1936年(昭和十一年)アメリカのD・ハンターは著書『日本・韓国・中国への製紙行脚』の中で「すべての製紙工芸の中で驚嘆に値する素晴らしい技術」と日本の手漉き紙を賞賛しています。
海外からも高い評価を受ける日本の紙(和紙)も、私たちの生活の中では、「ほとんど触れる機会はない無縁なもの」と思われているかもしれませんが、実は誰もが毎日お世話になっている「お金=紙幣」は分類すると立派な和紙であり、世界最高と謳われる透かしは和紙の伝統的な技法を用いた物です。
和紙と洋紙を比較した場合、紙を構成する繊維が格段に長く、薄くても強度が高い、かつ寿命が長くて独特の風合いがあるといった、洋紙にはない特徴が和紙にはあります。
この優れた日本の紙「和紙」は、佐藤信淵の『経済要録』によると「此の五箇(村)を以て日本第一とす」との記述があり、この五箇(不老・大滝・岩本・新在家・友定)こそ現在の福井県越前(武生市)で、和紙のルーツとも呼ばれています。
この越前には、古くから伝わる伝承があって、継体天皇が男大迹王(おおとのおおきみ)と呼ばれていたころ、川上御前から水清らかなこの土地の利を活かした「紙を漉く技術」を伝えたとされています、川上御前を祀る「大滝・岡太神社」は紙と神の両方を祀る神社として知られ、越前が日本の紙の始祖と言われる所以になっています。
以来、和紙は越前国を代表する産業になり、これまで越前を治めた丹羽長秀、山中長俊、そして初代福井藩藩主、徳川家康の次男でもある結城秀康らも、紙屋衆(製紙業を営む者)に対して特権として諸役や地下夫役(労役に服すること)を免除するという書状・禁制状などが交付されて、国・藩をあげて「和紙産業」を奨励されていたことの記録が今も残っています。
しかし、明治以降海外から輸入された紙(古来の和紙に対して洋紙)が普及したことに加えて、楮(コウゾ)三椏(ミツマタ)雁皮(ガンピ)といった和紙の原材料の国内生産がなくなり、紙幣の製造も海外から原材料を輸入に頼っているのが現状です。
新しい和紙の誕生#wakamiプロジェクト
そんな和紙の生産か減少するなか、ここ越前で江戸時代から紙漉きに関わってきた石川製紙株式会社と創業110年を越える吉川紙商事株式会社が、新しい時代に相応しい和紙の開発を進めてきました。そこから生まれた#wakamiプロジェクトは和紙の伝統技術を活かし、風合いや質感までも再現、さらに相性がよくないとされてきた万年筆でもスムーズな筆記ができる新しい和紙を市場に送り出しました。
現代社会がテーマとして抱えているSDGsにも対応した#wakamiは、古紙を中心に再生可能素材や環境に配慮した原料を積極的に採用した物作りに取り組んでいます。
一例をあげれば、一筆箋の天糊には有機溶剤ではなく切手に使われている糊を使用、ノートを含めて製本はすべて糸綴じとし、使用後にそのまま再生可能ゴミとして処理できるなどこだわり抜いた仕様です。
それらの技術で生み出されたプロダクトにはA5ノート、ノートミニ5、一筆箋の3タイプがあり、和紙の特徴を活かし開発された2種類の紙を使用しています。
torinoko
嘉暦三年(1328年)頃、法華経の写経に使われた紙として記録が残る希少価値の高い紙「鳥子紙(とりのこがみ)」を石川製紙株式会社の技術をもって今の時代に再現しました。
万年筆との相性も抜群で、手紙を書くことが苦手なひとでも「一筆箋」ならSNSに投稿するような気軽な言葉を認めることができそうです。
sutenai
私たちにも馴染みのある段ボールをふただび筆記できる紙に蘇らせたのが「sutenai」です。
石川製紙株式会社では、古紙段ボールを細かく刻み、ステップラーなど不純物が這い込まないように管理したものを、他の古紙を混ぜ合わせて生まれた「sutenai」はすこし茶色がかった色をしていますが、これが手漉き和紙の持つ素敵な風合いにも感じられます。
文具愛好家の考察
文具業界では数年前から手帳や万年筆の他、「紙」にも注目が集まるようになり、薄くて裏抜けしない「トモエリバー」や、銀行金融機関の帳票にルーツを持つ「バンクペーパー」、さらに選挙の投票洋紙に使われている「ユポ紙」など、少々マニアックなものまで、ファンの間では「紙」は特徴やブランドで選ぶ時代へと進化しつつあります。
そんな中で生まれた#wakamiの「sutenai」「torinoko」は、これまでにはない筆記体験と和紙の魅力を再発見できるという、我ら文具愛好家にはたまらない新しいブランドです。
<この記事に登場する文具>
#wakami_torinoko
#wakami_sutenai
この記事を書いた人
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文具ライター、システム手帳から綴じノートまで複数の手帳を使い分ける、手帳歴40年のマルチユーザー。
「趣味の文具箱」「ジブン手帳公式ガイドブック」などの文具雑誌や書籍をはじめ、旅行ライターとしても執筆活動を行い、文具と旅の親和性を追い求める事をライフワークとしている。
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