吸盤。
蜥蜴に吸盤はないのだよ。
小説本文に書いてあるんですけれど。
ごめん、ないの。
ガラスにへばりつくヤモリにも、
吸盤はないのだよ。
両生類のイモリにも吸盤は、ないんだよ。
つぶらな瞳が愛くるしいカナヘビだって、ないんだよ。
カナヘビは指5本。
蜥蜴も指5本&かぎ爪あり。
ヤモリも指5本。
イモリは前足指4本&後足指5本。
どれも吸盤なし!
有隣目(爬虫類)はヤモリ・蜥蜴・カナヘビ!
イモリは両生類!おなか赤!
ニホントカゲの腹部から尻尾は
エメラルドグリーンからメタリックブルーで生きた宝石の如し!
ぼくらはみんな生きている!
とはいうものの、1934年(昭和9年)発表以来、
令和にいたるまで何度も舞台化・映画化・ドラマ化され、
水谷八重子(初代)・丸山(三輪)明宏・小川真由美・岩下志麻・
坂東玉三郎・篠井英介・倍賞美津子・島田陽子・松坂慶子・
浅野ゆう子・真矢みき・りょう・中谷美紀・河合雪之丞等の
錚々たる俳優たちに演じられ続けている女賊、
しかしながら、
【蜥蜴だったりヤモリだったり】で入れ墨演出されることもある、
「賢明なる読者諸氏、」という作品内の呼びかけで、
わたくし含む昭和少年少女を魅了し、
一大探偵怪奇小説ブームを支えた、
「黒蜥蜴」by江戸川乱歩
のイメージインク「コトバノイロ・黒蜥蜴」にて
朝比奈斎(爬虫類好き・はじめてのペットは自分でつかまえたカナヘビ・つぶらな瞳が愛くるしい・何度でも言う)が
お色見本を作ります。(一気長文により息切れ)
どうぞよしなに。
赤系青系両方を内包する、
深い闇をあらわす濃い黒には時にグリーンフラッシュ、
黒から紫、ある時はモーヴピンク、
加水によって淡い藤色からあるかなしかの儚い水色まで千変万化。
まさに「変装の名人・黒蜥蜴」のようなお色。
黒蜥蜴の登場シーンはとても印象的。
未乾燥インクの濡れた色艶感と、
乾くまでの色変化が、女賊の心の機微をあらわしているようです。
ここに、透写紙に黒蜥蜴登場場面を重ねて。
用紙:SAKAEテクニカルペーパー・イロフル
KOKUYOトレーシングペーパー(透写紙)
Gペン:立川ピン製作所
軸:大西製作所・コルト・折り紙
頭部、ヤモリっぽいですが、虚構世界の意匠ということでご容赦を。
三島由紀夫が著した戯曲版(絶版)の表紙には、
頭部も扁平・5本指かぎ爪の黒蜥蜴イラストが。
女賊・黒蜥蜴に勝るとも劣らない変装の達人・名探偵明智小五郎。
追うもの追われるものの畳みかけるような心理戦、
短い台詞に内包される彼と彼女の心の移り変わりが、
三島由紀夫戯曲版の醍醐味です。
黒蜥蜴に惚れているのではないか、と助手達から揶揄われ、
まんざらでもない明智の返答を。
用紙:三善トモエリバー
Gペン:立川ピン製作所
軸:大西製作所・コルト・折り紙
まんざらでもなさそうで、
割と酷いことをさらっと言う、三島戯曲版・明智小五郎。
ツンデレどころかALLツン照れ隠しのこの男に
黒蜥蜴は惹かれていきます。
言葉の裏側にひそむ本音を、しっかり感じ取っている黒蜥蜴。
愚鈍な人間を寄せつけないこの二人は、
向き合うだけで世界が完成。
そんな黒蜥蜴の唯一の本心を、三島戯曲版より。
富や美への執着は、時に崇高で、時に醜い。
愛情不足の裏返しによる執着が、
知らぬ間に「他人を見下す」愚かさへ。
乱歩原作でも三島戯曲版でも、
103カラット(手のひら大)もある、
劇中ダイヤモンド「エジプトの星」の描写が意外とあっさりなのは、
黒蜥蜴や明智小五郎達の生き様、
心の煌めきこそが宝石にもまさるから、と言えましょう。
※※※※※
クリスマスです。
年の瀬です。
黒蜥蜴初登場シーンは、(文化的にも熟して一番良い時代だった)昭和初期のクリスマスパーティ。
クリスマス、黒、そして毒という3つの連想から
黒のクリスマスローズやクロッカスを透写紙で。
薄めの透写紙にインクを載せると紙が反るのをいかして、
花の立体感を。
黒い花(深い紫)は平成から品種改良がすすみ、
園芸品目としては、スタイリッシュ・クールなイメージで人気。
クリスマスローズ他多種の花々、多肉植物、観葉植物にも
黒植物のブームがきています。
冒頭の一面塗り画用紙はクリスマスオーナメントとカードに。
本来のクリスマスは、うかれた祭りではなく、
東方の3人の博士以外誰にも知られない、
ひっそりとしたキリストの生誕、
闇のなかのひそかな光。
そして生誕を知ったヘロデ王による2歳以下乳幼児虐殺、
ゆくゆくは十字架磔刑、と死がまとわりつくもの。
人間の愚かさはいつになっても変わらず絶望的、
それでも救済として、犠牲となる運命がすでに決まっている、
赤子キリストの誕生。
贖罪の死と復活の約束が、クリスマス。
こんな人がいたんだよ、忘れないで、Merry Christmas 。
西洋ではそのような長い冬のホリデー期間、
東洋は切り替わりが早く、
クリスマス過ぎれば年の瀬一気に新年の準備。
イベントごとに町の雰囲気もガラリとかわる面白さ。
このリセットボタン連打感がたまらない年末年始です。
今年の悔恨は、すべて水に流してしまえ!
お賀状は前倒しがどんどん早くなり
クリスマス前には作成終了を推奨され。
おせちも正月休むために、前倒しで。
就活も前倒し。
約束の時間15分前には着くと安心。
律儀で真面目なお国柄。
2分刻みの電車も、そりゃ成立するわ。
印字が多くなってしまった世の中だけど、
手書きもちょっと添えると
律儀なまごころ感がプラスされていいかも、ね。
というわけで、
宛名書きの雄、ふでDEまんねんの出番の時期となりました!
さよなら兎年。
今年もいろいろな字・書体をありがとう、FDM。
以前にも、FDM(ふでDEまんねん)の記事を書きましたが、
しならない特殊ペン先のコツは、軸の倒しとペン先接地面。
ベタで一本調子ではなく、線によって紙への当たり方を変えるのです。
「変えるのです、って言ったって、よくわかんないわよ!」
御意。
機をあらためて動画などの解説、しばしお待ちを。(何度でも言う)
しんにょうや、はらい、はね、今回はこんな感じでトライしました。
拙作短歌。
今回は厚めの料紙。
ふかふかした面だと太さのコントロールがしやすいので、
薄い紙の場合は、やわらかめの書写用下敷きや、
ボール紙を重ねて敷いてもよろしいでしょう。
ふつうに書く、というよりも、
軸は、グリングリンに動いています。
「いや、学校等でならうお習字的にどうなのソレ?!」
というくらい、派手にうごめいております。
なんなら姿勢だって宗像志功的。(個人の感想です)
でも、楽しければよろしい。
受け取るお相手を、まごころこめて思えば、
字形だって、自分のできる範囲でまごころこめれば、
それでよろしいのでは、とわたくしは思います。
いただいたお便りは、どんな字でもうれしいものだから。
それでも書くほう、送る側は、
「なんとか、少しでも良いものを」と心配りする。
書簡の醍醐味は、プレゼントの準備についやす手間・時間とおなじ。
鈴の音クリスマスから年越しの賑わいのなか、
あなたは誰を想って過ごしますか?
ひさびさに、お便りをだしてみませんか?
※※※※
三島由紀夫はこの戯曲版の解説にあたり、
「嘘八百のなかの真実」と記しています。
言葉の奥の人間のこころを、
犯罪・事件をとおして浮き彫りにした、
乱歩・三島の世界観のあらわし方は
現代のわたくし達を魅了し続けます。
江戸川乱歩も横溝正史も、
今の時代にいきていたらどんなトリックを思いつくのでしょう。
どんな時代になっても、人のこころは善きも悪しきも変わらず。
色にいざなわれて開ける扉の向こうにひろがる、
「黒蜥蜴」の世界。
インクの楽しみの入り口となれば幸いです。
乱歩シリーズを経てクリスティなど洋物探偵小説をはじめて図書館で借りた小学生時代、
登場人物一覧で犯人に丸印がしてあって、読む前に膝から崩れ落ちた朝比奈斎(飼い猫と対話どころか、「お水がない」と要求うるさい加湿器はじめ家電とも対話。AIとはお互いに最高に慇懃な会話文章で人間以上に気を遣うのはAIこわいから。←AI逆襲SF映画の見過ぎ)でした。ではまた。
よいお年を。
<今回のメインインク>
・Pent〈ペント〉ボトルインク コトバノイロ 黒蜥蜴(くろとかげ)
朝比奈さんからのお知らせ
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朝比奈斎の玉石参房
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この記事を書いた人
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憧れの高級文具から教室に忘れ去られた名もなき消しゴムに至るまですべての文具を偏愛する者。
文字は下書き無し・肉付け塗り無しの一発書き。
文具・画材・多肉愛好家として雑貨店「SHOP511」にて多肉植物の育成販売と文具雑貨諸事の販売に携わる。好きな言葉は「玉石混淆」
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