万年筆の書き心地はそのペン先の素材、たとえばステンレススティール(いわゆる鉄ペンや白ペン)や、金ペンと呼ばれる14金や21金などの数値で表される金の含有量で語られるペン先などで変わります。また、私たちが直接触れる軸も素材によっていろんな顔を見せてくれます。
万年筆の軸に使われる素材には、オーソドックスなプラスティック樹脂や高価なレジンをつかった物、アルミやステンレスといった金属に加えて、屋久杉やブライヤー、スネークウッドといった天然木材を使用した物など多くの種類があります。
どの軸にもそれぞれに個性があり、これらすべてが万年筆を楽しむ醍醐味といえます。
これら主流の素材の他に、アセテート樹脂やセルロイド樹脂、またアクリル樹脂などを使った軸は、現在製造できるメーカーが少ないことから、万年筆愛好家のあいだで人気を集めています。
受け継がれた魂
大阪府東大阪市は、「モノ作り」の街として高い技術とクオリティーを誇る工場が集まるエリアで、その一角にある、大西製作所もまた世界から注目を集める工場のひとつです。
古くからの万年筆ファンなら「カトウセイサクショ(加藤製作所)」(屋号はカタカナ表記)の名前を記憶されているひとも多いのではないでしょうか?1961年「スペースマン」という世界でも珍しいセルロイド万年筆を世に送り出し、ビスコンティ社の万年筆も手掛けるなど、世界が憧れる筆記具を作ってきました。
しかし、2010年に加藤清氏が亡くなられ、その技術は途絶えてしまうのではと心配されましたが、加藤氏の元で研鑽を積んでいた大西慶造氏がその技術とスピリッツを引き継がれることになりました。
筆記具の命が生まれる場所
カトウセイサクショの遺伝子を引き継ぐ大西製作所もセルロイド樹脂やアセテート樹脂を使った筆記具は、1本1本すべてが手作業なために大量製産することができず、1日に10本程度が限界とされています。
はじめて、大西製作所を訊ねた時、小さな町工場の入口から入った奥には、轆轤(ろくろ)など軸を加工するための工作機器が並び、アセテート樹脂やセルロイド樹脂などの材料が筆記具として命を吹き込まれる瞬間を待ちわびているようでした。
工作機械と向かい合う大西慶造氏の姿は、工場の工員ではなく、陶芸家や仏師といった匠のようなオーラを放っていいました。
そこで生まれたばかりの万年筆を手に取ってみると、これまでのプラスチック樹脂とはちょっと違うウエット感が指にすっと馴染んでいくような感覚を今でもおぼえています。
万年筆を愛する人のための1本
現在は、セルロイド樹脂からアセテート樹脂の万年筆が中心になっていますが、どちらも加工はとても難しく、その価値は計り知れません。
万年筆をこよなく愛するひと、世界がうらやむ日本の技術を手にしたいというひとに、ぜひ愛用の1本に加えて欲しい大西製作所の万年筆です。
Pent〈ペント〉 万年筆 by 大西製作所 特別生産品 オノトタイプ
https://www.pen-house.net/category/PENT_ONISHI_35/
この記事を書いた人
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文具ライター、システム手帳から綴じノートまで複数の手帳を使い分ける、手帳歴40年のマルチユーザー。
「趣味の文具箱」「ジブン手帳公式ガイドブック」などの文具雑誌や書籍をはじめ、旅行ライターとしても執筆活動を行い、文具と旅の親和性を追い求める事をライフワークとしている。
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