玉石参房 第四十三房 AUG夏のふりかえり―文学書写ことはじめ―
世界の筆記具ペンハウス

玉石参房 第四十三房 AUG夏のふりかえり―文学書写ことはじめ―

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今月のこり5日での公開となりました「玉石参房8月号」。
地域によっては、すでに新学期が始まっているところもあるでしょう。
季節の温度調整が0か10で極端な【令和ちゃん7歳】に翻弄されつつ、
残暑ニモ、イキナリ変ワル季節ニモマケズどうぞよしなに。

暦の上ではすでに秋。
楽しい夏を振り返る、内省の時期。
今回は趣向をかえて、【ふりかえり】を中心に
夏の間に書いたいろいろな作品を新旧併せてご紹介いたします。

先月の振り返り
書いて楽しい筆記具MATTEHOP!
「乾燥が早いのはいいけれど、
うっかりするとインキがおりてこなくて書けない場合、
どうすればいいの?1か月検証中!待て次号!」
というご紹介が先月でした。

わたくし個人の解決法をご紹介いたしますが、
ぺんてる公式とは多少(随分)違うところもありますので、
自己責任」として、解説文は約款のようにちーいさな字で書いてありますのを
どうか大目に見ていただきたく。


用紙:山本紙業・スライトホワイト
丸ペン:ZEBRA・丸ペン-A
万年筆インク:Pent・Pen-house blue
顔料ペン:ぺんてる・MATTEHOP

過去の記事でも折々に書いた方法をまとめて書きました。
手順①のみでインキがおりてくる場合もありますし、
②を試しても芳しくないときは③で、お試しを。

内部芯のなかの空気だまりを上部に移動させる目的が①
顔料インキ乾燥状態に水分を補充する目的の②
固まった顔料を溶かす目的の③

強くたたきつけるような筆記だと破損の場合があるので、
充分ご注意ください。

※※※※

大人向け塗り絵にも採用されている用紙スライトホワイトは、
生産終了のb7ナチュラル(コスモエアライト)に比べると
ほんのすこし表面がでこぼこした紙面の微塗工紙。

ペン先の接地はふんわりながらも、書き心地は滑ることなくしっかりとどまる系。
インク水分量にもよりますが、わたくしが通常使っているインクでは、
インクが裏にまで染みる裏抜けや書いた文字が裏ページに透けるような状態は皆無。

※※※※

わたくしが通った岐阜の小学校は、当時、
教育意識の高い先生方が揃っており、
工夫を凝らした独特な授業が楽しみな日々でした。

そうすると教育実習生も例年気合が入っており、
児童と実習生先生との仲も非常によく、
最終日の「お別れ会」に向けて実習生先生方も企画を練るし、

もちろん児童側も精いっぱいお見送り企画を頑張るので、
お互いに心をよせあい楽しい時間はあっという間。

別れを惜しみ感極まって号泣される実習生先生方のお姿を拝見すること複数回。
今思えば、とても素朴で、稀有な教育現場でした。

その実習生先生のお一人が、最後のお別れの記念品として、
小学生にはレアな真っ黒なB5下敷きに、
当時まだ珍しかった白い油性ペンで、

表に文学作品の書写、裏に児童個人にむけたお手紙文章を書いて、
ひとりずつプレゼントしてくれたのです素敵!
徹夜だろコレ!指に白いマジックついたままだし!

旧姓の出席番号がクラスでラストのわたくしは、
先に開封している級友たちへのすてきな文言、

あまんきみこの「白いぼうし」や
黒田三郎の「紙風船」、
谷川俊太郎「朝のリレー」などの

みじかくてやわらかな文章の詩の、白色の文字が、
黒地の表と裏に綴られているのを見て、
自分の黒下敷きには何を選んでくれているのだろう、と
わくわくしながら袋を開けた10歳のわたくしの目に入った文章がこちら。


万年筆:プラチナ万年筆・3776センチュリー・シャルトルブルー・BB(極太字)

教科書に掲載している児童向け作家陣のネタが出席番号48番目で尽きたのか、
がっつりびっしり埋めた白文字にて、ご自分の趣味を解放なさったのか、

どの級友にもだいたい似合っている作家文言のなか、
「このこども(わたくし)には寺山修司は適合だ!」
とその先生は判断されたのか、

真実は藪の中、しかしこどもだったわたくしは、
「…?…寺山修司って、だれ?…」
と困惑したのでした。そして図書館で「寺山修司」を調べ、

たら良い話なんですが、全く触れることなく20代となり、
寺山修司題材の講義にて偶然この詩に再会。
そうだ、見覚えあるぞ、これだよ!と膝頭を連打。

(いただいた下敷きは当時もったいなくて使えなくて、
たまにとりだして読み返したものの、その後、
複数の引っ越しと断捨離魔の母によって行方知れずに。)

ふりかえれば、他人から自分に向けて作品を選んでもらい、
その人の文字で丁寧に書かれたものを受け取ったのは、
これがはじめてでした。

書くおくりもの。
何十年経っても、こころに残るプレゼント。

これがわたくしにとって最初に目にした「文学書写作品」でした。
名まえもお顔もおぼろげになってしまった先生の想い出は、
詩の言葉によってこれからもずっと続いていきます。

※※※※

夏のあいだに制作した新旧書写より抜粋。


色にいざなわれて開ける扉の向こうにひろがる、
濃く淡く美しい万年筆インクやさまざまな筆記具、紙の世界。
文具の楽しみの入り口となれば幸いです。

号泣実習生を見送って約十数年後、今度は自分が実習生。
転居先母校の女子中高一貫校はなかなか手ごわく、涙一滴すら絞り出せない思い出もつかのま、
卒業後すぐの4月からそのまま同校赴任先として続行、怒涛激務白目な教員時代を経た朝比奈斎(教え子の結婚式スピーチをかぶらないようにする苦心)でした。ではまた。

<登場インク>
Pent〈ペント〉ボトルインク ペンハウスブルー 20ml
<ペンハウスでお取り扱いのある筆記具>
ゼブラ 丸ペン-A 100本入り
ぺんてる マットホップ

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この記事を書いた人

朝比奈斎
朝比奈斎
憧れの高級文具から教室に忘れ去られた名もなき消しゴムに至るまですべての文具を偏愛する者。
文字は下書き無し・肉付け塗り無しの一発書き。
文具・画材・多肉愛好家として雑貨店「SHOP511」にて多肉植物の育成販売と文具雑貨諸事の販売に携わる。好きな言葉は「玉石混淆」

Twitter:@asahinaitsuku
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