「明日は海へ行くぞ!」と父の唐突な宣言により、
海なし内陸県にて育成中・幼少期のわたくしの脳内ギアは早々にトップに入り、
テレビで見る綺麗な海のイメージ妄想に
脳内アドレナリン大放出フルスロットル、
夜中過ぎても眠られず、眠られず。
浅い眠りも束の間、早朝出発でたたき起こされ
父の華麗なる荒い運転にて三半規管ゆさぶられまくりの顔面蒼白、
目にした初の海辺は海水浴客の激戦区、
まずは駐車場が非常(非情)に遠い遠いところから始まり、
青い海・彩ゆたかなパラソルの点在を横目に
灼熱アスファルト散歩地獄から解放されたと思いきや、
芋洗い状態の海辺は、人の数、人の心に比例して泥色に濁り、
目玉焼きができるんじゃないの、と思うほど熱く真っ黒な砂を
ナミブ砂漠の踊るトカゲのように踏み越えた先は、
学校のプールよりも「ぬるい」濁り水にて
足、そして身体を漬け、
「…遠くでみたら綺麗な青い海だったのに…」と
微妙な面持ちで浮き輪に身を任せていたところ、
足に激痛(クラゲ)、あわてて砂浜にあがったところで、
割れたビール瓶(昭和)で足裏裂傷、
べたべたざらざら&じくじくする激痛のなか、
帰路も父の華麗なるドライビングテクニックにて酔う、
だが絶対に吐くまいぞ、行きも大丈夫だったから帰りも乗り越える、
と
精神論で胃液を抑えていた努力もむなしく、
海の家の焼きそばと相性が悪かった妹が、車内で
隣のわたくしめがけて逆噴射(妹自身の服は無事)という
阿鼻叫喚の「完璧な海デビュー」であったことよ。
敵は身内にあり。
燦々(散々)たる「はじめの一歩」をのりこえて
家族旅行は回数を経るごとに経験値をあげていき、
最終的には「長良川で魚200匹釣る(昭和)」というほど
アウトドア好き家族イベントは通年敢行された中、
往復車酔いは例外なく(お父さん、いつもすごい運転ありがとう)
毎度の酔い止め錠剤をラムネ菓子のごとくかみ砕いた味と
遠くで輝く青い色の海が、わたくしの夏の思い出にて候。
その後、「近くで見てもちゃんと綺麗な海にて泳ぐ」へと
経験値アップデートできました。めでたし。
というわけで、
海の思い出反芻にてセルフ暖機やっと完了しましたので、
非常に美しい海の色のインク「幻蒼海」を、
遊園地でゆっくりかわいく回るコーヒーカップ乗車ですら酔う
朝比奈斎(三半規管最弱・遊園地のスナップはすべて顔が灰色)が、
お色見本を作ります。
どうぞよしなに。
「幻蒼海」の名のとおり、インク瓶を光に透かして見ると
とても美しい色が、たゆたいます。
この青の持つ力を、今回は特殊用紙のユポ紙にて、
ゴッホの海に関する名言を。
合成紙ユポは投票用紙にも使われてるアレ。
ポリプロピレンを引き延ばしているので厳密には紙ではないですが、
つるふわ独特な筆記感覚の表面が、万年筆インクを面白く分離させます。
筆記時の色味と、日を追うごとに
ゆっくりとさらに色が変化していく様子も醍醐味。
(細い線は若干太めに「育って」いきます)
ゴッホの人生、悲喜こもごもを踏まえて、
1色のうちの複数の分離色が、海の地平線下で現れる面白さ。
すべての感情を包む海の色は、たとえどんなにうちひしがれても
原点回帰やリセットを励ますような懐の深さ。
次は、平家物語より「壇ノ浦」から、
運命に翻弄される安徳天皇の最期の場面を
Gペンで表現しました。
用紙BunguBox:ヌルリフィル・チューリップノワール
Gペン:立川ピン製作所・日光Gペン特上品
800年前の幼い天皇がその運命に身を任せる悲しさと
大人のきたない策略、平家滅亡の憐れと不憫、
たとえ勝っても、その後も数奇な運命に翻弄される源氏方、
なにもかも無常、なにもかも沈めたまひぬ。
「幻蒼海」を薄めていくと分離色が出やすくなります。
ここでは加水した部分が分離し、薄紫やピンク色など
青のなかにほんのり含まれた赤系が顔を出します。
夕焼けの茜色の一部が海に反映されるような、
深い青の中に続く色とりどりの「波の下の都」をイメージしました。
ユポ以外の他の塗工紙や微塗工紙でも、表面の手触りが
「つるつる」「さらさら」していたり、
実際の筆記時に「ふかふか」とした接地感など、ユポと似た特徴があります。
ただし、「つるさら」「ふかふか」であっても、実際にインクを落としてみないと、
色の広がり方や、うまく分離がするかわからない面白さ、
物によっては、つるっとしたカレンダーの裏(塗工紙)などでも、
自分好みの発色をしたりなど、思わぬ収穫もあったりします。
北原白秋「全都覚醒賦」より篆書体にて。
天体図をイメージして表現しました。
山田耕筰と組んだ童謡「この道」等でも有名な白秋が、
早稲田大学時代に「新進詩人」として注目され始めた作品です。
漱石など他作家と同様に、デビュー作にはその後の作品の根底となる
「作家の主軸テーマ」が込められています。
自然描写の下で悲哀を乗り越える人間賛歌が、七五調のリズムに合わせた
煌めく単語として活き活きと綴られています。
万年筆ではインクフローを多めにして一線ずつ潤沢に書くと
濃い薄いのムラがでにくく、色が綺麗に残ります。
全国的にどの児童にも課せられる「朝顔の観察日記」。
ヒマワリ・ヘチマなども小学校で扱われますが、
小学1年生のメイン植物はアサガオ一択。
古くは奈良時代末期の渡来植物で薬効目的だったものが、
江戸時代、明治時代の大ブームを経て夏の朝顔市として定着し、
アサガオといえば夏、の風物詩になり、令和の今でもそれは続いています。
マスキングは色を塗った後に剥がして白い線を残すものですが、
今回はあえて剥がさず、画材としてグレーのマスキングインクを残し
アサガオの中央「星」部分と背景の白い面との差を出しました。
「幻蒼海」の名のごとく、まさに「幻」のような分離色がでました。
用紙BunguBox:ヌルリフィル・チューリップノワール
Gペン:立川ピン製作所・日光Gペン特上品
寺田寅彦「星」より。拡大してみると、
分離色のピンクや薄紫がほんのりと。
遠くの星々のごとくあれかし。
水はおおきくたまり、空の色と連動する。
「幻蒼海」は海から空へとその世界観を拡げ、
果ては地球の色として、宇宙の星々にまで届く色であれかし。
わくわくする夏の色に、それぞれの人生観を馳せると、
人の営み、日常のなかの悲しみも喜びも浮かび上がります。
太古から続く命のはじまりとおわりをも内包する海に向かい合うとき、
「幻蒼海」の深い海の青色は、すべてを包み慰め癒す。
箱もインク名も世界観も美しい、自然の色を体現する「幻蒼海」。
インクの様々な楽しみ方の入口となれば、幸いです。
海なし内陸県と
西日本そして東日本の海岸線に転居して海に接した生活経験から
この世はでっかい宝島、とは、さもありなん、
行ってみたいな余所の国、とも、さもありなん、
大きなものに向かう冒険心や希望と同時に、
つらきこともおおいなる青い姿にて慰めとならんことを。
昔は無邪気に海水浴をしたものの、
今ではSPF50以上の日焼け止め、フェイスシールド、日傘、手袋、
UV対応長袖、砂浜怪我対策にレインブーツにて
肌は1mmも出さぬ完全防御スタイルで海辺を散策。
何かの訓練か。人生の訓練か。
紫外線防御どころか、砂に埋まってる何かを撤去できそうな感じもします。
2022年秋冬にかけて「うる星やつら」も「チ。」も
「ゴールデンカムイ4期」も「進撃の巨人FINAL」も
「映画スラムダンク」も「モノノ怪」もありますので、
観ずに死ねるか!
諸訓練にて体力向上もくろみ酷暑を乗り切りたい所存の朝比奈斎(熱中症注意)でした。
ではまた。
<今回のメインインク>
・Pent〈ペント〉 ボトルインク 彩時記 夏~summer~ 幻蒼海(げんそうかい)
この記事を書いた人
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憧れの高級文具から教室に忘れ去られた名もなき消しゴムに至るまですべての文具を偏愛する者。
文字は下書き無し・肉付け塗り無しの一発書き。
文具・画材・多肉愛好家として雑貨店「SHOP511」にて多肉植物の育成販売と文具雑貨諸事の販売に携わる。好きな言葉は「玉石混淆」
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