万年筆が楽しい筆記具だと感じている人に、どこに魅力があるのか訊ねてみると、その書き心地だと答える人は少なくない。
ある筆記具の専門雑誌の編集者に「万年筆以外の筆記具の特集は組まないのか?」と訊ねたところ、「個体差が少なく、均一的な書き心地で面白みが少ないから」だと。
なるほど、万年筆ユーザーが日頃から感じている事を、見事に代弁してくれた答えが返ってきた。
残念ながら、現在ではボールペンやシャープペンシルの方がポピュラーな筆記具で、万年筆はマイノリティーな筆記具のポジションに位置している。
しかし、少数派が多数派に劣るということは決してない、むしろ万年筆ユーザーは書き心地の違いがわかる人間として誇って欲しい。
書き心地という視点から見て、五千円クラスの万年筆が10万円を超える万年筆に劣るのか?と問われると、必ずしもそうとは言い切れない。書き心地には定義がなく、主観で語られる場合が多い。同じ万年筆でもある人は柔らかい書き心地と評価する場合もあれば、適度の硬さと評価される場合もあって、どちらも間違いとは言えない。
とはいえ、個人の感想であっても極端にその評価が隔たる事はまれで、高額な万年筆に採用されている金ペンは、14金や18金など金の純度が高くなるほど柔らかな書き味になるといわれ、鉄ペン(スティールペン先)と呼ばれるものは、カリカリした硬めの書き味と評されるケースが多い。
金ペンには金ペンの良さが、鉄ペンにも鉄ペンの良さがあり、どちらが優れているといいづらい、初心者への助言であれば、ボールペンを使い慣れた人には、いきなり18金ペン先の万年筆よりも、硬めの書き味の鉄ペンを採用したモデルの方が、扱い易いと言える。
シュミットペン先のすすめ
書き心地のよさで定評のあるドイツのシュミット製のペン先は、鉄ペンでありながら金ペンに引けを取らない「しなり」の効いた書き心地が特徴で、ずるい言葉で例えるなら「いいとこ取り」のペン先といえる。さらに手頃な価格で購入できる点も大きなメリットと呼べるだろう。
シュミットは、金属部分の「ペン体」だけでなく、ペン体が包み込む黒い蛇腹状樹脂の部分「ペン芯」にもその技術が活かされていて、最適なインクフローを産むと同時に、航空機内での気圧変化にも対応出来るように設計されている。出張や旅行の多いユーザーには、安心して連れていける事が心強い。
筆者はシュミット製のペン先を使った万年筆Pentの「アダージョ」を愛用している、ひとまわり大きなペン先は筆記の際に得られる安定感に加えて、優しい書き心地の筆記体験を与えてくれている。そんな書き心地を楽しめるシュミットは鉄ペンを越えた先にあるペン先だと感じている。
鉄ペンと侮ることなかれ、鉄ペンはいま新しい時代を迎えているのかも知れない。
<この記事に登場する万年筆>
・Pent〈ペント〉 万年筆 シンフォニー アダージオ
この記事を書いた人
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文具ライター、システム手帳から綴じノートまで複数の手帳を使い分ける、手帳歴40年のマルチユーザー。
「趣味の文具箱」「ジブン手帳公式ガイドブック」などの文具雑誌や書籍をはじめ、旅行ライターとしても執筆活動を行い、文具と旅の親和性を追い求める事をライフワークとしている。
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