世界の筆記具ペンハウス
雑誌「趣味の文具箱」連載でもお馴染みの文具ライター・武田健さんによる「読みもの」コンテンツ。総保有インク2000本超えの自他共に認める万年筆インクコレクターである武田さん。万年筆とインクを中心に、文具にまつわるお話を連載していただきます。

飛行機の中で万年筆を使う際の注意点について

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格安航空(通称LCC)を移動手段で使うようになってから、飛行機で移動する機会が非常に多くなった。
だって、値段が格段に安いのだもの!場合によっては、大阪成田往復が新幹線の片道料金以下、ということもあり、交通費はほとんど自腹なぼくたちフリーの人間にとってはこれは大変にありがたい。

多くのLCCは成田空港発着なのだが、我が家からだと、東京駅発のバス(これもまた格安!)を使えば、羽田空港よりも楽であることが判明してからは、飛行機を使うような場所に行く時はできるだけ飛行機を使うようにしている。

先日、二週連続で飛行機に乗る機会があった。ひとつは大阪、もう一つは福岡。いずれも文具店のイベントに参加するためだったのだが、飛行機に乗る時に一番気になることがある。それが万年筆をどのようにして運ぶか、という問題。

これは、しばしば万年筆愛好家たちの間でも話題になるトピックでもあるので、今回はそのことについて実際に飛行機に乗って試したことをまとめてみたい。

飛行機の中で万年筆を使う際の注意点について

機内持ち込みの際の注意

万年筆というのは、ボールペンとは違って非常に繊細な筆記具である。インクをタンクに入れた状態で筆記をするので、気圧の問題などを考えなくてはならないし、持ち込み方次第でインク漏れを起こす危険性もある。

そのために、以前は神経質な人は、飛行機に乗る前はインクはすべて抜いて、空の状態にしておき、現地に到着してからインクを吸入する、という人もいたようだ。
しかし、ぼくみたいにたくさん万年筆やインクを使いたい人間はいちいちそんなことはしていられないから、どうしたものかと思っていた。

ただ、最近では飛行機の機内の気密性が高まったことと、万年筆そのものの内部構造の発達によって、インク漏れの症状は以前と比べるとだいぶ軽減された。
しかし、だからといって、ボールペンと同じような扱いで良いのかというと、そうも言い切れないこともある。

各万年筆メーカーのホームページなどを読んでみると、飛行機に搭乗する際の万年筆の扱いについて、いくつかの注意事項が書かれている。

まずは、インクを満タンにしておくこと。これによってタンクの中の空気の膨張が少なくなるからだ。
さらにもう一つ大切なことは、ペン先を常に上にしておくこと。つまり、キャップ式の万年筆の場合は、キャップを上にした状態で鞄に入れておくことだ。

飛行機の中で万年筆を使う際の注意点について

これを維持するためには、インクの入った万年筆に関しては、受託荷物の中に入れるのではなく、持ち込み荷物の中に入れた方が良いだろう。受託荷物の場合、どのような状態で積まれるかわからないために、必ずしも常にペン先が上になるとは限らないからだ。

ぼくは、機内でも万年筆を使ってノートを取りたくなる場合のことも考えて、インクの入った万年筆は必ず手荷物の方に入れるようにして、その際も、ペンケースを上にして入れるように気を付けている。ペンケースが小さい場合などには、他の物で倒れないように気を付けて鞄の中に収納している。

実際に機内で使ってみた

ぼくは6月に2回飛行機を利用した。
最初は成田から大阪、二回目は成田から福岡の往復だ。

せっかく飛行機を使って行くのだから、万年筆を持って行って実験をしてみようと思った。
そこで、まずは関空行きの飛行機の中で万年筆の筆記テストを行った。
手荷物の鞄の中にペン先を上にして入れ、その状態のまま飛行機が上空で安定飛行に入り、テーブルを出せる状態になってから注意深く万年筆を取り出し、キャップをあけてみたのだが、どれもインク漏れなどはまったくなくて、きちんと筆記することができた。

飛行機の中で万年筆を使う際の注意点について

ところが、二回目に福岡まで飛行機を使った時は、少し様子が違った。実は、この時、前日イベントの準備に追われ、ほとんど一睡もできずに飛行機に乗ったので、飛行機に搭乗し、席に座った瞬間に寝てしまい、気づいたら、すでに飛行機は着陸態勢に入っていたために、大阪に行った時と同じ状態で万年筆を機内持ち込みにしたにも関わらず、機内での万年筆筆記の実験をすることができなかった。

万年筆を使ったのは、福岡から長崎に移動し、長崎の文具店に到着し、イベントの準備をしている時だったのだが、その時、万年筆の様子がおかしかった。

なんと、インク漏れを起こしていたのだ。
ペン先だけでなく首軸までインクで汚れており、キャップも中をきちんと拭かないといけない状態だった。
(残念ながらタイミングが悪くて証拠の写真を撮ることができなかったのだが)
慌てて、ティッシュを使ってきれいにペン先をふいたのだが、他の万年筆もおおむね同じような状態だった。

なぜ、前回は大丈夫だったのに、今回はインク漏れを起こしたのか、ぼくなりにその理由を考えてみた。
まず、飛行距離の問題。東京と福岡は東京と大阪と比較すると飛行距離が長い。それがインク漏れの原因になった可能性は十分考えられる。

もうひとつ、ぼくが思いついたのが、大阪に行くときはほとんど飛行機は揺れなかったのだが、福岡に行くときにはかなり揺れて、シートベルトを常時着用していなくてはならないほどだった。それも万年筆に何かしらの影響を与えたと思われる。

気をつけながら使う

不幸中の幸いだったのが、福岡行きの飛行機の中で万年筆を使おうとしなかったこと。もしも大阪に行った時大丈夫だったから、と何も考えずに万年筆を使おうとしていたら、何かの拍子にインクで手を汚してしまったかもしれないし、机の上に広げていたペンケースやノートにインクが飛び散っていたかもしれない。

しかし、特に長距離の国際線に乗る時などは、飛行機の中で万年筆でメモを取ったり、日記を書きたくなったりすることもあるだろう。そんな時、がまんして他の筆記具を使うよりも、上手に万年筆を使いたいところ。

飛行機の中で万年筆を使う際の注意点について

そこでぼくから提案したいのは、飛行機の機内に持ち込む時はもちろんのこと、万年筆を飛行機の中で使う時も気を遣うということ。

これは当然のことだが、飛行機が上空に達し、安定した飛行状態に入り、テーブルの使用が認められるようになってから準備をする。
さらにいきなり万年筆のキャップを外すのではなく、インク漏れをしている可能性も考えて、汚れては困るようなものはテーブルの上に置かないように気を付け、慎重にキャップをあけること。さらに指などが汚れた時のために、念のためにウェットティッシュなどを用意しておくのも良いだろう。

もしインク漏れを起こしていたら、すぐにペン先についたインクやキャプ内のインクを拭き取ってから万年筆を使うようにしよう。
最初はインクが濃く出てしまう可能性もあるので、試し書きをしてからノートに万年筆を滑らすようにすると無難だ。
上記の点に気を付ければ、きっと飛行機の中でも楽しく万年筆を使うことができるだろう。

飛行機の中で万年筆を使う際の注意点について

この記事を書いた人

武田 健
武田 健
文具ライター、山田詠美研究家。雑誌『趣味の文具箱』にてインクのコラムを連載中。好きになるととことん追求しないと気が済まない性格。これまでに集めたインクは2000色を超える(2018年10月現在)。インクや万年筆の他に、香水、マステ、手ぬぐいなどにも興味がある。最近は落語、文楽、歌舞伎などの古典芸能にもはまりつつある。
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