玉石参房 第二十九房―水無月―「源氏物語」A millennium later 千年後
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玉石参房 第二十九房―水無月―「源氏物語」A millennium later 千年後

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用紙:Pent・大和出版印刷・桜ism
Gペン:立川ピン製作所・タチカワGペン


紀元前2285年から2250年ごろに現れた初の女性著述家のエンヘドゥアンナ。
2世紀末から3世紀初頭、ローマ帝国でロンゴスによって書かれた、
古代ギリシアの長編恋愛小説「ダフニスとクロエ」。

人が集まれば文明が起こる。
何かを書きあらわしたくなるのは世の常、人の性。
それを読んでワクワクするのも文芸の恩恵うける読者の特権。

日本においても奈良時代の「古事記」(712年成立)から始まり、
「日本書紀」「風土記」「万葉集」「日本霊異記」「古今和歌集」と
勅命書物・和歌編纂・説話集などが作られていきました。

以後「竹取物語」(9世紀ごろ成立)を筆頭に
「伊勢物語」「大和物語」「平中物語」、
日記物の「土佐日記」「蜻蛉日記」を経て、

「うつほ物語」「落窪物語」「堤中納言物語」、
随筆の「枕草子」(1001年頃)の成立の後、
今回の真打ち「源氏物語(1008年文献初出)」が世にあらわれてきます。

Pent×藍濃道具屋から出されたイメージインク「源氏物語」を中心に
朝比奈斎がお色見本を作ります。
どうぞよしなに。

「源氏物語」。
紫式部の名前や作中に出てくる植物群、
貴族の高貴な色をあらわすことから、
このインクの紫色も雅なイメージ。


併用インク:Pent・Symphony・麗らかな心の風景
Pent・ペンハウスブルー


普通のコピー用紙(しかも印刷済み・SDGs)
の一面に「源氏物語」を塗り拡げ。

安価な、にじみやすい粗い紙質のほうが、色分離しやすいです。
ピンク系や青系のインクともなじみの良い紫。

塗った紙の上から湿潤材をさらに塗り拡げ、
紙に適度な水分と油分を加えます。
とてもしっとりとした手触りと共に、

湿潤材によってさらに色分離し、紫の部分は裏に青い色が沈んで
表裏が違う色味に。(3枚目・4枚目画像・以下画像)


表裏が違う色の紙は、湿潤材のおかげでとてもしなやかで柔らかな感触に。
(使用した湿潤材については、また次の機会にご説明します。)


用紙:山本紙業・コスモエアライト
ガラスペン:Gecko Design・プルームガラスペン


今の時期や、これからみられる紫色の植物をガラスペンで。

通常は5弁花のキキョウには、八重咲や4弁花・3弁花もあります。
秋に実をつけるムラサキシキブは、
京都では昔から「紫重実(ムラサキシキミ)」と呼ばれています。


用紙:藤と竜胆=SAKAEテクニカルペーパー・イロフル
「手に摘みて」和歌=吉川紙商事株式会社・ノイエグレー
併用インク:Pent・symphony・樹冠を奏でる詩人の森青緑に澄む日の休息
万年筆:セーラー万年筆・ふでDEまんねん40°
藤原定家本・「源氏物語・5巻若紫」内に準拠


戦後初、2019年に発見された藤原定家本「源氏物語・若紫」を準拠として
「源氏物語」作中の重要ポイント、これぞ光源氏、な和歌を、
ふでDEまんねん40°にて。

以前の記事(令和アニメ「平家物語」関連)で
「松に絡む藤」は皇族に強く絡む藤原家の象徴として記しましたが、
「源氏物語」内にも車飾りはじめ、藤のモチーフは何度もでてきます。

そして大河ドラマ「光る君へ」6月23日放送回内での
主人公まひろ(紫式部)の「決意」の文に添えられたリンドウの花は
現代の我々にとっては花言葉もあいまって意味深ですが、
古来より人々に愛され、紫式部も清少納言も愛でた紫の花。

光源氏も若紫を「見る」ことで、
今までとこれからを総括する生き様の決意、
さまざまな因果がこの和歌にこめられています。


用紙:SAKAEテクニカルペーパー・トモエリバー
Gペン:立川ピン製作所・タチカワGペン
与謝野晶子訳「源氏物語・21巻乙女」より


個人的に好きなエピソードは、光源氏の息子・夕霧のお話。
幼馴染の初恋の相手・[雲居の雁]。名前も素敵。

父・光源氏の教育方針により身分をあえて低く配されて
分別と努力とやさしさを身に付けた「真面目で弁えた」人格の夕霧。

雲居の雁を一途に愛した姿に好感ながら
結婚後のシビアな現実に悩む姿、生真面目でありながら逍遥する姿は
浮世離れした父とは違う一面です。


Xに掲載した作品群より。
青系にも赤系にもあわせやすい紫。
両極の色の橋渡しの役目は、両方の色を内包するからこそ。


冒頭のインクで染めたコピー用紙は、
湿潤液によってしっとりやわらかくなったので
小さい紙にしても、とても折りやすくなりました。

梅雨の季節の紫陽花を、昔から伝わる折り紙技法にて。
桜ismにちょい足し絵画、桜色の下地を活かして
今回は彩ゆたかな紫陽花の絵に。

今年の梅雨入りは遅めでしたが、暑さは年々厳しくなっています。
みなさま、この夏もどうぞご自愛くださいね。


色にいざなわれて開ける扉の向こうにひろがる、
「源氏物語」の世界。
インクの楽しみの入り口となれば幸いです。

2024年大河ドラマ「光る君へ」効果で、久方ぶりの平安時代への焦点。
「枕草子」や「源氏物語」その他の古典に再度目を通す良い機会。

「これは絶対、他の人にも読んでもらいたい!」
と受け継ぐべき想いのバトンが1千年つづく熱量の高さよ。

幾時代にもわたる写本が、いにしえの書き手によって
ワクワクしながら少しずつ変えられていったように、

史実と異なる令和版大河ドラマの大胆な構成、
まさに二次創作の熱量の高さよ。

「まひろとききょう、最強の(文学オタク)友」
という、なんとも予想外かつ眼福な思いを堪能し、

着眼点すばらしい平安期2大女流作家と
1千年のあいだのその読者一人ひとりの熱量に、
「VIVA!文芸活動!」と頷く朝比奈斎でした。
ではまた。

<今回のメインインク>
Pent〈ペント〉 by 藍濃道具屋(レンノンツールバー)ボトルインク 限定色 源氏物語

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この記事を書いた人

朝比奈斎
朝比奈斎
憧れの高級文具から教室に忘れ去られた名もなき消しゴムに至るまですべての文具を偏愛する者。
文字は下書き無し・肉付け塗り無しの一発書き。
文具・画材・多肉愛好家として雑貨店「SHOP511」にて多肉植物の育成販売と文具雑貨諸事の販売に携わる。好きな言葉は「玉石混淆」

Twitter:@asahinaitsuku
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