世界の筆記具ペンハウス
文具好きの小部屋
『文具好きの小部屋』は文具を愛してやまない人々が集まるペンハウスの一室。 整然と並んだ本棚の前には、古い書斎机と座り心地の良い長いソファ。 さてさて、今日も誰かが熱く文具を語り始めます。

万年筆の仕組みとペットボトル~インクがスムーズに出てくる理由~

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万年筆の仕組みとペットボトル~インクがスムーズに出てくる理由~

 パイロットコーポレーションから1000円で購入できる万年筆「KAKUNO」が発売されてから、これまで興味がなかった人にも身近な存在に感じてもらえるようになった気がする万年筆も、まだまだ日常的に使う人は少数派です。

経済の二極化が謳われる中で、万年筆も二極化現象にあり「使う人」「使わない人」の隔たりはやはり大きいようで、「使わない人」にとって正体がわからないものへの恐れ「壊してしまったらどうしよう」といった不安がそうさせているのかもしれません。

万年筆の仕組みとペットボトル~インクがスムーズに出てくる理由~

万年筆の構造は思う以上にシンプル、分解できる万年筆のパーツを並べてみる

高級万年筆の代表といえるモンブラン「マイスターシュテュック」も低価格な万年筆「KAKUNO」も使っているパーツの違いはあっても、万年筆の原理は基本的に同じです。

分解が可能な万年筆のパーツを並べて見てみると、意外にシンプルな構造だとわかります。
しかし、万年筆をブラックボックス化しているもうひとつの要因に、「どうしてペン先からインクがしたたり落ちないのか?」という現象が残ります。

 これの仕組みを理解しようとすると、万年筆専門誌や書籍に必ず出てくる単語が「毛細管現象」です。この言葉をさらに紐解くと「細い管を液体面に立てるとその液面が水平面より高く…」と、万年筆とどう結びつくのか理解がおよばず、辞書までもがブラックボックスのように思えてきます。

今回「毛細管現象」の話はひとまず置いておいて、インクが出る仕組みを私たちにとって身近な存在であるペットボトルのドリンクに例えてみようと思います。

 ペットボトルに直接口をつけて飲むのはいささか上品さに欠けますが、中身をごくごくと飲んでばかりでは、やがて飲みにくくなります。ペットボトルの中にあるドリンク(液体)は飲んだ分だけの容量は減りますが、容器内の空気が圧縮されただけで体積(容積)はかわりません。

人間の飲む力が強いために圧縮された空気に容器が耐えきれずにへこんで変形しますが、元に戻ろうとする力が働き飲む力と引っ張り合いになります。これを飲みやすくするためにはペットボトルの中に空気を送り込んでやれば、またスムーズ飲めるようになります。

万年筆に置き換えると、紙に書いて消費されたインクと同等の空気を万年筆の中に送ってあげる必要があるということです。

万年筆の仕組みとペットボトル~インクがスムーズに出てくる理由~

左:ペン芯中央にはあるのはインク溝、右:空気孔

 そのために、ペン芯にはインクが流れる溝「インク溝」と空気を吸い込む穴「空気孔」がちゃんと作られていて、インクフローのよさはこのバランスの上に成り立っています。
これは「気液交換作用」という物理的な作用が働いているからですが、先に話が出た「毛細管現象」の原理とが組み合わさり、他の筆記具では味わえない万年筆特有の書き心地が生まれます。

万年筆の筆記は、ペットボトルからドリンクを飲むのと同じと思えば、いまよりもずっと親しみが湧いてくるはずです。

余談、万年筆の日
 1809年イギリスのフレデリック・バーソロミュー・フォルシュが金属軸の中にインクを蓄える万年筆の原型を発明して特許を取得した日が9月23日で、この日を「万年筆の日」として定められました。その後、毛細管現象を活用した基礎構造が確立されて、今日の万年筆に至っています。
自動車のエンジンもまだ大いなるブラックボックスのひとつですが、運転免許証を取得しただれもが、エンジンの仕組みを正確に理解していなくても自動車の運転ができるように、万年筆というブラックボックスの詳しい仕組みはわからないままでも、だれも日常的に使える時代になって欲しいと思う今日この頃です。

この記事を書いた人

出雲 義和
出雲 義和
文具ライター、システム手帳から綴じノートまで複数の手帳を使い分ける、手帳歴40年のマルチユーザー。
「趣味の文具箱」「ジブン手帳公式ガイドブック」などの文具雑誌や書籍をはじめ、旅行ライターとしても執筆活動を行い、文具と旅の親和性を追い求める事をライフワークとしている。
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