世界の筆記具ペンハウス

「色工房」荒木桜子さんにお会いしてきました。

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「色工房」荒木桜子さんにお会いしてきました。

京都の静かな山の中にひっそりと佇むガラス工房で、個性的なグラスや食器などのガラス作品を創りだしている荒木桜子さん。陶芸家の父を持ち、幼少の頃より和食器の世界に触れて育った荒木さんの美しくどこか温かみのある作品はどのようにして生まれるのか。ペンハウス山中が工房を訪ねてお話をお伺いしてきました。

(※当記事はペンハウス特集ページでご紹介した内容を元に一部加筆修正をして再掲載しております。)

世界の八割は陶器屋でできている

── まずはじめに「色工房」のある炭山工芸村について教えていただきたいのですが。このあたり一帯、陶器屋さんが多いのはなぜでしょう?

荒木さん:もともとは、もう50年ぐらいなるのかな。その頃は京都の五条が陶器屋さんが多かったんですけど、だんだんと宅地が広がってきて、窯をしないでくれって。煙やホコリが出るので出て行ってくれっていう風潮になってきたので。

若い人たちが独立するときに五条で場が取れない、だから何人かがまとまって最初この炭山工芸村にみんなで共同の窯を作って。安いところにみんなで敷地を買って長屋を建てて、それぞれ場所を割り振ってていう感じではじめたのがそもそものスタートなんです。それまではただの田舎っていうか(笑)
で、その時にうちの父が参加したメンバーのうちの一人だったと。

そしたらここは山科からも近いし、山の中のわりにはちょっと便利というのもあって後からどんどん陶器をする人がきて。集まってるほうが何かと便利なんでね。

── なるほど。

荒木さん:その後も、協同組合が作られたり、あと、一人で来られている若い方もいらっしゃいます。

「色工房」荒木桜子さんにお会いしてきました。

── ガラス作品を作られる前は、陶器を制作されていたんですか?

荒木さん:私はしてないです。

── ガラスのみ?

荒木さん:そうですね。

── なぜ陶器ではなく、ガラスで作品を作ろうと思ったのですか?

荒木さん:あ~、陶器とかって見慣れすぎると、今さら何作るっていうのもあったんですね。見過ぎてるじゃないですか、身近にありすぎたので。わたしの場合は好きとか嫌いとかいうよりは、ただ単にいっぱい知ってたし、これ以上自分が作りたい欲求は無いですし。普通に何も思わなかったです。陶器作ろうとか思わなかったです。

けど、まあどういったらいいのかな、社会に出るときに普通に働こうと思ったんですけど、普通に働くイメージができなくて…
だって小学校あるんですけど、この村に。私もそこに通ってたんですけど。分校なので全校生徒が30名を超えたことがないんですね。まあいわゆる田舎の学校ですね。その中で八割くらいが陶器屋さんの子弟なんですよ。

つまり入ってきた人ってみんな陶器屋さんですし、その人達の子供の世代が中心になるので、そうなると友達みんな陶器屋ですし。どこの家に遊びにいっても陶器屋(笑)
だからある歳まで世の中に対する認識って、世界は八割ぐらいが陶器屋でできていて、あとちょっと郵便局とかにつとめてるっていう(笑)

「色工房」荒木桜子さんにお会いしてきました。

荒木さん:もちろん中学や高校とかは普通の所に行くので、ドラえもんとか見ますから、分かってはくるんですけど、実感としてって言ったらいいんですかね、なんか身につかないっていうか、結局肌で分からないっていうところがあって。

だからOLになって、どんな生活をしていくのか私はイメージできなくて。これはなんかダメな気がするって、そういうのできないかもしれないと思って。だから結局自分が肌に馴染んでる生活っていったら、やはり作る方の仕事がいいのかなって思ったんですけど、そういう素養が一切なかったんで。別に美大に行ったわけじゃないですし、作ろうってほんとに二十歳まで思ってなかったので。

何かつくろうって思って、素材を考えて。陶器はもうちょっと却下だし(笑) 。何が好きかなって思って、ガラスって素材としてもともと好きだったし、ピカピカしたものが好きなんで(笑)
それから意識していろんなものを見だして、あちこちいったりして、ああこれ自分に合うなって思って。
で、そこからスタートですね。

「色工房」荒木桜子さんにお会いしてきました。

── 運命的にガラスに出会ったと。

荒木さん:いやいや、そんなっていうか、どちらかと言えば論理的だと思ってますけど(笑)
そう、だから周りでは一緒に勉強してた子達はどちらかと言うと、どこかでガラス作りを体験してピンときたとか、もうとにかくはじめたら面白くてしかたがなくて職業にしたいと思った人が多かったんで。
だから私みたいにガラスの学校に行くまで触ったことがないっていう人は少なかったですね。

「色」の意味

── 学校を出てすぐにこの工房を始めたのですか?

いえ、その学校にいった後、京都の北の方にある個人工房で一年くらい働かせてもらって。
う~ん、その時ね、窯が欲しくてしかたがなかったんです。急に「私、窯ほしい」って(笑)
まあ、あるところで長く働くっていうことも大事なんでしょうけど、なんか自分でもできるって思ったんです。その時に。

── ピンときた?

荒木さん:一人でやれるわって思い込みました。

── 思い込みました!?

荒木さん:思い込んでしまって(笑)
間違いのはじまりなんですけど…

── いやいや

荒木さん:で、とりあえず窯が欲しいってなって、とにかく若かったんで元気いっぱいだったんで。よし作ろうって思って。すっごい大変だったんですけど…

── 試行錯誤で

荒木さん:そう、泣けましたね。途中やめればよかったって思った。辛いし寒いし、なんでこんなことやろうと思ったんだろって(笑)

── それを乗り越えて今があると

荒木さん:そうなんですよ~

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── 色工房の「色」という文字が気になったのですが、何か意味があるのでしょうか?

荒木さん:あ~、これね。これはちょっとややこしいというか、ややこしくはないか。
名前を考えようと最初思ったんですけどね、何もピンとこなかったんですよ。で、とりあえず暫定的に「荒木ガラス工房」ってしてたんですけどね。
名前っていうのは大事じゃないですか。でもいろいろ考えてみたんですけど、どうもしっくりこないし。こう名前が降りてくるのを待とうと思って。しばらく「荒木ガラス工房」だったんですけど…

宗教的にどうこうっていう訳ではないんですが、般若心経の中に「色すなわちこれ空、空すなわちこれ色なり。」「色即是空。空即是色」という言葉があるんです。
超簡単に言ったら、目の前に見えている物も見えてないものも同じだ。というような意味合いなんですけど。そういう事を色々考えている時期があって。

「色」って欲望であったり人間の話ですよね。こっち側の話です。「空」っていうのは向こう側の話ですよね。でもそれもこれも一緒なんだよっていう意味合いがあってすごく心に引っかかっている言葉ではあったんです。
でもまあ自分はこっち側で一生懸命やっていかないといけないわけだし、商売をしていく以上どんなきれい事言ったって自分の欲望、他人の欲望を肯定していくことだから。だったら肯定しきろうっていう覚悟を自分に課そうと思ったんですね。

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荒木さん:キレイ事だけを述べるんではなくて、自分はその中で働いて自分の欲望であったり、他人の欲望を目の前に見せる。生きてる間は、目の前に見てそれを十分に肯定して生きていこうというような気持ちです。だから「空」ではなくって「色」の方を選ぼうと思ったんです。
すごくそういう事をいろいろ考えている時期があったので、ポカって、ああそうだって思って。その覚悟を常に心に持っておこうと。

── わあ聞いてよかったですこれ、凄い。

荒木さん:いやいや大した事じゃないんですよ。よくね、おばちゃんとかにガラスの色いろいろ綺麗やもんねって(笑)
それはそれでいいかなって思ってるんですけど。

好きなんです!万年筆

── 荒木さんの作品はガラスなのに、とてもあたたかい印象を受けます。意識されていたり、こだわりがあるのでしょうか?

荒木さん:自分のできることの中で、より気持ちのよい物をと。
私もともと和食器が好きなんですけど、これはある料理人がおっしゃってたんですが、「器っていうのは物を受け止めるものなんだ」というのがすごく心に残る言葉で。だから常に受け止められるかなっていう思いがあります。
できればあんまりピシっとしたものではなく、自分も使っていて割と柔らかなものの方がいろいろな物が入れられるっていうか。

だからそれほど洋食器のようにピシっとしたものを作りたい欲求もないですし。すごく綺麗なワイングラスを作りたいとかそういうのも無いですし。そういうものは、それが出来る人に任せればいいっていうのはあります。

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荒木さん:そういう事を思ってるのもあるので、自分のできる技術のなかでより良く見えるもの、それを活かせるものっていうのを選択してはいると思います。自分の武器を最大限に活かせる形であったり、雰囲気っていうのはあると思う。

できない事を無理してやっても…。そういう時期もあったんですけど、なにかそれをやっても自分にとって気持ちの良いものではないし、それは相手(使い手)にも伝わっているなって思ってしまうんで。

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── 今回当店とのコラボレーションで作成していただいたのは万年筆のインク壺です。今までにステーショナリーを作られた事はありますか?

荒木さん:ないです!

── 初?

荒木さん:はい。今までは食器とか花器であったり置物とかをちょこっと作ったことはありますが。まあ展示会の時とかが中心ですけど、趣味でちょこちょこ作ったりはしていました。

── 万年筆を使われる事はありますか?

荒木さん:好きなんです!万年筆。それもあったんです。今回お話をいただいた時に。
私手紙を書くのがすごい好きなんです。パソコンは使わないんですよね。使わないっていうのは嘘です(笑)
使えないんです…。インターネットもできないんですよ。

だからわたしのITツールは携帯、ガラケーのみなんです。しようしようと思ってるうちにやる機会を失って、もう今となったらもういいやってなって。もっとパソコンが簡単になった日に使える日がくるって思ってるくらいなんですけどね。

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荒木さん:でも昔から手紙を書くのがすごい好きで、よく女性でいませんでした?むやみになんか便箋買ったりとか、レターセット集めたりとか。

── いらっしゃいます(笑)

荒木さん:私大好きなほうで。今でも好きな方で、何買うって紙買うの好きですね。ハガキとか。
今ちょっと大人になったので和紙の文房具セットとかね(笑)
やっぱりそう言う時に万年筆って結構サラサラサラってヘタな字がね、それっぽく見えるんでね(笑)
なので私は字が上手ではないんですけど書くのが好きで。

万年筆って雰囲気が出るんで好きだったんで、お話をいただいた時にペンハウスさんのサイトを見せてもらって、そしたら「わっ楽しそう」って思って。ペン置きとかもあるじゃないですか。わあ素敵って。
で、私もこれに参加できるものならちょっといいかもしれないと思って。
あとあれとかもしますよ。蝋で…

── 封蝋、シーリングスタンプ?

荒木さん:はい。それにつける金箔とかも持ってます(笑)今はなかなか時間がなくてそこまではしないんですが。
仕事がらもそうなんですが、お手紙やお礼を書いたりすることが多いので、そう言う時にやっぱり一番伝えやすいじゃないですか。文章が少々ヘタでも字がヘタでも、そういう小道具とかで大事に思っているっていう事を伝えやすいかなって。その手間っていったらいいんですか。気持ちを伝えやすいなって思います。文房具楽しいですよね。

見ることって快楽なんだ

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── 今回のインク壺を制作する上で一番大変だった事はなんでしょうか?蓋のすり合わせ部分なんかは大変そうですが。

荒木さん:どうなんでしょう…
大変なのは雰囲気ですかね…。
眺めて美しいものであるかなっていう雰囲気。鑑賞に耐えられる雰囲気なのかなって気にします。テーブルの上にあったらどんな感じかなとか。というのを選別するときに、これはいいかな、わるいかな、どうだろなっていうのが結構難しいかな。
自分の中でこれはOKというものを選択するようにしています。

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── 最後に、今回の作品の中にストーリーや、こんな使い方をして欲しいみたいなものはありますか?

荒木さん:やっぱり道具として良いものでありたいとは思いますけど。それ以上にガラスって光との相性が一番言われることで。
たとえばビルの一室であったとしても毎日日照時間が変わっていきますよね。夕方の色もどんどん変わっていくし。ハって気がついたら同じ3時でも、夏の3時と冬の3時だと光が全然違うから、なんかビルの中でも、机の上でも、季節を映せるものだと思いますし。
光を映していくから、それを眺めた時に、ああもうこんな季節かって思ってもらったり。ちょっと一瞬逃げられるっていったら変だけど。そういうものであったらいいかなって。お茶みたいに。

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荒木さん:私最近座禅をしててね。禅寺でさせていただいてるんですけど。
ジーっとみるんですよ。ジーって一点を基本的に見なさいって言われるんですけど。25分くらい座禅を組んで座るわけですよ。
私は視点を揺らさないためにどこか決めるんですけど。植え込みがあってそこの葉っぱを、あの葉っぱぐらいって決めて見るんですけどね。夏に座禅したときに、基本的にそこから目を移さずにいて、座禅が終わってパッと目を移した時にちっちゃい花が咲いていたりするのを見たらすごい喜びがあって。
は!きれい、可愛らしいって思って。 なんていうか、見ることって快楽なんだなって。その時にすごく思ったんですよ。

だから人は美しいものとかを自然に見たいっていうのは、あれって快楽なんだなって思って。すごい喜びだったんですよ。
やっぱり私の作品もそういうものであれればと。一生懸命こう何かをしていて、ハーって思った時に見ると、なんかこうアドレナリンがフワ~ってなるような、そういうものであるといいなって思います。

── 本日は長い時間、たくさんの素敵なお話をありがとうございました。

荒木さん:こちらこそありがとうございます。

インク壷ができるまで

インク壷ができるまで

ガラスが溶けている大きな窯。24時間火がつけっぱなしになっており
中ではガラスが絶えず高温で溶かされている。

インク壷ができるまで

水面のように見えるのが溶けているガラス。

インク壷ができるまで

まずはこの窯から溶けたガラスが取り出され基本が成形されていく。

インク壷ができるまで

インク壷ができるまで

インク壷ができるまで

インク壷ができるまで

高温のガラスを少しずつ手作業で成形していく。

インク壷ができるまで

インク壷ができるまで

こちらは色付けに使用されるガラスのつぶ。青だけでも3系統をミックス。それぞれをあわせることで独特の色世界が生み出されている。

インク壷ができるまで

ガラスの温度が下がらないよう何度も何度もグローリーホールと呼ばれる窯で、あぶられながら作品に命が吹き込まれていく。

インク壷ができるまで

ガラスの加工は温度との兼ね合いも重要。工房では想像以上に早いスピードで作業が進められる。

インク壷ができるまで

写真左の方は作品作りのお手伝いをされていて、ご自身も作家として活躍されている真野美千代さん。二人の息のあった作業で作品がうまれ行く様は見事の一言。

インク壷ができるまで

インク壷ができるまで

加熱しては加工を繰り返し、ようやくひとつの作品が生まれる。

インク壷ができるまで

そうして完成された作品でも、まず自分の中で納得できるか、さらに使う人が納得するかを考えに考え抜き、採用されるのはごく僅か。

インク壷ができるまで

最後に除冷炉と呼ばれる装置に入れる。出来上がり時の温度は約700度!急速に冷やすと割れてしまうため一晩かけてゆっくりと常温まで冷ましていく。

インク壷ができるまで

蓋のすり合わせ部分を作成するために特別に作られた ダイヤモンドの工具。 本体と蓋が触れ合う部分は両方真円でないと合わないため慎重にひとつひとつ加工が進められる。

インク壷ができるまで

春先にお邪魔したにも関わらず工房内の温度はかなり高い。夏場はもっと暑いですと笑ってお話されていたお二人。すべては使う人のために考えて完成される色工房の作品たち。ひとりでも多くのかたにこの素晴らしい作品を手にしていただきたいと思います。

荒木桜子さんプロフィール
ガラス作家 荒木桜子(あらき おうこ)

1973年
京都炭山工芸村で生まれ、 父親である陶芸家の荒木義隆氏の元で、幼い頃から陶磁器に触れ、親しみ育つ。(※炭山工芸村:昭和43年に京都市東山の陶工たちが、炭山地区の村人との出会いを機に、過疎化の進む当村に入村し、作陶活動はじめ、京焼の新たなる窯業地としてスタートした。)

1996年
・立命館大学卒
1997年
・能登島ガラス工房にて修学
1999年
・炭山工芸村に色工房を設立
個展
2001年
・山口「器遊び」にて個展
・たち吉グループ展・ガラスと焼人の器展
・京都「ギャラリーにしかわ」にて二人展
2009年
・日本橋、新宿高島屋にて個展
以降、毎年4~5回、個展を続けている。

 

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