玉石参房 第三房「青緑」色に込める希望
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玉石参房 第三房「青緑」色に込める希望

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「シン・年度」です。庵野的表現です。
「シン」とは新であり、ゲッターロボ的には真(Change)。
続やらⅡやらZ・ZZ・GT・改・R・S・SSなど
ありとあらゆる符号と副題でシリーズ展開継続するように、

ゆく年度末くる新年度、
望むも望まざるも有無をいわせず、
人は新しいステージに押し上げられるのです。

花も移ろい、古い葉は去り、新しい葉が萌える、
若葉まぶしく緑さらに濃い春謳歌の季節!
Change!
脳みそ吹っ飛びそうな大嚏(くしゃみ・くさめ)
を連発するのも春ならでは!
ヒスタミンめ!

冬の静かな停滞を一気に解放させる、
春エネルギー満載の萌える緑を連想する「青緑」を
朝比奈斎(花粉症→スギ&マツ)が色見本としてご紹介します。
どうぞよしなに。

繊維の粗い紙(コーヒーフィルターやキッチンペーパー、
ティシュなど)にインクを垂らし、その中央めがけて水滴を加えると、
染みたインクの色がドラマティックに分離します。

インクとして一つに完結の[染料と溶剤]を
加水で分離させるのは楽しいので
種々の紙とインクによる
「お子様の夏の自由研究ネタ」にいかがでしょうか。

染料と溶剤

茶色インクは緑と赤に分かれ、薄めた黒インクでは薄紫・ピンク・グレー・黄色等。
今回の主役「青緑」は、こんな感じに。

今回の主役「青緑」

新しい生命が産声をあげる。

新しい生命が産声をあげる。2
使用用紙…SAKAEテクニカルペーパー イロフル
Gペン…ZEBRA Gペン

シリンジでGペン裏に一粒ずつの水を加えながら書くと、
インクの濃淡がさらにはっきりでて面白い。
均一塗り伸ばしも綺麗ですが、
あえてインクだまりを残して
偶然できた[インクの縁取り]を愛でる。

第二房で「桜」と桃尻語訳枕草子を少し紹介したので
「桜」と「青緑」を使って第206段を。
(新潮日本古典集成「枕草子」荻谷朴校注
橋本治著「桃尻語訳枕草子」より)

橋本治著「桃尻語訳枕草子」より
本文…PILOT CUSTOM HERITAGE912 FA
訳文…ZEBRA チタンGペンプロ
用紙…SAKAEテクニカルペーパー トモエリバーFP

昭和ギャル語も遠くになりにけり。
ですが、
外出のワクワク感は平安期も現代も同じ。

みどり色濃く、春の日は輝きを増して
のどけし、水は清く、飛沫すらキラキラして
みんなで嬌声を上げる楽しい様子が思い起こされる。
(花粉症の人は皆無の羨ましさ)

橋本治著「桃尻語訳枕草子」2より

しなるペン先の万年筆は、各種いろいろありますが、
Gペンの感覚に近い筆記感をもつものは、
PILOTのCUSTOM HERITAGE912 FA(フォルカン)です。
以降列挙するごとに、しなりは固めに筆記線も細くなりますが、
PILOTのCUSTOM824FAやJUSTUS95、
プラチナ万年筆・富士旬景六花などは強弱のついた線が引けます。

長さも共に長くなつていつた。
紫色本文…プラチナ万年筆・3776センチュリー富士旬景六花
青緑色本文…PILOT CUSTOM HERITAGE912 FA
用紙…山本紙業・COSMONOTE・コスモエアライト

よくしなるからといって、Gペンと同じ様に扱っては
ペン先がすぐにダメになります。
Gペンですら、力任せに扱い続けるのは酷というもの。

筆記具それぞれの扱い方は千差万別なれど、
万年筆もつけペンも毛筆・鉛筆・ボールペン、すべての道具は
「丁寧にやさしく」扱えば、手なじみも早いことでしょう。

しなることで太い線から細い線まで表現できる、
軟ペン万年筆、金属つけペン・毛筆・筆ペン各種は筆圧の加減が肝要。
とくに「細い線」に徐々に変化するときこそ、
丁寧に集中すると狙った線が引きやすくなります。

長さも共に長くなつていつた。2

「太い線から細い線への変化」こそが「しなりの醍醐味」。
太い線にこめた力を脱力していくタイミングこそが重要。

はね・はらい・しんにょう等、
小学校でならう書写の基本が、他の筆記具への応用の土台です。
たとえ、ペン先が硬い「しならない」類でも。

しならないペンとして万年筆の特殊ペン先
(ふでDEまんねん等ペン先曲折のもの)や、ガラスペン、
金属つけペンその他での強弱線の表現については次回またご紹介します。

中村草田男 「萬緑の中や吾子の歯生え初むる」
光村図書・中学3年国語教科書掲載(萬…万の旧字体)

万緑の吾子の歯
用紙…SAKAEテクニカルペーパー・トモエリバーFP

中村草田男がこだわった言葉「萬力」。
髪や爪(死んだ細胞)と異なり、
歯がはえる=生命エネルギーの強さ。
真珠のような乳歯の発見のよろこびは何物にも代えがたい。

葉が萌え出づるエネルギーもあいまって、
葉の緑と歯の白のコントラストを意識して、
インクはたっぷり濃いめに塗り、作者名をマスキングして白抜きしました。

鉱物と葉
ペンハウスオリジナル:シンフォニーアダージオ青緑に澄む日の休息
用紙…コスモエアライト

今回のイラストは、鉱物と葉を。
どちらも紙の白地を残す塗り方で表現。
万年筆でアウトラインを書いたら、水筆でのばします。
鉱物の方はホワイトをかけて仕上げました。

鉱物と葉2
3776センチュリー・ローレルグリーン
ペリカン・マーブルブルー
ペリカン・スーベレーン
PENLUX レインフォレスト
プレジール・ティールグリーン
シンフォニーアダージオ・青緑に澄む日の休息
シンフォニーアダージョ・樹冠を奏でる詩人の森
大西製作所・セルロイド製万年筆・ライトグリーン
大西製作所・セルロイド製万年筆・ターコイズ

空の高度をあげていけば青は紺へ、宇宙空間では黒へ。
海の深度をすすめると碧は紺へ、光届かぬ深海では黒へ。
青(碧)は縦にどこまでもy軸方向
緑は横にどこまでもx軸方向

光が届く間だけの、色揺らぎを楽しむ醍醐味。
箱もインク名も世界観も美しい、季節と自然の色を体現。
インクの様々な楽しみ方の入口となれば、幸いです。

早生や未熟を示す「あお」、
萌え出づる草木の芽吹きや初物、
たっぷりとしたゆたかさ総称の「みどり」の意味から、
「青二才」や「みどりの黒髪」等、
「あお」「みどり」を使うたくさんのことばがあります。

未熟は、経験さえ重ねれば変えられる、未来への可能性です。
そして経験を積み上げることで、さらにゆたかな自分になる。
Change!
アンド(安堵)リセット!
春はそんなリセットにふさわしい、
希望にあふれた新しいスタートの季節。

春になるたびに、
「人生のリセットボタンを連打」と座右の銘を胸に刻み直して、
毎春「はじめの一歩」な朝比奈斎でした。
ではまた。

今回のメインインク
Pent〈ペント〉 ボトルインク 彩時記 春~spring~ 青緑(あおみどり)

この記事を書いた人

朝比奈斎
朝比奈斎
憧れの高級文具から教室に忘れ去られた名もなき消しゴムに至るまですべての文具を偏愛する者。
文字は下書き無し・肉付け塗り無しの一発書き。
文具・画材・多肉愛好家として雑貨店「SHOP511」にて多肉植物の育成販売と文具雑貨諸事の販売に携わる。好きな言葉は「玉石混淆」

Twitter:@asahinaitsuku
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