~ 男もすなる日記といふものを、女もしてみむとて、するなり。 ~
時は平安時代、土佐(現在の高知県)から京の都(京都)へ帰る道中のエピソードにユーモアを交えながら記された紀貫之の「土佐日記」は、日本で初めての文学日記として多くの人に今も愛されています。
「土佐日記」のユニークな点は、男性が書く文は漢文だった平安時代に、ひらがなや女性ことばを使って書かれたこと、また当時の日記は日誌や日報のような業務的な要素が濃くプライベートな事を書く習慣がなかった時代に、過去にとらわれない表現方法を用いた日記となりました。
現在の日本では、男性女性の隔てなく物事を表現する自由がある時代ですが、「日記を書いている」というと、少し気恥ずかしい心持ちになる男性諸君が少なからずいるように思えます。
なぜなら、私自身ものを書く仕事をしていながら、日記をしたためていますという発言は人前では少々照れくさくて言いづらいのです。
とある調査では、日記(日々の記録)をつけている人の男女による差は明らかで、どの年代においても女性の方が圧倒的に多いというデータがあり、男性として照れくささを感じてしまうのは、こういった傾向があるからなのかもしれません。
万年筆で日記を書こう
紀貫之の時代、筆記具は筆と墨を使って書かれていたはずですが、現代においては日記に関わらずボールペンを筆頭にシャープペンシルなどが頭に浮かびます。どれも筆と墨のような手間がかからない便利な筆記具ですが、ボールペンの場合にインクのムラや掠れが時々顔を見せることがあり、シャープペンシルは芯が折れるなど、筆記のリズムを狂わせノイズとなることもあります。
だからこそ、日記には万年筆がとてもよく似合う筆記具だと確信しています。
万年筆のメリットはインクフローの良さに加えて、インクムラのないくっきりとした文字を連続して筆記が可能だということ、そしてもっとも良さを感じるのは自分自身の思考の速度と筆記速度が同期しやすい筆記具だということ。
もちろん個人差はありますが、頭に思い描いた言葉が万年筆によってアウトプットされるスピードやリズムといったテンポが実に心地良い点です。
ものを書くという行為において、このリズム感はとても大切で、ありのままの感情を素直に筆記する時には重要なポイントといえます。
さて、いきなり日記を書こうとしても、日常の生活のサイクルの中ではあらたまって書くコトが思いつかないという人もあります、そんな時には休日に出かけた記録から始めるのもいいでしょう。
実は日記の起源には、旅の記録という説もあるくらいですから非日常の記録からはじめて、日常のささやかな変化季節の移り変わりなど、気付いた事を記していけば立派な日記として成り立ちます。
最近では自分の日記をSNSで公開する人達も多く、そのクオリティに尻込みしてしまう人もいるかも知れませんが、本来日記は他人に披露するものではなく、また「日記を書いています」とコミットする必然性もありません、紀貫之の時代と異なり個人的な事を堂々と記す事ができる現代です。
1日の締めくくりに万年筆で日記をしたためて過ごす、なんと上質な大人の時間だろうか。そんな面持ちで書かれたあなたの日記が十数年後に日本の文学として残る…かも知れません。
日記に使いたいノート
新書サイズノートタイプ
鞄の中に入れて持ち運ぶ事ができて、いつでも何処でも気がついた事や今感じていることを、素早く書くコトができる。
A5ノートタイプ
携帯性もよく広げるとA4サイズになり、書き込めるスペースがたっぷりあるので、外出先や自宅でも好きなだけ書き込める。
ずっしり古典的日記タイプ
5年・10年日記などと呼ばれるぶ厚いノートは、今日を振り返りじっくりと自分と向かい合う時間を大切にしたい人にオススメです。
おすすめ:Pent パピルスノート(大和出版印刷)
この記事を書いた人
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文具ライター、システム手帳から綴じノートまで複数の手帳を使い分ける、手帳歴40年のマルチユーザー。
「趣味の文具箱」「ジブン手帳公式ガイドブック」などの文具雑誌や書籍をはじめ、旅行ライターとしても執筆活動を行い、文具と旅の親和性を追い求める事をライフワークとしている。
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