そろそろ覚悟の時期でございます。
児童のみなさん、宿題仕上げの覚悟を。
生徒のみなさん、夏休み明けの定期試験の覚悟を。
大人のみなさん、お盆移動と休み明け勤務の覚悟を。
二度と戻らぬ夏の日の煌めき、たいせつに過ごして参りましょう。
と、嫌なことを魔女のごとく唱えながら、もう終わりのような雰囲気を醸します。
ポキポキ(半分に割るくびれ袋状氷菓・各地名称種々)を口にくわえて、
だらだら汗をかきながら、ひたすらこれを書いております。
去年も叫んだけど、「今年、暑すぎない!?」
ご自愛ください!
いや、終わってまうがな。
元気出せ。(叱咤and叱咤)
そんな時には、色の力を借ります。
というわけで、今回は元気はつらつビタミンカラーの彩時記「向日葵」を、
夏の湿度にコールド負けの虚ろな朝比奈斎がお色見本を作ります。
どうぞよしなに。
向日葵の黄色は元気そのもの。
青空と蝉、向日葵、夏の風物詩フルコンボだドン♪(太鼓の達人)
丈夫で育てやすく、夏に負けそうな時に色で励まし、
種まで食べられ、リノール酸ビタミンE葉酸マグネシウム鉄分で
夏のお疲れ気味な諸氏を元気にサポート!
元気の権化。(烏天狗from「いだてん」)
そんな向日葵、いったいいつから人間と共にあったのか。
元気色「向日葵」の黄色は、オレンジ寄りの黄色、
他の色と合わせても「うまくなじむ色」なので、
文字書きや絵画に使うと、とても映えます。
与謝野晶子のみずみずしい感性で表現されています。
青と黄色は反対色でありながら、夏空と花のイメージ、
混じり合うことで出る緑の色は、葉や茎、夏の緑と連動します。
北アメリカ原産の向日葵のいちばん古い記録は、
紀元前1500年前ネイティブアメリカンの食用とのこと。
(同時期、日本列島では縄文人が稲作開始頃)
次に古い記録は15世紀インカ帝国で神殿装飾のモデルとして。
(同時期1434年足利善教が世阿弥を佐渡島流刑)
1498年コロンブス・アメリカ大陸発見で持ち帰る。
(同時期1495年北条早雲が小田原城を攻め落とす)
コロンブス新大陸発見以後、観賞用向日葵が広まり、
元気な黄色で人々の心を癒しながら、16世紀には欧州全土に広まります。
およそ100年かけて。
(日本では同時期、武士のバトルロワイヤル開始)
染料インクを背景色に使うときは、
まず用紙の裏にたっぷりと水を塗って紙がたわむのを防ぎます。
「向日葵」の明るい黄色は、光の表現にもぴったりです。
16世紀に欧州からロシアへ向日葵が伝わると、
ここで初めて向日葵の種の食用と食用油搾取がおこなわれます。
しかし、ロシア正教で禁止されていた油脂食品リスト内に記載漏れ
(「いや、向日葵から油とれるとか知らんし」的な教会側)
ゆえに、
宗教上の規制で食糧不足にあえいでいた民衆は、
「…禁止リストにないから、ヒマワリ食べちゃっていいよね?」
的にヒマワリの種の常食へ。
「もっと大きく、もっとたくさん」と品種改良と栽培へ。
そして世界全体の4分の1のヒマワリ油生産へ。
そのような歴史から、ロシア・ウクライナ共に向日葵は国花に。
(同時期日本では戦国時代の群雄割拠。桶狭間とか長篠とか本能寺とか)
洋の東西問わず、宗教にしろ戦にしろ、
上位身分者たちの勝手なルールや争いによって
民衆は抑圧されていく時代です。
ですが、そんな苦境にも屈強に耐えていく民の力強さよ。
つけペン:ブラウゼ・オーナメンタルニブ
立川ピン製作所・日光Gペン特上品
インク:彩時記「向日葵」 Kuretake・書芸呉竹
「向日葵」で中国思想の八龍の名を篆書で書いた上に、
Gペンと書道液で八龍についての英文を書きました。
黄色で文字を書くことはまれだと思いますが、
書いた文字の上にさらに書く表現のときは、黄色系こそぴったりです。
ただし、染料インクを用いた背景上に文字書きをするときは、
墨液や顔料多めのインクなど、
粘り気のあるものだと滲まずに綺麗に書けます。
染料インクや顔彩の背景や、滲んでしまう用紙しかない時など
水分多めのインクを増粘させる手法は、また次の機会にご紹介します。
向日葵が中国から日本に入ってきたのは17世紀中頃。
(「武家諸法度」制定の頃1663年)
当初は「丈菊」と呼ばれていたのが、
5代将軍徳川綱吉が生類憐みの令を出した1687年、
(欧州ではニュートンが万有引力を発見した1665年から約20年後)から
日本での「ひまわり」という現在名が定着していきました。
インク:「向日葵」「幻蒼海」
つけペン:ブラウゼ・オーナメンタルニブ
立川ピン製作所・日光Gペン特上品
向日葵がつねに明るく平和的な色であることを、
「放浪記」では次の希望として表現します。
それは日常の悲しみが土台となっているからこそ。
大きな戦いでなくても、日々の暮らしの中での
小さな憂き事は、誰にでもある。
その困難の悲しみを土台にして、
なお生きていかねばならぬ人間の強さよ。
その困難を克服する歓びを綴る、モリエールの言葉を描きました。
向日葵といえばゴッホ。
ゴッホ死亡のひと月前、末妹にあてた1890年6月の手紙より。
アルルの気候と画家仲間との時間に魅せられて、
希望を胸に過ごす日々は、
明るい黄色と上品な青を使う作風へ変えさせたものの、
事はうまくゆかず、挫折と絶望、
才能を認められなかった日々の苦痛の上に、
それでも希望を捨てないで描き続ける芸術への覚悟が、
彼が描き続けたねじれあう線描にも、にじみでているように感じます。
「今でなくでも100年後に誰かが」
なんという現実の悲哀と、未来への希望の力か。
インク:彩時記「向日葵」「幻蒼海」「松風」
使用画材:東山マスキングライナー
向日葵のやさしい黄色は、強さだけではない。
水を加えていくと明るい黄色に、
もっと淡くするとふんわりとしたクリーム色に。
加水した淡い黄色は、絵画の下塗りや背景にとても便利です。
また、文字を書いていて余白がさみしいときは
周囲の枠として塗ると、額縁的な効果で締まります。
日々の悲しみを土台として乗り越える、
前向きな意思と覚悟こそが、「元気」となる。
どんな苦境ものりこえて、
いつか平和に、その花の色を皆で愛でられますように。
箱もインク名も世界観も美しい、自然の色を体現する「向日葵」。
インクの様々な楽しみ方の入り口となれば、幸いです。
「…大好きなのはヒマワリの種(フィボナッチ数列)…」と、
空になったポキポキの容器をくわえたまま、口ずさんでいます。
1997年「とってもハム太郎」連載開始。のちの「とっとこハム太郎」。
アニメ版ハム太郎も、インク「向日葵」と同じ元気色。
元気の権化。
オラにも元気をちょっとずつ分けてくれ。(孫悟空fromドラゴンボール)
おとなになっても毎年「夏のアニメ祭り」気分、
二つに割れる氷菓の、お得な感じが大好き朝比奈斎(朝三暮四・「太鼓の達人」はいつも無謀に「おに」にて玉砕)でした。
ではまた。
<今回のメインインク>
・Pent〈ペント〉 ボトルインク 彩時記 夏~summer~ 向日葵(ひまわり)
この記事を書いた人
-
憧れの高級文具から教室に忘れ去られた名もなき消しゴムに至るまですべての文具を偏愛する者。
文字は下書き無し・肉付け塗り無しの一発書き。
文具・画材・多肉愛好家として雑貨店「SHOP511」にて多肉植物の育成販売と文具雑貨諸事の販売に携わる。好きな言葉は「玉石混淆」
Twitter:@asahinaitsuku
Instagram:@asahinaitsuku