文房具・万年筆に関わる仕事をさせていただいている関係で、初心者向けの万年筆について相談を受ける機会があります、予算でオススメを訪ねられるケースがほとんどですが、まれに「初心者にはどんな字幅がいいですか?」という質問もやってきます。
字幅というものは、細いか太いかの感じ方に個人差があって、一概に「細字がいいですよ!」とは簡単に薦め辛い点があります。
ということで、今回は万年筆の字幅についての(やや独断的)な考察をお届けします。
〇ポイント1「万年筆の字幅の違いを知る」
万年筆の専門店へいくと、同メーカーや同じシリーズ(見た目はまったく同じ)でも、店頭に複数本並んでいる光景を目にします。
よく見るとプライスカードに、FとかMとかアルファベットの文字が表記されています。
この記号は、万年筆の字幅を表したもので、たとえばドイツのブランドLAMYのsafariシリーズには、FE・F・M・B(海外モデル)の種類があり、国内メーカーのパイロットコーポレーションではさらに細かく分類された字幅が存在しますが、一般的にEF(極細)F(細字)M(中字)B(太字)がスタンダードになります。
〇ポイント2「どんな用紙に筆記するの?」
筆記対象となるノートや手帳から字幅について考えてみましょう。
・A5サイズノート
学習や会議のメモなどに使用するノートといえば、A5サイズのノートがスタンダードです。
このサイズならば、万年筆の字幅はF(細字)あるいは、M(中字)がオススメですが、使うノートに罫線の間隔を考慮に入れるとまだ微妙に変わってきます。
一般的なノートには、JIS・日本工業規格で定められた、A罫(6.0mm)とB罫(7.0mm)があります。
この他にも、C罫(5.0mm)、U罫(9.0mm)という規格もありますが、今回はごく一般的なA罫とB罫でお話しを進めます。
A罫とB罫では、1行の差はわずか1.0mmですが、コクヨ株式会社のキャンパスノートA5サイズを例にして、1行に20文字の筆記した場合にはA罫7mm×24行=480文字、B罫6mm×28行=560文字と、1ページで120文字の差になり、見た時の視認性は大きく変わります。
それぞれの特製から、文字を詰め込んで書きたい人には、A罫ノートにF(細字)あるいはEF(極細字)を、大きく視認性のある文字で書きたい人にはB罫にM(中字)がオススメとなります。
・方眼罫
あまり、自分の字に自信がないというユーザーでも、マス目に合わせた筆記をすることでバランスよく(見栄えのいい)見えるということに加えて、文字だけでなく表や図形なども書き込みやすいとあって、人気を集めているのが方眼罫です。
5mm方眼罫の場合、A罫やB罫よりも1行の高さが小さい(低い)ので、F(細字)やEF(極細字)が活躍しそうです。
・原稿用紙
原稿用紙?なんて、小学校の読書感想文でしか使ったことがない!という方がいるかもしれませんが、2015年に株式会社あたぼうから発売された「飾り原稿用紙」は文房具ファンの間でたちまち人気商品になり、いまでは筆記を楽しむためのツールとして、文具店の店頭の一角に並んでいます。そんな原稿用紙ユーザーには、F(細字)やM(中字)がマス目に合う、書きやすい字幅と言えます。
・手帳ユーザー
上記の他に、ハンディサイズのノート(モレスキンやロイヒトトゥルムに能率手帳など)を使っているユーザーも多いと思います。
A5サイズのノートに比べて筆記ができる面積が少なくて、1冊あたりの単価もそれなりに高価なので、1ページも無駄なくしっかりと書き込みたいという気持ちになり、そのためには、EF(極細)やF(細字)といった字幅が効率的といえます。
〇ポイント3「アナログならではの、臨機応変な筆記を楽しむ」
日本の常用漢字に登録されている文字数は2136文字(2010年内閣告知)で、こちらはネットから拾った情報なので話半分程度で聞いて欲しいのですが平均画数は10画から12画程度というデータがあるので、1文字10画+α程度の文字をしっかり書き込みたいのか、ざっくりした筆記でいいのかも字幅を選ぶポイントになるかな?と思います。
ちなみに常用漢字の中で1番画数の多い文字は「鬱」の29画で、これはA罫やB罫の範囲内ではとても書けそうもありません。
こんなふうに、画数の多い文字書くにはEF(極細)やF(細字)が必要ですが、B(太字)やC(極太)の万年筆を使った場合、ざっくりと略字や「カタカナ」で表記すれば、筆記としての役割は果たしてくれています。
また、罫線や枠に縛られずに、多少はみ出して書けるのも手書きならではの良さがそこにあり、臨機応変なアナログの魅力を満喫できるポイントです。
文具愛好家の考察
字幅について考えはじめると、使う手帳やノートのサイズをはじめ、紙質で異なる滲み方や使う人の体調や年齢による視覚の変化まで、考慮する要素が多すぎて万人が納得できる結論にはとても至りそうにはありませんが、上記の考察を参考にしてもらえれば、少しは字幅選びのお役にたてるはずです。
また、初心者やどんなノートに書くのかも決まっていないという人には、あえてM(中字)を推します。
ボク自身がはじめて手にした万年筆は、30年前に知人からもらったパイロットコーポレーションのカスタム74のM(中字)でしたが、特別に細かい文字の筆記をするのでない限り、A罫でもB罫でもそつなくこなしてくれました。
その後、LAMYsafariシリーズではFE(極細)F(細字)に傾き、最近ではパイロットのカスタム743のB(太字)、プラチナ万年筆のセンチュリー#3776のC(極太)に魅了されています。
万年筆の字幅にはそれぞれの役割というものがあり、「適材適所」の用途に合わせた使い方でよりパフォーマンスを発揮します。
いろいろな字幅の万年筆を試していただき、いまの自分にぴったりな万年筆を見つけて欲しいと思います。
この記事を書いた人
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文具ライター、システム手帳から綴じノートまで複数の手帳を使い分ける、手帳歴40年のマルチユーザー。
「趣味の文具箱」「ジブン手帳公式ガイドブック」などの文具雑誌や書籍をはじめ、旅行ライターとしても執筆活動を行い、文具と旅の親和性を追い求める事をライフワークとしている。
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