万年筆を本格的に使うまでは、それほどこだわりがなかったのが紙もの類。ノートは学生時代から好きで、あれこれと集めていたけれども、純粋な紙の類にはあまり興味を持つことができなかった。
ボールペンで書く分には紙なんてどれも同じだろう(実際は違うということはいろんな紙を使うようになってわかったことではあるのだけれど)と思っていたし。
ところが、万年筆で文字を書くことがメインになってから急に紙が気になりだした。さらにInstagramやTwitterといったSNSに投稿をするようになってから紙にもこだわりを持つようになった。
インスタ映えする紙、万年筆のインクが引き立つ紙を探し求めて、あれこれと試す毎日が続く。
「インク沼」同様、紙にも「紙沼」というのがあるらしく、しかも、「紙沼」はインクと比べると比較的リーズナブルで場所も取らないので、ついつい深みにはまってしまう恐ろしい沼だ。
そんな紙沼の住人におすすめの素晴らしいアイテムを今日はご紹介したいと思う。
今までもこのコラムで何度も登場したあたぼうステーショナリーの「ふたふで箋」だ。これは、もともと400字詰め原稿用紙の「飾り原稿用紙」が元になっているのだが、個人的にはこの200字というのが非常に使いやすいので愛用している。
おそらく一ヶ月で1パックは使ってしまうというくらいの愛用者だ。まず注目したいのは、デザインが秀逸であること。現在、「碧翡翠」「蔓葡萄」「波抹茶」「金鶯錯」の4種類の柄のふたふで箋が発売されているが、どれもこだわりが見られる作りになっており、そのこだわりを随所に感じられるところが大きな魅力と言えるだろう。
では、それぞれの注目ポイントを見ていくことにしよう。
まずは「碧翡翠」。
このコラムを読んでいる人だったら、ご存じだと思うが、ぼくは大の青好き。しかも、少し緑がかったターコイズ系の色が好きなのだが、この原稿用紙はまさにそんなターコイズ好きにはマストアイテムだ。
これは「飾り原稿用紙」「ふたふで箋」共に言えることだが、全体を飾っている柄もマス目の枠の色も単色なので、デザインがより引き立つ。だから、この「碧翡翠」は色そのものがぼくの好みということになるのだ。
さらには、カワセミにヒントを得たポイントにも注目したい。
まず、上部の両脇には飛んでいるカワセミが対照的に描かれている。そして、下部の両脇には水辺に佇むカワセミがいるのだ。しかも、その下には波紋が広がっているところが心憎い演出だ。
全体を囲んでいるのは川の流れをイメージする波紋で、さらに5文字ずつの区切りの部分に小さな魚が描かれているのも面白い。それもさりげなく描かれているから邪魔にならないし、さらに全体のコンセプトにもぴったり合っているところがユニーク。位置によって魚の形や向きが違っているのも凝っている。
また、真ん中にある魚尾の上部はカワセミが羽を広げたところをモチーフとしており、下部は川の水面に落ちた水滴を表している。つまり、この原稿用紙すべてが「碧翡翠」の世界観で統一されているのである。
色も魅力的だし、そのコンセプトも好きで、白紙の原稿用紙をぼんやりと見ているだけで様々な妄想が広がっていく。
「蔓葡萄」は、その名の通り、蔓にぶら下がっている葡萄がモチーフになっている。
それが紫色で描かれているので、まさに原稿用紙そのものがその「蔓葡萄」の世界で統一されるのだ。
そして5文字ごとのポイント部分は、その蔓からひょいと伸びた小さな実。これもまた邪魔にならないような大きさだ。葉っぱや蔓を拡大したような魚尾にも工夫が見られる。
「波抹茶」と「金鶯錯」は他の2アイテムと比べると非常にシンプルなのだが、良く見ると、やはり工夫を感じることができる。
「波抹茶」の5文字ごとのポイントは、小さな水滴で、魚尾も上下違ったデザインの波の模様が施されている。
「金鶯錯」は一見シンプルなのだが、良く細かい部分を見ていただきたい。まるでだまし絵のような世界がそこに広がっているのだ。ある線をたどると、いつのまにかその線が下になっていたり、上になったりして、その目の錯覚具合が柔らかいトーンの色で表現されている。この枠の色は微妙な色なので、淡い色のインクだと似合うのではないだろうか。
ふたふで箋は200文字という程よい量の文字数だし、正方形に近いのでインスタにも映える。さらに、保存する時もB6サイズに折りこめるので、散らばることを防げる。
ふたふで箋は、柄だけではなく、色もそれぞれコンセプトに合わせた色なので、その色とインクのコーディネートを楽しむこともできる。
また、縦書きだけではなく、横書きでも違和感がないので、気分や内容によって変えてみるのも良いだろう。
書く喜びをさらに高めてくれるふたふで箋は、気軽に使えるアイテムだし、選ぶ楽しみもあるので、ぜひ全種類揃えて常備しておきたい。
<記事に登場する文具>
・あたぼうステーショナリー ふたふで箋
この記事を書いた人
- 文具ライター、山田詠美研究家。雑誌『趣味の文具箱』にてインクのコラムを連載中。好きになるととことん追求しないと気が済まない性格。これまでに集めたインクは2000色を超える(2018年10月現在)。インクや万年筆の他に、香水、マステ、手ぬぐいなどにも興味がある。最近は落語、文楽、歌舞伎などの古典芸能にもはまりつつある。
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