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青森県酸ヶ湯温泉でワーケーション・前編

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「ワーケーション(Workation)」とは?

 最近、耳にする機会が増えた「ワーケーション」という言葉は、仕事(Work)と休暇(Vacation)を組み合わせた造語でテレワークを活用して、リゾート地や温泉地など、普段の職場とは異なる場所で余暇を楽しみながら仕事をするということです。
企業や業態によって、定義づけや解釈は異なりますが、企業だけでなく自治体でもワーケーションに対する取り組みをはじめています。
 ボクの周辺でも、新型コロナウイルスが5類感染症に移行して以降も、自宅でのテレワークを継続しながら、そこからさらに踏み込んで、テレワークが継続可能な環境であれば、どこで仕事をしてもかまわないという大手の某文具メーカーさんも存在します。

酸ヶ湯温泉でワーケーション

 私が初めて酸ヶ湯温泉に訪れたのは2013年の冬、まだライターという仕事に就く以前から「湯治(とうじ)」という言葉に浪漫を感じていて、運良く1週間ほどの休みが取れたそのタイミングで、この酸ヶ湯温泉旅館に1週間ほど滞在して湯治体験をしてみました。
はじめて、この温泉につかった時、膝や肩に手首など、かつて骨折などの怪我をした箇所が、ここごとく悲鳴を上げるような感覚になったことを今でも覚えています。
滞在中に、そんな違和感は日に日に薄れていって、帰宅してからはすこぶる体調が良くなり、大げさと笑われるかも知れませんが若返ったような気がしました。
一般的に「湯治」は3廻り10日と言われていて、3日を1フェイズとしてそれを3回繰り返すことで万病に効果があるとされていますが、ボクの場合2廻りで効果が出たのかもしれません。(個人差はあります)
この体験がきっかけとなって、時間を作っては酸ヶ湯温泉旅館へ通うようになり、今回で6回目となる湯治を「文具とワーケーション」という視点で捉えてみました。
今回は、酸ヶ湯温泉とワーケーション環境を、次回はワーケーションに便利な文具を紹介するという、前後編でお届けします。

酸ヶ湯温泉

 酸ヶ湯温泉の歴史は古く、開湯は江戸時代貞享元年(1684年)、地元の狩人が手負いの鹿を追っていたところ、温泉で傷を癒やしているのを見て発見したと伝わっています。 そして、昭和29年(1954年)に国民保養温泉地第1号に指定されて、一躍全国に知られるようになり「酸ヶ湯温泉旅館」は日本でも屈指の秘湯の宿として、いまも多くの温泉ファンから人気を集める温泉宿になっています。

ヒバ千人風呂

 酸ヶ湯温泉旅館の名物として人気を集めている「ヒバ千人風呂」は、青森県の県の木にもなっているヒバを贅沢につかった総ヒバ作りで、約160畳もの広さがありながら柱が1本もない混浴の大浴場です。
混浴と聞いて、ちょっととためらう女性の声もありますが、広い浴場に立ち上る湯気が濃く、ひとの姿はぼんやり程度にしか視認できません、初めは抵抗を示していた妻も、2回目以降は安心してヒバ千人風呂を楽しんでいました。
それでもという人には、朝夕に女性専用時間も設定されていて、その時間男性はヒバ千人風呂に入ることができません、また「湯あみ着」が売店で販売されているので、こちらを利用するひともいます。
「ヒバ千人風呂」には、それぞれ源泉が異なる4つの浴槽があります。

熱の湯(ねつのゆ)

 「熱の湯」の醍醐味は、源泉がこの浴槽の直下からこんこんと湧いてくる鮮度の高いお湯が特徴で、地球のエネルギーを直接感じることができます。

四分六分の湯(しぶろくぶのゆ)

 熱の湯よりも湯の温度が高く、「熱の湯」とは保温効果が異なる湯の質で、江戸っ子のように、熱い湯が大好きな人にはまらない湯です。

湯瀧(ゆたき)

 酸ヶ湯温泉の古い資料には「鹿の湯」とあったものが、現在の「湯瀧」打たせ湯です。

冷の湯

 「冷の湯」は、決して冷たい水ではなく、入浴前やあがり湯としてつかうには、ほどよい湯加減の湯です。

玉の湯

 「玉の湯」は「ヒバ千人風呂」と別にある浴場で、シャワーや洗い場などの設備があり、男女それぞれ場所が異なります。ここもまた、源泉が異なる温泉なので、ヒバ千人風呂とあわせて外す事ができません。

酸ヶ湯温泉でワーク(Work)

御鷹々々サロン(おんたかたかたかさろん)

 2019年、酸ヶ湯温泉旅館では客室を含めて大きな改装をおこなわれ、新しく設けられた「御鷹々々サロン」は、入浴をされた方が心からくつろげる空間として利用できる休憩スペース(サロン)です。
館内の客室と、こちらのサロンではWifi環境が整っていて、インターネットを利用して調べ物や、メールのチェックやInstagramなどのSNSサービスも利用できます。
以前は、携帯電話の電波が届きにくくて原稿用紙に向かって執筆をしたこともありましたが、「御鷹々々サロン」がオープンしてからは、ここでラップトップパソコンを開き、原稿を入力したり編集担当と仕事のやり取りをしたりと、普段愛用している文具を持ち込むことで、自宅とほぼ同じ条件で仕事ができる環境になりました。
ちなみに、このサロンの名前にもなっている「御鷹々々」とは、ここ酸ヶ湯温泉旅館にゆかりのある、地元青森出身の版画家・棟方志功に由来があり、その作品がサロンに飾られています。ありがちな温泉地の休憩スペースとは異なり「サロン」と呼ぶにピッタリな空間は、休憩だけでなく物事に集中できる場所にもなっています。

酸ヶ湯温泉でバケーション(Vacation)

ネットワーク環境が整ったおかげで、ワークとしても利用できる酸ヶ湯温泉旅館ですが、青森市街地(青森駅)から車で約1時間の距離にあり、近隣には温泉街にありがちな飲み屋さんもなければコンビニエンスストアもスターバックスコーヒーもない、人里離れた大自然の懐に抱かれた場所にあります。
そんな酸ヶ湯温泉でのお楽しみといえば、もちろん温泉ですが、その他に自然の中でのアクティビティも大きな魅力であり、宿に訪れる人の目的にもなっています。
冬季はスノーボードやスノーシューなどを楽しむ人が中心ですが、そんな装備がなくても、宿から5分(積雪時は10分)ほど歩いたところにある地獄沼までの散歩は、自宅からコンビニエンスストアに行くよりも近くで味わえる感動が待っています。

地獄沼は、火口跡の近くから湧き出た温泉によって生まれた沼で、現在でも硫黄を含んだガスや温泉が噴出していて生きている大地の息吹を感じることができる場所です。

また、八甲田ロープウェイを使って山頂まで登れば、春にはブナの新緑、夏には高山植物、秋には紅葉、そして冬には樹氷やスノーモンスターなど、自然が創り出した芸術が疲れた身体と心を癒やしてくれます。

雪の宮殿イグルーの中でワーク?

 酸ヶ湯温泉旅館では、5年前から青森大学の先生による指導の元、この季節に訪れる宿泊客に楽しんでもらおうと宿の敷地内にigloo(イグルー)作りをはじめました。
イグルーはカナダ北部のイヌイットの言葉でhouse=iglu(英語igloo)が語源とされていて、雪をらせん状に積み重ねて作った簡易のシェルターです、入口部分は狭くて、頭をかがめてはいらないとぶつけてしまいますが、中の空間は大人が立つこともできる居住性のある雪壕です。
酸ヶ湯温泉では冬季の平均最高気温は0°以下になりますが、このイグルーの中では風が吹き込んでこないために体感温度が下がることがなく、意外なほど暖かく感じます。

このイグルーの中でワーケーションができるのではないかと、試しにMacBookProを持ち込んでみたところ、中には雪のテーブルがあり、キータッチにはまったく支障はありません、またCPUの熱暴走の心配がないためパソコンにはいい環境かと思いましたが、人間がここで長時間仕事をするにはちょっと?無理がありそうです。
せっかく宿のスタッフが作ってくれたイグルーなので、ここは素直に普段味わう事ができない雪壕体験を楽しむのが正しい選択かと思います。

酸ヶ湯温泉でワーケーション

 コロナ禍以降、通信インフラの整備が進んだことでネットワーク環境さえあれば、働く場所を問わないといった、テレワーク(在宅勤務)やワーケーションを促進する企業が増えてきました。
とはいえ、テレワークとは違ってワーケーションとはすべてが「仕事(ワーク)」ではなく、「バケーション(休暇)」の意味も含んだ言葉です。
青森県酸ヶ湯温泉旅館は、大自然に囲まれた中にあり、その自然エネルギーが生み出した温泉は多忙な現代人にリフレッシュ効果を与えてくれます。
そういった環境の中では、仕事はほどほどに、普段なかなかな読むことができなかった本と向き合い、友人に手紙を書くなど、日常とは異なる時間を過ごしながら、次に繋がるクリエティブな発想やアイデアを生み出す場所として、ここ酸ヶ湯温泉旅館は相応しいワーケーション空間だと感じます。

To be continued

次回「酸ヶ湯温泉でワーケーション」後編では、ワーケションで活躍してくれる、筆記具やノート、また旅がより一層楽しくなる文具を紹介します。

この記事を書いた人

出雲義和
出雲義和
文具ライター、システム手帳から綴じノートまで複数の手帳を使い分ける、手帳歴40年のマルチユーザー。
「趣味の文具箱」「ジブン手帳公式ガイドブック」などの文具雑誌や書籍をはじめ、旅行ライターとしても執筆活動を行い、文具と旅の親和性を追い求める事をライフワークとしている。
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