目次
- 1.1 三好達治の「雪」と線の濃淡編
- 1.2 色のゆらめきは雪の如し編
インクがまだあるのに 空気混入で書けなくなったボールペン を分解→芯軸の後ろからチューバ吹くほど 頬を丸くして息吹き込んで圧かける、 あるいは ボールペンの尾軸部に 輪ゴムをつないで ペン先円周上にまわるよう振り回し、 [女型の巨人]的気分な朝比奈斎です。
チューバ吹いたことありません、すみません。
今月はペンハウスオリジナルインク
「彩時記」より【雪月夜】第2回
言葉と色に誘われるイメージをもとに、
文学作品やイラストと併せてご紹介します。
どうぞよしなに。
インクのゆらめきは雪の如し編
前回は自分が主として使うGペンで
綺麗なインクの色をご紹介しました。
なぜなら、
すんごい太い線がひけるから。
太字万歳派、インクの醍醐味。
これでもかと力入れるに比例して、
うつくしく広がっていく、
インクの色の帯よ。
しかし、Gペンは
「力任せの筆記具にあらず」。
ガリガリ紙をひっかくばかりで、
インク降りてこない、
全然書けない!
書けても、下から上への動線が書きにくい!
と
わたくしも出会った頃はそう思っていました。
そこで距離をおくか、
もうすこしつきあってみるか。
入学式後の新クラスのぎこちない「どこ中?」の会話から
幾日か後の「部活どこ入るか決めた?」的な連帯感会話を経て、
「ねー夏休みどうする?」的こなれた会話が出るまで、
せめておつきあい願いたい。
もとい、
しなるペン(Gペンや軟ペン先の万年筆)には、
それなりのコツがありますので、
それについては次回以降ご紹介します。 (長い枕の上、次回か…!)
今回は[しならないペン]として万年筆太字で篆書体を。
題材は、菅原道真の
「月夜見梅花(げつやにばいかをみる)」
Ink…ペンハウス彩時記「雪月夜」 セーラー万年筆・インク工房162
本文…プラチナ万年筆3776センチュリーC極太・シュノンソーホワイト
題名&作者名&書き下し文…ゼブラ・チタンGペンプロ
用紙…SAKAEテクニカルペーパー・イロフル
道真11歳で作成。美しい世界観。感嘆。
道真がこれを詠んだ時には
紅梅品種も日本に入って日が浅いこと、
梅の原種はもともと白花であり、
雪・月・星と呼応するので、
この漢詩では白梅確定、です。
元服直前のお子様がこれを作ったとは、驚愕。
でも今の時代だって、
オリンピック金メダルや各コンクール優勝を
10代で獲る人もいますもんね。
平均寿命は21世紀現代の半分だとしても、
細胞活性ピークは同じく10代ですもんね。
小さいころからの英才教育は、
当然、華々しく開花しますもんね。
わたくし10代は授業中に、友達にまわす
「手紙内職」に励んでましたもんね。
…。(咳)
漢詩二行は太字の万年筆で篆書体です。
普段は書かない書体で書くと、
雰囲気が変わっ(たような錯覚を得られ)て
ほんの少し非日常的な愉しみの入り口に。
字幅は横と縦を1:1または
1:1.414(白銀比)あるいは
1:1.618(黄金比)にあわせて書くと、
なんとなく収まりよさそうです。
今回の万年筆のインクは、
ペン先に多めに流れるように
コンバーターを極限まで回して
フロー調整しました。
だぼだぼ、な書き味にすると、
淡いインクはコクのある色味で、
一発書きで綺麗に発色します。
美しきインク「雪月夜」は、
加水して淡い分離色を出す事も楽しいです。
これでもか、と、めっちゃ薄めて塗る。
紙によって淡い紫やピンクが
でたり、でなかったり。
(もとい、大概、薄めれば出ます)
コスモエアライトやトモエリバーは出やすいです。
左上コスモエアライト 右上ノイエグレー(防滲剤塗布)
下トモエリバー 現物に目を近づけると
ほんのりはじらうようなピンクが見えるのです。
(文字書きで滲む紙のときの対処法はまた次の機会に)。
次は、インクを使ったイラストを。
インク名のとおり、雪を題材に描いてみました。
美しい透明感のある淡いブルーなので、
雪自体は紙の白さで表現し、青で雪の影を描くようにします。
水筆でアウトラインを描き、山の端ギリギリの部分に
万年筆のペン先を「のせてくっつけて動かさない」
じわじわ広がるインクの分離の
静かな様子がとても好きです。
稜線の色が出たら、風景を加筆していきます。
地平線の木立を、縦線と横線と
書き損じのときのようにウジャウジャと線描し、
手前の部分に雪の影を足して、雪原に。
インクをおもいきり濃く使うときは、
3回ほど重ね塗りすると色ムラが重なることで、
こっくりとした仕上がりに。
前に塗った部分が乾ききる前に
再度色を足すことがコツです。
濃い部分は乾く前に塩を撒くと、色が塩に移り、
ほんのり白抜きができます。
(それはまた次回以降にご紹介します。)
いや、
季節は立春もとうにすぎて、
いま、春だから!
春なのに!
お別れですか!?
涙もこぼれんぜ!?
大丈夫です。
「雪月夜」は花鳥風月オールマイティ、
ごくごく淡くピンクを内包する青色は
春の小鳥も春の花も晴天の雪山と空も表現できます。
「雪月夜」
箱もインク名も世界観も美しい冬の色は、
雪が水へ、水は雲へと循環する如く、
それぞれの季節の青に、姿を変えていく。
インクの様々な楽しみ方の
入口となれば、幸いです。
どうしても書けなくなったボールペンは
カーボン紙利用時やパーチメントクラフト作成時、
紙の筋折、カッター代わりの段ボールの蓋開け、
疲れた体のツボ押しに、どうぞ。
では、また。
再利用執着の鬼、朝比奈斎でした。
【第一房「雪月夜」 完】
<この記事で紹介されている文具>
・Pent〈ペント〉 ボトルインク 彩時記 冬~winter~ 雪月夜(ゆきづきよ)
・SAKAEテクニカルペーパー ルーズシート 75g/m2 iroful(イロフル)
・山本紙業 ノート COSMO NOTE
・NEUE GRAY(ノイエグレー)プレノート
・SAKAEテクニカルペーパー トモエリバーFP
この記事を書いた人
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憧れの高級文具から教室に忘れ去られた名もなき消しゴムに至るまですべての文具を偏愛する者。
文字は下書き無し・肉付け塗り無しの一発書き。
文具・画材・多肉愛好家として雑貨店「SHOP511」にて多肉植物の育成販売と文具雑貨諸事の販売に携わる。好きな言葉は「玉石混淆」
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