みなさま、ごきげんいかかですか。涼しく成り候。嬉。
秋から冬への季節グラデにテンション↑の朝比奈斎(冬生まれ)が
「月鈴子」のお色見本を作ります。どうぞよしなに。
「お、今回は入りが早いじゃん?」
御意。
「もうひとつの見本原稿」にて暖機済みだからでございます。
そちらも、どうぞよろしくお願い致し候。(礼深すぎて机に頭強打)
「月鈴子」とは鈴虫のこと。
鈴のような鳴き声と月夜をあわせる感覚、
なんともしみじみとした上品な季語です。
日本語って、ほんとうにすばらしい。
インク「月鈴子」のインクカード抜粋にて。
彩時記の箱デザイン、インクカード文言はどれも味わい深く、
インクを初めて使う時の素敵な誘導です。
レストランでギャルソンに丁寧に接客されている気分。
お色は赤味寄りの茶色。薄めるとスモーキーピンクです。
こっくり濃い茶色は、ザッハトルテのよう。
秋が深まるにつれ、身にまとうものも食べ物も
深い茶色が目を楽しませてくれます。
ペン先がしなるPILOTのエラボーは、
しなりが戻るときの弾力感覚が素晴らしい。
Gペン等しなるペン先は、「押しつけて開く」よりも
「開いた状態からもとに戻るとき」こそ、面白い部分です。
なにごとも押すより引くが魅力的。
光源氏の女性指南のようです。(褒め言葉)
パピルスノートは分厚いミニノート。
古代エジプトで発明された世界初の紙「パピルス」の名を冠すように、
表紙もお洒落な、使い勝手の良いノートです。万年筆もにじみにくい。
用紙の種類や各インクの粘度、筆圧や筆記具の形状、書く時の環境湿度によって
文字がにじむときは、
① 用紙を加工(ドーサやサイジングを軽めにほどこす)
② インクを増粘する(膠やアラビアゴムなどを少量加える)
③ 筆圧と書くスピードを変える(軽やかにすばやく)
②の場合は増粘剤が複数ありますが、インクと合わせる時は
インク瓶から使う分だけインクをとりわけて、
つけペン(ガラスペンや金属ペン等)で
その場で使い切るようにしましょう。万年筆に注入するのはダメ絶対、です。
水彩画のときと基本は同じですが、
文字書きの用紙は薄いものが多いので、
こころもち少な目の量で紙をいためないように、「さっとほどこす」ことが肝要です。
「膠もドーサもサイジング液もアラビアゴムもない!」
「ちょっとしか使わないのに丸々買いたくない!」
…。
と、いうときは!
ご家庭にあるアレで自己責任的に代替できるのです。
アレとはなにか。
次の機会でご紹介いたしたく候。(極限まで引っ張るゴムの如く)
「源氏物語」37帖「すずむし」より。↑
光源氏や女三宮など心模様はさておき(さておくのか)、
平安時代は「鈴虫はマツムシのこと、松虫はスズムシのこと」と逆。
武山隆昭氏の論によれば、
鈴認知の最初は、鷹狩(小鷹)の足等に付けた小さい鈴。
(ちり、ちりと軽く短く小さく鳴る)
↓
ちん、ちろ、りん、と短く鳴く秋の虫(マツムシ)
「鷹狩の鈴のようだねぇ。(しみじみ…)鈴虫と呼ぼう!
マツムシを鈴虫と詠む和歌数首が発生。
↓
その後、リーンと長く鳴る風鈴が普及。
リーンと長く鳴くスズムシは、貴族階級にて「松虫」と命名
長くリーンと鳴るのは「滝」や「松風」琴や笙など長く響く楽器を連想
↓
わびしさ、せつなさを連想=「人待つ」「松風のマツ」
「松」はめでたさも連想するので縁起よし。
秋になると複数買って庭に放ち秋の夜を演出する「松虫(実はスズムシ)」。
別件、貴族の屋敷の軒先に、魔除けとして下げられた風鈴は
現在の風鈴の軽やかな高い音とは違い、
古来からの銅鐸派生で、長く「低く」響くもの。
↓
「長く響くようにわびしくリーンと鳴く」
=秋風情の【人待つ】めでたき虫
リーンと長く鳴く虫は松虫!(実はスズムシ)
その後、長く高い音で鳴る風鈴の普及で、
「リーンと高く鳴る風鈴の響きに鳴き声が似ている」と
スズムシは鈴虫として呼ばれ始めます。
その後、徐々に現代と同じく、
丸い翅で高くリーンと鳴く黒茶系の虫=スズムシ
チンチロリンと短く鳴く黄褐色の虫=マツムシ
へと定着。
人の情緒は文化の礎。貴族の世から武士や庶民の世に。
その後、文語から口語へと次第に使う言葉も変わり、
科学的な情報も個人でかんたんに手に入るようになると、
ことば、名まえは変わっていきます。
しかし、その時代ごとに呼ばれた謂われは、
人の気持ちに寄り添うものとして、ほんのりと当時の片鱗を見せてくれます。
人々が良いものとして取り上げる虫は、
見た目の良い蝶や響きの良い秋の虫たちですが、
そのような世間一般とは異なる、物事の本質を見極めた、
とある姫のお話が個人的に大好きです。
堤中納言物語内「虫愛づる姫君」より抜粋。↓
月鈴子の赤味寄り茶色は「桜」ともよく合います。
このガラスペンはペン先のみを木軸に嵌めるもの。
つかわないときは逆向きで保管。素晴らしい!
小さな輪ゴム止めや側面の切り取り部分が、
持つときの指置きの目途として大変しっくりきます。
木軸の香りが、またなんとも芳しいのです。
ナイアード・リップバームの木製容器のような良い香り!
ここでの「むし」とは、爬虫類とか毛虫とか当時の人々が
ぞぞぞ、と思うもの。
現代ならともかく、平安期では姫のご両親の嘆きのとおり。
どの時代にも「ぶっとんだ人」は必ずいることでしょう。
眉も歯も髪も、そのままナチュラルな(現代人のような)姫。
固定観念の打破。自分らしく生きる。
どの時代でも、これはすごいパワーワードです。
「変人」扱いで周囲から理解を得られなくても平気な気質。
本人はいたって自然体。そもそも自分を「変だ」とは思っていないもの。
いいですねぇ。グッときます。水瓶座だろうか。Me Too.
案外、平安時代のあまたの姫君達もほんとうは
「…白塗りメイクめんどくさ!変な眉!お歯黒キモッ!装束重すぎ!」
と内心、もし然ることやし給ふとなむおぼゆ。
ノイエグレーは目に優しい筆記感覚も独特な紙。
メモパッドのミシン目は細かくて気持ちの良い切れ味です。
シャーロック・ホームズの物語一節をGペンで。
ノスタルジックな雰囲気に「月鈴子」の深い茶色はぴったり。
アーサー・コナン・ドイル卿のイラストと、
ホームズといえば1984年制作のあの名作アニメ、
近藤喜文デザインの「名探偵ホームズ」より。
アニメ「赤毛のアン」(曲は重鎮・三善晃!)のキャラクターデザインも近藤氏でした。
「赤毛のアン」に関しては、原作もアニメも瞳孔開き気味で夜もすがら語りたし以下略。
用紙:エイステーショナリー・SOLA ノート・バンクペーパー
Gペン:立川ピン製作所
併用インク:彩時記・桜
成熟した茶色で文をしたためるとき、
楽しい思い出や、人のあたたかな思いやりをふりかえる、
良い時間が過ごせそう。
箱もインク名も世界観も美しい、
月に向かってさやかに鳴る鈴虫の音色で、
秋の成熟色を体現する「月鈴子」。
インクの様々な楽しみ方の入り口となれば、幸いです。
洋の東西問わず、大昔から人間と密接な鈴。
その音色には浄化作用もあるそうな。
太古では巫女の神聖な祭事楽器・鈴を、カスタネットと合わせて
幼児期から身近に触れさせてくれる教育環境の良さよ。
くもりなき眼の幼子さながらに、
心に澱がたまる成人にこそ、
今、鈴よ、虫の音の如くやさしく響け。
あ、カラオケ鳴り物として御用達ですわいの。
なるほどねー!浄化!
と、一人タンバリンと鈴で
半月板割れるほど膝を連打の朝比奈斎(おひとり様上等・爬虫類大好き)でした。
では、また。
<今回のメインインク>
・Pent〈ペント〉 ボトルインク 彩時記 秋~autumn~ 月鈴子(げつれいし)
この記事を書いた人
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憧れの高級文具から教室に忘れ去られた名もなき消しゴムに至るまですべての文具を偏愛する者。
文字は下書き無し・肉付け塗り無しの一発書き。
文具・画材・多肉愛好家として雑貨店「SHOP511」にて多肉植物の育成販売と文具雑貨諸事の販売に携わる。好きな言葉は「玉石混淆」
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