玉石参房 第十五房「夜間飛行」役目と責任 ― たいせつな、目にはみえない、永遠に続くもの ―
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玉石参房 第十五房「夜間飛行」役目と責任 ― たいせつな、目にはみえない、永遠に続くもの ―

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(対象小説のネタバレが含まれます。未読の方はご留意ください)

On ne voit bien qu’avec le cœur.
L’essentiel est invisible pour les yeux.
「ものごとはね、心で見なくてはよく見えない。
いちばんたいせつなことは、目に見えない。」

かの有名な「星の王子さま」(1943年)の一節を読むたびに、

金子みすゞ「星とたんぽぽ」(1925年・大正14年)の
「見えぬけれどもあるんだよ、
見えぬものでもあるんだよ。」
とあわせて

新約聖書コリントⅡ4:18
「わたしたちはみえるものにではなく、見えないものに目を注ぎます。
見えるものは過ぎ去りますが、見えないものは永遠に存続するからです」
を個人的に連想します。

金子みすゞは英国女流詩人クリスティーナ=ロセッティ超推しなので、
キリスト教の宗教観とも無縁ではなく、

一方、彼の場合は、両親から培われたキリスト教理念を土台として
「空を飛ぶ者だからこそ」彼独自の世界観が成り立ちました。

1903年にライト兄弟が飛行機で空を飛んでから、
各国であっという間に開発がすすみ、
1914年の第一次世界大戦では空中戦がおこなわれるほど、
飛行機技術はすさまじいスピードで、その後も年々発展するなか、

1900年生まれの彼は、伯爵の生まれであるにもかかわらず
飛行機へのあこがれを胸に、
民間航空界やフランス空軍で空を飛び続け、
第二次世界大戦中の1944年に空で散りました。

空を飛びながら世界的に有名な作品を書き残した彼、
アントワーヌ・マリー・ジャン=バティスト・ロジェド・サン=テグジュペリ(長!)
の小説「夜間飛行」、

のイメージインク「コトバノイロ・夜間飛行」にて
朝比奈斎(見えるものも見落とすフシアナ)が
お色見本を作ります。どうぞよしなに。

100均画用紙に、「夜間飛行」の色をおいてみると
濃い部分は深い夜空の色、
加水すると水色から淡いピンク~紫、蛍光水色などが。

3枚目は偶然にも、
登場人物ファビアンが搭乗機からみる景色の如く、

稲妻はしる夜空、渓谷なのか雲なのか分からぬ巨大な暗澹、
悪天候に揉まれた果てに、いずれ身を落とすであろう闇色の海の色に。

飛行機で空を駆るテグジュペリだからこそ表現できる地上の様子は、
たんなる景色としてではなく、
そこで生きる人々の息遣いと生活を感じさせる、美しい俯瞰図です。


用紙:山本紙業・コスモエアライト
ガラスペン:Paraglass・2way glass pen

物語の冒頭から、美しい端的な文章が真珠の首飾りのように連なり、
空の世界へと読者を視覚的に牽引します。


用紙:SAKAEテクニカルペーパー・イロフル
Gペン:ZEBRA・チタンGペンPRO
※軸はWRITER(廃番)10歳のわたくしが初めて買ったつけペン専用軸
併用インク:コトバノイロ檸檬

隅の飾りは、綿棒に万年筆インクをしみこませて、
ステンシルの枠の上でトントンたたきこんで作ったもの。

インクはそのままだとサラサラして枠下に潜り込みやすいので、
使用する分を別皿にとって、ほんの少し増粘しています。

ステンシル専用スティックとはまた趣が異なり、
色ムラも独特のものに。
今回は模様の外側を金色のペンで囲みました。

綿棒は乾き気味ぐらい少量のインク付着の場合と
(通常、ステンシルの使用インクはほんの少しだけ)、

綿球から滴るほどインクをたっぷり含ませた場合とでは
塗るコツが異なるので、それはまた次回にご紹介します。

民間航空会社の支配人・リヴィエールの苦渋の決断の場面を。
左頁はコトバノイロ「夜間飛行」と「檸檬」、
右頁はおなじく「夜間飛行」と彩時記「桜」を使って
1分後、5分後とこまかく続く物語とリヴィエールの心情を。


用紙::吉川紙商事株式会社・ノイエグレー
Gペン:立川ピン製作所・タチカワプレミアムセット
併用インク・コトバノイロ「檸檬」彩時記「桜」

無駄に慣れあわない孤高の人・リヴィエールの無情な決断は、
航空機事故発生というなかで、ひときわ際立ちます。
彼にとって大切なことは、「永遠に、進み続けること」。

物語の登場人物それぞれに与えられている「役目」、
(ファビアンの妻でさえも持つ役目)
それぞれが責任をもって「役目」を全うしつづけることこそ、
人間の生きる道であるという、確固たる理念。

実際に飛行機事故を何度も体験した満身創痍のテグジュペリが
それでも飛ぶことを止めなかったように、
理念に基づいたその決断の姿に、畏怖すら感じます。

身体全体を動かすために存在する、無数の細胞の存在意義のような。

だからといって、本心では人情を解さないわけではなく、
相手が見せるこまやかな機微に目を向けながらも、
あえて「寄り添いを、見せない」。

生活と仕事の理念のはざまに立つ人間の新しい価値観は、
現在もなお、読者の心をつかみます。

航空会社で働く人々の様子を反映するかのような
芯のある強くて濃い色のインク「夜間飛行」を加水していくと、
ふんわりやわらかな水色と、淡い紫やピンクが発現。

それを使って、ネモフィラ群生と一番星の空を。


用紙:マルマン・ヴィフアール中目
画筆:名村大成堂・ナムラFAN


用紙:Pent 桜ism 一筆箋
併用インク:コトバノイロ「檸檬」・彩時記「麗春」

桜ismの一筆箋は、美しいピンク色の可憐な桜のイラスト。
この綺麗な色のうえに、万年筆インクをかさねて、
葉桜やツツジ、アジサイ(概念)など、
季節に合わせた紙面を再構築。

下地の桜ピンクと、グラフィーロの独特な発色もあいまって
重ねた色は、意外な色味に。
桜からはじまり、その後も続く時のうつろいを表現しました。

冒頭のインク塗り画用紙は、
飛ぶあこがれを体現する蝶と、
郵便航空機になぞらえて、各カードや封筒類に形成。

封筒内飾り紙や、半透明封筒の飾り紙には濃い色で、
淡い色やにじみのある色紙では、ミニ封筒やカード、小袋に。

相手に贈る気持ちが込められた書簡や送付物を担って運び、
一直線に夜の空へ出発する航空会社の物語を反映して。

色にいざなわれて開ける扉の向こうにひろがる、
「夜間飛行」の世界。
インクの楽しみの入り口となれば幸いです。

子供の頃たった一度だけ鼻先でかいで瞬発的にのけぞった、
ゲランの香水「夜間飛行」。
今回はじめて自分の肌にのせてためしてみました。

さまざまな香水感想をSNSで読み、賛否両論のなか、
「飛行機の機体の金属感→ものすごい量の花束→淡いバニラ」
という香りの変遷記録に「???」となりつつも、

「わ!ほんと、金属っぽい!昭和のおじさんの香り!なるほどね!」
2時間後↓
「おぉう、とってもフローラル&石鹸の香り!昭和のおばさんの香り!さもあらんよ!」
さらに4時間後↓
「ほんとにバニラの香りするのかな(懐疑的ニヤニヤ)
…!!マジでバニラ!!ナニコレすげぇ!!(何度もかいでは絶叫)」

と、
テグジュペリやジャック・ゲランが構築する美しい世界観を台無しにする一人遊び的な朝比奈斎でした。
このインクのおかげで愛読書と愛用香水がふえた歓びよ。
ではまた。

<今回のメインインク>
Pent〈ペント〉 ボトルインク コトバノイロ 夜間飛行(やかんひこう)

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この記事を書いた人

朝比奈斎
朝比奈斎
憧れの高級文具から教室に忘れ去られた名もなき消しゴムに至るまですべての文具を偏愛する者。
文字は下書き無し・肉付け塗り無しの一発書き。
文具・画材・多肉愛好家として雑貨店「SHOP511」にて多肉植物の育成販売と文具雑貨諸事の販売に携わる。好きな言葉は「玉石混淆」

Twitter:@asahinaitsuku
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