万年筆を購入する際、いつも悩むのが、ペン先の太さ。
もし、その万年筆の使途が明確であれば、ペン先でそれほど悩むことはないだろう。例えば、その万年筆は手帳用に使うだけ、ということであれば、手帳に書きやすい細字のペン先を選べば良いだけのことだ。しかし、買う前から使途が明確という万年筆は少ない。メインは手帳で使う予定だけど、手紙の宛名書きや手書きツイートなどで使うことも少なくない、という曖昧な場合がほとんどだ。
さて、ぼくの場合は、主に万年筆はノートや手帳に記載する時に使うことが多いので、基本的には細字から中細字のペン先が好みだ。たまに原稿用紙や手書きツイートなどする時に、そういった細字だと気分が乗らないこともあるのだが、そういう時は太字を使っている。
そして、好みのペン先というのはマイブームがある。最初のうちはインクフローを楽しむために中字以上を使っていたのに、だんだんと細字の面白さに気づき、今度は細字のマイブームがやってくるという具合だ。
万年筆を使い始めた頃は、インクの濃淡が感じられる太字が好きで、できるだけ太いペン先を選ぶようにしていた。ところが、欧米の太字は日本のそれよりもはるかに太いために、細かい漢字を書くのに適していないことが多く、持て余し気味になってしまった。そこで今度は細字に目覚めたのである。時にはボールペンよりも細い字が書けるのはなんとも魅力的である。
ところが、ここ数か月、なぜかぼくは急にまた太字ブームが再燃し始めており、購入する万年筆のほとんどが中字以上だ。
そんな中でもとりわけ好きなペン先が、いわゆるミュージックと呼ばれるタイプのもの。これは、主に楽譜を書く時のためのペン先なのだが、当然、万年筆愛好家の人たちすべてが楽譜を書いているというわけではなく(むしろ採譜目的でミュージックを選ぶ人は少ないだろう)、別の目的で使っている人が多い。
というのも、このミュージック、縦が太め、横が細めに書けるようなペン先になっているのである。これがまるでカリグラフィーペンのようなので、万年筆愛好家の中では注目が集まっている。
カリグラフィーっぽく書けるということは、文字によってはとても味わい深く感じることができるのだ。太字の方が字も安定するし、見た目も整っているように感じるから不思議だ。
ところで、カリグラフィーっぽく書けるペン先がもう一つある。それがスタブと呼ばれるもの。ミュージックと比べると全体的な線が細めなので、味わい深い文字が手帳などでも書くことができるというわけだ。
このスタブは、主に海外の万年筆に多いのだが、ぼくが今日特にお勧めしたいと思っているのが台湾のTWSBIというブランドの万年筆。
TWSBIの魅力はいくつか挙げることができる。
まずそのデザイン。スケルトンを中心とした軸は、シンプルでありながら、洗練されたフォルムで、近代的なシルエットが特徴的だ。
また、太さやカッティングもしっくりと手になじむように計算されており、長時間文字を書いていても疲れない。
もう一つのTWSBIの魅力は、それだけのデザインや書きやすさでありながらも、非常に廉価であること。当然ペン先はスチールではあるが、鉄ペンとは思えないほどの滑らかな書き味なのだ。ものによっては5000円以下の軸もあるが、それでこの書き味は本当にすごいなと感心してしまう。
TWSBIの魅力はこれだけに留まらない。使っている途中でインクが詰まってしまったり、何か不具合が生じたりした時に、付属のツールを使って分解することができるようになっている。なので、例えばなかなか使うのに注意が必要な顔料インクを入れてみるということもできるのである。
TWSBIは通常のペン先の他に、STUBも用意されており、ぼくは、TWSBIを購入する際はできるだけSTUBを選んでいる。その理由は、まずTWSBIのSTUBは、比較的細目なので、細かい文字を書いてもそれほど文字がつぶれない。だから、手帳などでも使うことができるのだ。
ここで、セーラーのミュージックと比較した文字を見てみよう。
これを見てもわかるように、セーラーのミュージックは横線もTWSBIよりも少し太めだ。このことからも、TWSBIのSTUBがより日常使いに適していることがわかるだろう。
また、ぼくはまだ持っていないのであるが、専用のインクボトルも用意されており、それらのインクボトルを使えば、手を汚すことなく簡単にインクを吸入できるようになっている。これもTWSBIのユニークなポイントと言える。
さて、そのTWSBIは、種類が多いことも魅力の一つだ。透明軸を始めとして、様々なタイプの軸が用意されており、自分の好みで選ぶことができる。
ECO(エコ)
TWSBIの中で一番廉価な万年筆なので、初心者にもおすすめできるのだが、書き味はとても良いだけでなく、STUBのような特殊ペン先も用意されているので、上級者にも愛好家がいる。またカラーバリエーションも豊富で、ピンクの他に、限定カラーのターコイズ、ライムグリーン、イエローグリーン、ブルーなどがあり、集めるのも楽しくなるシリーズだ。
Precision
TWSBIというと、ポップでカラフルなイメージが強いのだが、このシリーズはメタリックで非常に硬派なイメージ。男性にも受け入れられやすいデザインで、TWSIBの中では一番スタイリッシュでクールだ。
クラシック
スリムで上品な色の軸は、八角形でとても持ちやすく、長時間の筆記でも疲れることがない。滑らかな書き心地を味わえるだけでなく、例えばこのターコイズカラーは涼し気で、これからの季節に最適だ。
ダイヤモンド
TWISBIの中でもっとも種類が多く、看板ともいえる軸。特にぼくが好きなのは、メタリックな色を楽しむことができるALシリーズ。ミニサイズもあるが、キャップを軸の尻に取り付けることによって、通常サイズとして使うことができるのが魅力だ。
この他にぼくはまだ持っていないプランジャー式という特殊な方法でインクを吸入するタイプのVACシリーズというのもある。
さて、ぼくはこのTWSBIをある特殊インクを入れて使うようにしている。その特殊インクとは、ラメ入りのインクだ。数年前から、ラメ入りのインクが次々と発売されインク沼の住人はそのキラキラしたインクにワクワクしているのだが、問題がまったくないわけではない。ラメの粒子は細かいとはいえ、やはり液体に比べれば粒子そのものは大きくなるため、時には万年筆のペン先を詰まらせてしまうことがある。だから、ラメ入りインクを扱うお店のサイトには、万年筆で使う時の注意書きがされていることも多い。
それでも、やっぱりつけペンではなく、万年筆で気軽にラメ入りのインクを楽しみたいと思う人も多いだろう。それはぼくも同じだ。もちろん、限定万年筆や高価な万年筆にラメインクを吸わせることはリスクがとても高いのでお勧めしないが、廉価な万年筆であれば、気軽に使うことができる。しかも、TWSBIはラメをより楽しむことのできるSTUBがあるではないか!そこで、ぼくはTWSIBIのSTUB万年筆はラメ入りインク専用として使っているのだ。
今回は、シマーリングインクを多く出しているダイアミンを使用してサンプルを作ってみたのだが、TWSBIは軸の色も豊富なので、インクと合わせるのが楽しくなるということが良くわかるだろう。
では、実際にそれらの組み合わせで書いたサンプルを見ていくことにしよう。
TWSBIにはいくつかの字幅があるが、その一つの例として違いを示したのが次の写真だ。
STUBとFineではどれだけニュアンスが違ってくるのかということが良くわかるだろう。遊び心で使ってみたいのがSTUBで、通常の普通の文字を書きたい時はFineなどの通常のペン先を使うというように、メリハリのある使い方をお勧めしたい。
ラメで文章を書くと、キラキラし過ぎて読みにくいのではないかと思う人もいるかもしれないが、インクによってはそんなにラメが目立たなかったり、あるいは角度によってラメの見え方が違ってきたりすることも多いので、それほど気にすることはないだろう。
キラキラを目立たせたいと思ったら、明るい色を使い、それほど目立たせないようにしたかったら暗めの色を使う、というようにインクも目的によって使い分けてみたい。
ともあれ、TWSBIを使うことによって、よりラメインクの楽しみ方がわかってくると思うので、ぜひこの組み合わせでSTUBとラメインクのコラボレーションを楽しんでいただきたい。
<関連リンク>
・TWSBI(ツイスビー)
・ダイアミン ボトルインク シマーリングインク
※シマーリングインクなどのラメ入りインクを万年筆で使用された場合、詰まりなど故障の原因となる場合がございます。これら製品を使用したことによる故障・破損につきましてはメーカー保証修理の対象外となります。あらかじめご了承ください。
この記事を書いた人
- 文具ライター、山田詠美研究家。雑誌『趣味の文具箱』にてインクのコラムを連載中。好きになるととことん追求しないと気が済まない性格。これまでに集めたインクは2000色を超える(2018年10月現在)。インクや万年筆の他に、香水、マステ、手ぬぐいなどにも興味がある。最近は落語、文楽、歌舞伎などの古典芸能にもはまりつつある。
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