ストーリーの重要性
今、日本だけで購入できる万年筆というのは一体何本ぐらいあるのだろうか?
大型の文具店の万年筆売り場には国内、国外を問わず、実に様々な万年筆が並んでいる。デザインが凝っているものから、シンプルなもの、書き味の良いもの、美しい色の軸、低重心万年筆など、見た目だけではなく、書き心地も千差万別で、選ぶのに一苦労することもある。
さらに、最近ではそのお店でしか買うことができないオリジナルの万年筆もあちこちから出ていて、コレクターはそれらの万年筆が発売されるたびに、自分の物欲とお財布の中身を天秤にかけ、葛藤する日々を送ることになるのだ。
さらにそういった情報がSNSを駆け巡り、万年筆好きはさらにどの万年筆をどのタイミングで購入すれば良いのかということを考えなくてはならなくなる。
しかし、最近ぼくが思うのは、どんなものにもストーリーがあるもの、その商品のコンセプトがはっきりしているものが人々に受け入れられるのではないかということ。
ただ流行に乗っかって、商品を作り、売れば良い、という時代ではなくなったような気がする。
その商品がどういうコンセプトのもとで作られ、そして、メーカーなり文具店なりがどういう想いで世に出したのかということが明確なものに人々は魅力を感じるのだ。
今日ご紹介するPentの万年筆はまさにそんなコンセプトに魅力が感じられる商品と言えるだろう。
コンセプトは幻想的な夜空
Pentとセーラー万年筆がコラボレーションした「天空幻想」は、その名前からして魅力的だ。夜空に輝く星々や、その星にまつわる様々なストーリーをコンセプトにした万年筆で、その壮大なロマンがこの一本に凝縮されている。
まず、この「天空幻想」を手にして目に入るのがその美しいコバルトブルーの軸だ。深い青色のスケルトンは宇宙を表しているのだとか。
そして、良く見るとその軸に細かい無数のラメが施されている。このラメは星々をイメージしている。
さらに、この万年筆はそれだけではない。キャップやリング、ペン先はすべてピンクゴールドで統一されているのだが、これらは銀河の輝きを表しているのだ。つまり、まさにこの万年筆は一本まるごと「天空幻想」の世界を再現しているのだと言えるだろう。
青の魅力
ぼくは何度もあちこちで書いているのだが、ターコイズを含む青系の色が好きだ。子どもの頃から青が好きで、ぼくのことを昔から良く知っている人は「本当に青が好きだったよね」と呆れられるほど好きな色だ。
青というのは、空だとか海を想起させる色でもある。自己分析をすると、子どもの頃から空を見上げるのが大好きだったし、鎌倉に住んでいたこともあり、海に対する憧れも強い。だから必然と青が好きになったのではないかと思うのだ。
この「天空幻想」は、さらにぼくの青好きということに加えて、神秘的なものや、宇宙をイメージしたものが好きだという部分もくすぐってくれる。子どもの頃から占いや宇宙に関する様々なことに興味があったので、まさにそんなぼくにぴったりのコンセプトの万年筆なのである。
コンセプトにフィットしたプロフィットレアロ
この万年筆のベースとなっているのはセーラー万年筆のプロフィットレアロだ。プロフィットは、プロギアと並びセーラーの代表的な万年筆の一つだが、プロギアの天冠とお尻の部分が平らなのに対し、プロフィットはそれらが丸みを帯びているのが特徴的だ。全体的に繭のような形になっており、そこがまた宇宙的なコンセプトにぴったりだと思う。
レアロの特徴はコンバーターやカートリッジではなく、吸入式であること。なので、インクさえ手元にあれば、すぐにそのインクを吸入して使うことができる。
ぼくが選んだニブは細字タイプなのだが、程よいしなやかさがあり、書き心地はとても良い。手に負担がかからないので、長時間の筆記でも肩や腕が疲れるということもない。
これも何度も書いていることだが、万年筆というのは、文字を書いている間、ずっと視界に入ってくるものである。意識する、しないにかかわらず、常に視界にあるので、やはり気分が高まるものを持ちたいと常に思っている。そういう意味でも、この神秘的な世界を封じ込めたようなストーリーやコンセプトのしっかりとした「天空幻想」は書く時に気持ちが高まる万年筆でもあるのだ。
アストロロジーと一緒に使いたい
先日発売されたPentの複合筆記具「アストロロジー」との組み合わせて使っても面白いだろう。「アストロロジー」は、ネイビーの軸と、ローズゴールドの金属パーツという組み合わせに、星座をモチーフとした柄が描かれているので、この「天空幻想」のコンセプトともぴったりなのだ。
宇宙の神秘を常に感じながら文章を綴ってみると、それだけで気分が高揚し、すらすらと文章を紡ぐことができるような気がする。
<この記事に登場する万年筆>
・Pent×セーラー万年筆 プロフィットレアロ ピンクゴールド 天空幻想
・Pent 複合筆記具 アストロロジー ~ASTROLOGY~
この記事を書いた人
- 文具ライター、山田詠美研究家。雑誌『趣味の文具箱』にてインクのコラムを連載中。好きになるととことん追求しないと気が済まない性格。これまでに集めたインクは2000色を超える(2018年10月現在)。インクや万年筆の他に、香水、マステ、手ぬぐいなどにも興味がある。最近は落語、文楽、歌舞伎などの古典芸能にもはまりつつある。
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