玉石参房 第四十一房 JUN芒種夏至―未熟な僕ら・桜桃忌に寄せて―
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玉石参房 第四十一房 JUN芒種夏至―未熟な僕ら・桜桃忌に寄せて―

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太宰治の桜桃忌によせて


6月19日は太宰治の生誕日&桜桃忌。
これによせてコトバノイロ「斜陽」を中心に、
各種インクや文具についてご紹介します。
今回は画像&動画!
つたないゆえに、どうぞご容赦&よしなに。


インク:Pent:Pent・コトバノイロ・斜陽
用紙:sutta・MEMENTO_Pocket・コンケラーウーブ
Gペン:ZEBRA
ペン軸:くらふと鈴来・ホールドレバー式


愛人・太田静子の日記を参考に構成された「斜陽」。
この作品完成後に非嫡出子・太田治子が誕生し、
その半年ほど後に別の情婦と多摩川入水した太宰治。

「斜陽」発表から9か月の間に世に出た作品には、
太宰の常時不安定な心情が色濃く表れています。

太宰の遺体が発見された日は
死の直前期に発表された「桜桃」にちなみ、
「桜桃忌」と。

墓碑銘にサクランボを埋め込んでいく太宰ファンが毎年いるので、
お墓の管理者がたいへんお困りとのこと。「丸善おきざりレモン」的。

閑話休題、
その「桜桃」での登場人物、家庭を持ったとはいえ、
大人として責任に向き合うようでいながら
肝心なところで顔をそむけてしまう、
あやうい夫婦の淀む緊張感がさすが!の「桜桃」より。


併用インク:Pent・彩時記・麗春
      IWI・Color of Nature 夏コレクション・芒種・夏至
用紙:SAKAEテクニカルペーパー・イロフル
Gペン:ZEBRA・チタンGペンPRO


読者を挑発する、ぎょっとするような厭世的な表現があるかと思えば、
未成熟な大人の弱さをこれでもかと見せつけたり、
人によっては作風にげんなりしがち(←わたくしです)ですが、

そんな空気感の中で一瞬、
美しくせつない、薫るような表現の文章が、
鈍色の雲間からやわらかく一筋降る光のように差し込んでくる。
この瞬間の明暗が太宰作品の魅力だと個人的に思います。

コトバノイロ「斜陽」インクは一見、テラコッタオレンジ、
強い色ですが、加水分離させるとこちら。↓


奇しくもサクランボのような、
とてもやわらかなピンクと黄色に分離。
分離させた紙も薔薇の形によせてまとめましたが、
普通紙でも微塗工紙でも面白い色幅のインクです。

この淡い色をつかって簡易的に季節のアイコンを。


併用インク:Pent・コトバノイロ「蒼穹」彩時記「麗春」
用紙:ツバメノート・ツバメ中性紙フールス


インク水分多めにうすめ、パレットに。
万年筆インク青系のいろで点描、
そのうえにピンクうすめ色水をぽてぽてと置き、
かわくまでしばらく待ちます。

万年筆インク桃色系で点描をかいたら、
今度は青系うすめ色水を同じように置き、
乾くまで待つと…↓


濃い万年筆の点描と淡い色水がとけあって、
紫陽花のふんわりした模様に。
葉のグリーンを入れて梅雨時の彩り表現に。

普通紙の代表として人気の高いツバメノートの紙を使いましたが、
微塗工紙のイロフル、トモエリバー、
ノイエグレーなども発色が変化して楽しいですよ。
紙については、またあらためて次の機会に。

Gペン はじめのいっぽ

Gペンについて


18世紀後半から19世紀にかけての産業革命のおかげで、
羽ペンから鋼鉄製のペン先が大量生産され、世界中に。

1843年(江戸時代・天保14年)には
ミッチェル社がGペンの商標を使用。
ですが、「…そもそも、なんでG?」

それは、AペンからZペンまで
26種類のペン先が作られていたから!!
そして使い勝手の良い「Gペン」が
淘汰されて現世に残ったのだー!!!

…都市伝説の雰囲気ですが、
旧福井商店(現ライオン事務機)の輸入製品として、
Aペン~Zペン記載の明治34年カタログ記録あり。

私事ながら1990年代に短期留学で欧米を訪れた際、
ホストマムの趣味サークル「カリグラフィー」でも
Aペン~Zペンの話を聞いたので、信ぴょう性は高いと思われます。

日本では戦後復興期から1970年代以降にかけて漫画ブームがおこり、
万年筆やボールペンなどが主流になるまで
文字書きとして使われていたつけペン(Gペン含む)を

漫画制作の道具にしたことで、
「絵を描く道具」として昭和世代を席巻しました。
そしてわたくしは、再度文字書きにGペンを推奨いたします。

Gペンを使うときの注意点


Gペンをはじめて使う時の注意点をいくつか。


今回は国産Gペンのみのお話です。
軸は丸ペン(細い金属ペン)専用でなければ
だいたいの軸はOKです。

画像の各軸にはいろいろなペン先が入っていますが、
全部Gペンも使えるものです。
画像一番下は昭和時代のLION製のセルロイド軸(廃番)
まだ使えます。

プラスチック・ガラス・木製、重いもの軽いもの、
いろいろありますが、
自分の手にあう「握りやすいな」と思うもので結構です。

ただし、はじめてお使いになるときは、
まっすぐな軸をおすすめします。

オブリーク仕様など特殊な位置の軸や海外製品のつけペンは、
お値段も張ってきますので、
つけペンにある程度慣れてからの方がよろしいでしょう。


国内Gペンの主な会社は、ゼブラとタチカワ。
(ニッコーは合併し、タチカワ製に)
ペンの根本に会社名が刻印。

上から
ゼブラ・チタンGペンPRO(金)
タチカワ・プレミアムセットGペン(金)
ゼブラ・Gペン(銀)
ニッコー(タチカワ)Gペン(銀)
タチカワ・Gペン(銀)

ゼブラの「G」部分はぷっくり、
タチカワ「G」部分は平面です。

ゼブラはやわらかく、
タチカワは固め、ニッコーはその間くらい。

万年筆でいうなら、

ゼブラ=PILOT カスタムヘリテイジ912&
カスタム742フォルカン(743より742のほうがしなる)
ニッコー=PILOTエラボー、あるいはプラチナ万年筆3776センチュリー六花
タチカワ=PILOTジャスタス95の、目盛めいっぱいS状態

という感じかと。

以前にも書きましたが、万年筆でもGペンでもしなるからと
無理な力でペン先を大きく拡げてしまうと
破損や劣化をすすませるのでやめましょう。
過度な力は紙の繊維をえぐるので、紙にも非常によくないです。


ペン先はできるだけ素手で触らないように。
わたくしはいつも綿手袋をはめて取り出します。

未使用時はサビ止め(油膜)が塗ってあるので、
インクをいきなりのせてもはじいてしまい、
ペンにのりません。
(画像は水をペンの裏に乗せた様子)

この水ごとティシュ等やわらかい紙で1回ぬぐったあと、
もういちど水をのせると、


さっきよりも水が大きく乗っていますね。
この状態でまたやわらかい紙でぬぐいます。
ゴシゴシ禁止。
火であぶるのも禁止。


インクをのせてみます。
ペン先にはまだ乗りません。

でもそのまま、軸をまわして
ペン先表にもインクをちょん、とのせておきます。
ペンの表と裏両方にインクをのせておくと、
最初の線がらくに引けるのです。


ちなみに、
わたくしはペン先を直接インク瓶に入れるのに抵抗があるので、
都度、未使用のマドラーですくってインクをのせるか、

別容器(わたくしの2018年SNS記事では極小の点眼容器使用記事・初出)や
別皿に使う分だけとりわけて、
筆やマドラーですくってペン裏にのせています。

1色だけで書くなら、そのままペン先をつけてもOKです。
(2色以上の使用時は別皿や別容器にとりわけたほうがよろしいでしょう)

Gペンの特徴・使い方


ここで、ペンの得意な方向(〇)と苦手な方向(△)を。


わたくしのフォントだとこんな感じの「あ」と
「しんにょう」ですが、
ふつうに、とめ・はね・はらいの表現ができます。

この表現は、日本字ペン・さじペン・スクールペン
などのご紹介のときにまたお話しいたしますね。

Gペンでは縦方向は太く書きやすく、
横方向や下から上へは書きにくく、線も細いです。

かきにくい方向は、縦よりも力を半分以上抜きましょう。
かるく書くつもりで。

Gペンにも万年筆同様、ペンポイントがあります。
これを見つけると、Gペンでも「ぬるぬる」と書ける感触が。

「さりさり」「がりがり」と音がする場合は
軸の角度が縦すぎて、
ペンポイントが合っていないかもしれません。
軸を思い切り寝かせて書いてみましょう。(後述)

合わないまま無理に力任せに書き続けると、
あっという間にペン先が摩耗します。
Gペンの摩耗はかなり早いです。

鉛筆持ちの角度では、うまく書けないことが多いです。
個人差のある手の向きや力加減、調整がむずかしいですが、

わたくしのペン字講座では、

一番最初の新品のペン先をおろすとき、
つまり、はじめて線をひくときは
やりにくい「横方向」から始めます。


まず、軸を「歯ブラシ持ち」に。
親指と人差し指だけではさみ、残りの指はかるくまげて。
そして力を抜いて極細い線を10本ほど横にひきます。
シャッシャッと軽やかに。↓

※動画(画面を大きくすると、音がでます)


つぎに鉛筆をもつような形に持ち替えて、
縦に線をひきます。
横のときより、ゆっくり。
力不要。


インクがちゃんとながれているなら、
動画のような線を書いてみましょう。

※動画(音はでません)


以上が、わたくしがおすすめする、
【Gペンはじめのいっぽ】です。


初期準備後は、ちゃんとペン先までインクがのるようになります。
ペン先を横からみてインクがぷっくりと盛り上がらない程度が
ボタ落ちせず、ちょうどよいインク量で綺麗な線がひけます。

はじめはうまく書けなくても、
何日か経ってもう一度やってみると
今度はうまくできた!ということもあるので、
どうぞよしなに。

Gペンの次の段階【書体と色】は、
機会があるときにまたご紹介します。

おわりに


ペン立て:Pent・ケイシイズ・USオイルド ステアハイド・タイムウォーン
ガラスペン:GeckoDesign・プルームガラスペン
ノウゼンカズラとリス用紙:吉川紙商事株式会社・ノイエグレー・プレゼンテーションペーパー


「斜陽」冒頭をGペンのみで3様、
6月時の記念日にあわせ、キケロの名言と、
芒種・夏至の名のついたインクと「斜陽」インクをあわせて
初夏の花ノウゼンカズラとこの時期活発に姿をみせるリスを。

色にいざなわれて開ける扉の向こうにひろがる、
濃く淡く美しい万年筆インクやさまざまな筆記具、紙の世界。
文具の楽しみの入り口となれば幸いです。

ほぼ夜明け、すがすがしい山の空気のなか、とびだす野生動物はリス。
ネコと同様、はっと止まってまた突進するので、教習所内のような速度。
夜中は鹿やカモシカが道路を立ちふさぎ目尻垂れる朝比奈斎(サル・クマ・イノシシ・ブヨ・アブは許すまじ)でした。ではまた。

<登場インク>
Pent〈ペント〉コトバノイロ 斜陽
Pent〈ペント〉コトバノイロ 蒼穹
Pent〈ペント〉彩時記 麗春
IWI Color of Nature 夏コレクション
<ペンハウスでお取り扱いのあるGペン>
タチカワ/日光
ZEBRA

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この記事を書いた人

朝比奈斎
朝比奈斎
憧れの高級文具から教室に忘れ去られた名もなき消しゴムに至るまですべての文具を偏愛する者。
文字は下書き無し・肉付け塗り無しの一発書き。
文具・画材・多肉愛好家として雑貨店「SHOP511」にて多肉植物の育成販売と文具雑貨諸事の販売に携わる。好きな言葉は「玉石混淆」

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