同様のW天体食1580年には、
戦や焼き討ちの合間に信長(本能寺の2年前)も見たかも?
ダ・ヴィンチ(1519年没)見たかっただろうなあ。悔しかろう。
欧州も戦争や併合ばっかりの血気盛んな当日、
世界中のだれかは、武器持つ手をとめて赤い月をみただろう。

今こうして現代の科学を軸にして回顧は後世の強みですが、
当時の限られた情報と世界観のなかで
昔の人も赤い皆既月食をみて、

「…イクラみたいじゃん!?…最近食べとらんわ…」と
わたくしと同じ思いをはせてた人も、少数ではあろうが皆無ではあるまい。
約300年後も、同じことを思う人は、少数ではあろうが皆無ではあるまい。

この便利な現代だって、ダークマターはじめ解明できぬ謎だらけ。
だから調べて考える。
ぼくらはみんな生きている。

なぜそれが起きるのか、科学の知識が少なくても、
外の世界はもっと広いとしらなくとも、
今日を生きねばなるまいて。なぜなら、

「オレが!!この世に生まれたからだ!!」


とエレン(「進撃の巨人」)の如く語尾強く、
朝ガバッと飛び起きめまいする朝比奈斎(低血圧症。「朝目覚めたらポジティブな言葉を言え」と、かかりつけ医が言いました。)が
「秋景」のお色見本を作ります。どうぞよしなに。

紅葉のしくみは、もともと黄色・赤色部分と緑部分が混在している葉が、
冬に備え糖分解していく途中で起こるもの。

春夏にガンガン働き弟妹の面倒をみていたしっかり者の
クロロフィル兄さん(緑)が冬場は家をあけ、
妹のカロチノイド(黄)や弟のタンニン(赤)が
兄不在のお家の整理(落葉)をするのです。冬芽という新居を準備しながら。
春になったら、また兄さんは戻ってきます。
都会の色に染まらないで、兄さん…

と、当方中学時代に
シャア(緑)とセイラ(赤)アムロ(黄・本来は弟ではない)に妄想置換した
ノートの落書きがバレて先生に没収されましたな。

先生に呼ばれて職員室にいったら、ご不在。
(人を呼んでおいて不在とは、これ如何に。)
と机上に目をやれば、わたくしの大切なあのノートがある。

当時中学生には珍しい100枚極厚KOKUYOキャンパスノート。
覚えたての簡易フランス装で丁寧に、ギラギラ派手な箔用紙でくるんだノート。
アニメ芸能ネタや校長教頭はじめ授業中先生方の似顔絵も満載の、
半径1mしか内容が通じない休み時間回覧用の
思春期こじらせ大切なあのネタノートが、

呼びつけられたわたくしと一緒に叱られる待ち、の体で机上にありましたんで。
呼びつけた先生ご不在なんで。
折しもわたくしもNature calls me!!「自然に呼ばれ」ましたんで。

無許可でノート回収してトイレのあとクラスに戻りました。
(まあ、あとでがっつり倍に怒られるんですけど)
朝三暮四でもいいんです。

回収が最優先事項だ。第一種戦闘配置だ。
先生の似顔絵、超似てるから。
このページをひとめ見て一噴きする級友の顔顔顔がみたくて、
毎日息を殺して描いているんだ。

わたくしの卒業時に没収した先生ご本人から
「でも似てたよなあ、他の先生のも」と
苦笑交じりの送る言葉をいただけたのが中学時代の最高の思い出です。

校外マラソン大会が嫌でたまらなくて、
うちのクラスみんなでコースアウト、
街中に散り散りになって大騒ぎさせて、先生ごめんなさい。
ブルマ姿で買い食いした肉まんの味、最高でした。

「高校生になってもがんばれよ」って言わないんだ、先生。
中高一貫校だもんね。10日後にはまた授業で会うもんね。

高校修学旅行時に「鴬張りの廊下」で飛び跳ねてたわたくしを連行して
4日間の移動バスはずっと先生の隣になる未来もあるもんね。
(ここの先生方とは約10年後に同僚として日々阿鼻叫喚するのは、また別のお話)

センチメンタルな個人的回顧はさておき、
チャイコフスキー「秋の歌」に寄せた
寺田寅彦のセンチメンタルな随筆から抜粋で書きました。

▼クリックで画像が大きくなります。

用紙:SAKAEテクニカルペーパー・トモエリバーノートFP
Gペン:立川ピン製作所・プレミアムセット・クリスタル

秋の夕焼けや落葉の色を再現する「秋景」は、
水で薄めると黄色がつよくでます。
高いところから舞う落葉をイメージして段差配置に。

枠周囲は、こってりと濃く塗り、インク本来の濃さと
本文部分的な加水表現の黄色とのコントラストを意識しました。

濃いめインクには流動性ワセリンと増粘剤を足して
とろとろの柿のような感触に変えて塗りこんでいます。
何故か。

濃くて艶々の塗りの感触が、個人的に楽しいからです。
個人の追求です。

次は紅葉や結実の色を反映した樹木名を。

紅葉の樹木名

用紙:SAKAEテクニカルペーパー・イロフル
Gペン:立川ピン製作所・プレミアムセット・クリスタル
併用インク・「彩時記」葡萄青緑月齢子琥珀月

57577の組み方で各樹木名をS字配置。
それぞれ葉や実をあらためて見ると、何のためのこの形なのか、
自然の理(ことわり)の緻密さに驚きます。

特別な天体ショーとはまた一線を画した、
毎年繰り返される静かで大胆な生きる力と自然のなりたちが
目を楽しませ、心を慰めることを、秋の色が示してくれます。

日々の憂いが多いほど、自然の色が心をうるおしてくれることを
孤高の苦労人・エミリー・ブロンテ(≒ブロンテ姉妹)
は随所に書き記しています。

そんな彼女の秋の視点を、
「彩時記」の他のインクと併せて表記しました。
用紙上下はパンチングで花を模しています。

▼クリックで画像が大きくなります。

用紙:山本紙業・コスモエアライト
Gペン:立川ピン製作所・プレミアムセット・クリスタル
併用インク・「彩時記」青緑・松風秋麗

劣悪な衛生環境だった町で生きたエミリー・ブロンテ。
苦しさのなかでも、心いやす自然の中での描写が希望につながると
「嵐が丘」でも複数しのばせています。

複数のインクの色を選ぶときは、
要素の共通性に着目すると、まとまりやすいです。
緑色インクを分離すると黄色要素があるので、秋景の黄色要素と共鳴します。
「秋景」は黄色要素が、「秋麗」は桃色(紅)要素が分離します。

各色の仲を取り持つように、分離色同士を配すると以下のような表現ができます。
背景は秋景・秋麗・青緑の三色をぼかし、
上に黒紙切り絵を配しました。

源光庵・悟りの窓の丸窓イメージや、
ドウダンツツジ紅葉で有名な安国寺、
長野県茅野市の御射鹿池の紅葉イメージ3作です。
同じ背景色の用紙を使って3種表現しました。

▼クリックで画像が大きくなります。

用紙:山本紙業・コスモエアライト
併用インク・「彩時記」青緑・秋麗
黒色用紙:エトランジェ・ディ・コスタリカ
ペーパーウェイト:アートファクトリー・虹と天の川

夏の日差しをたっぷり浴びた葉は
力強い緑色をもちいて生きる力を蓄え、
秋の備えに準備する。

秋には、次に来る冬にむけてゆっくり、だが確実に蓄えていき、
冬には、小さな冬芽をしのばせて幹の内側でエネルギーをひそませ春の復活を準備する。

次の季節を見越したそれぞれの役割は、
「生きることの意味」をあらわしている。
Keep on living. いのちあるかぎり。
ぼくらはみんな生きている。

いろとりどりの豊かな秋の色を体現した「秋景」。
目を楽しませる彩の根底に、生きる力と営みの深さを感じます。
インクの様々な楽しみ方の入り口となれば、幸いです。

月食や流星が始まると防寒着皆無で突発観賞→冷えたら部屋に戻る、
という逆サウナ的観賞法の朝比奈斎(魚卵好き。かかりつけ医、正しくは「ガバっと起きは危険。朝起きたらゆったり深呼吸をしてゆっくり体をほぐしながら心身を徐々に云々」)でした。

ぼくらはみんな生きている。
生きているから悲しいんだ。(「よつばと!」)
ではまた。

<今回のメインインク>
Pent〈ペント〉 ボトルインク 彩時記 秋~autumn~ 秋景(しゅうけい)

この記事を書いた人

朝比奈斎
朝比奈斎
憧れの高級文具から教室に忘れ去られた名もなき消しゴムに至るまですべての文具を偏愛する者。
文字は下書き無し・肉付け塗り無しの一発書き。
文具・画材・多肉愛好家として雑貨店「SHOP511」にて多肉植物の育成販売と文具雑貨諸事の販売に携わる。好きな言葉は「玉石混淆」

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